デザイナー・ダイアリー:サポテカ(Designer Diary: Zapotec)
本記事は、「Calimala」、「Ragusa」、「メルフ」のデザイナーであり、近時は「サポテカ」が好評のデザイナーFabio Lopiano氏のデザイナーダイアリーの翻訳したものである。最新作である「サポテカ」の創作経緯に関する記事となっている。
日本でも「サポテカ」に関して好意的なプレイレポを多く見た(例えば、これやこれ)。5手番しかない、無駄のない美しいシステムという感想が印象的だった(※5手番しかないというのは議論があるところだが。)。そういう意味で、一定程度の関心があると思われ、本記事を訳出する意義があると考えた。
デザイナー・ダイアリーは創作活動の一端を説明してくれる。ボードゲームの製作に関わっている人にとっても多少なりとも意義があると思われる。
なお、Fabio Lopiano氏の「サポテカ」より前の3作品に関するインタビュー記事を翻訳したことがある。本記事末尾にリンクを貼っているので、ご興味があれば、併せて参照いただけると幸いである。
本記事の翻訳・公開に当たっては、Fabio Lopiano氏の許諾を得ている。元記事は以下のリンク先を参照されたい。ヘッダー画像はBGGから引用した(クレジット: Rainer Ahlfors)。
2019年の初めに、「サポテカ」となるゲームの製作に取り組み始めた。3月31日は、その年の仕事の最終日だった。その後、しばらくはボードゲームに専念しようとして、少し休みを取った(2年が経過したが、この休みはいまだに継続してる。)。
私は、ちょうど「メルフ」の作業を終えたところだったので、新しいゲームのためのアイディアをこねくり回し始めた(started playing around with)ところだった。前2作である「Ragusa」や「メルフ」のテーマに倣って、"ハウスプレイスメント"システムの他の使い方についてずっと考えていたところだった。
今回は、家を置く各場所(slots)にいくつかの特性を付したマップのあるゲームで(例えば、建物、区域等の種類があるといった特性(aspects))、各手番に置くことができる家に制限があるというアイディアだった。そういった特性は、ゲーム終了時の得点計算にも関係するようにした。
当初のアイディアは、建物を置く場所に3つの特性がある近代都市を築こうというものだった。3つの特性は、3種類の種類(住宅、商業、工業)、3種類の区域(マップ上に3つの区域)、建物が道路、鉄道、水路のいずれかに隣接しているかどうかというものだった。初期のボードの1つはこんな感じの見た目だった。
当時のアクション選択は、それぞれの両面にアイコンが描かれた9つのタイルに基づいたものだった。アイコンには、3種類の建物、3つの区域、そして3つの資源が描かれていた。
以下の図にあるように、各プレイヤーは、ゲーム開始時にグリッド上に9つの家(家の下のスペースには"+1"の記載がある。)を置いたプレイヤーボード(a player mat)と、サークルを覆う様々なディスクを持っている。
メインボード上には5個から7個のタイルが並んだ列があり、各プレイヤーボードには1個のタイルがある。自分の手番では、プレイヤーボード上のタイルを裏返し(左の場所から右の場所に移動させる。)、メインボードから1個のタイルを取って、先ほどの左の場所に置く。タイルを取った場所がどこかによって、(メインボード上に示されているとおりの)コインを手に入れたり失ったりする。
そして、2つのタイルを起動させる。
・リソースが記載されたタイルを起動させた場合、そのリソースに対応した行にある、見えた状態の"+1"の数だけそのリソースを得る。つまり、既に、"レンガ"の行(※プレイヤーボードの3×3のグリッドの一番上)の建物を2つ建てていたら、合計で3つのレンガを得る。
・区域のシールド(盾)が記載されたタイルを起動させた場合、その区域のシールドに対応した列に応じたお金を得る。つまり、その区域の家を2つ建てていたのであれば、3金を得る。
・建物の種類が記載されたタイルを起動させた場合、その種類の家を建てることができる(各種類の建物は、特定の1組のリソースが必要となる。)。家は、メインボード上の種類が合致していて、家を取った列の区域と同じ場所に置かれる。
家を置く代わりに、既に建築した家の下に1つのディスクを置いたり(それにより、家がアップグレードする)、マップ上の特別な建物(主要な建物の性質ごとに1個ある。)の場所にディスクを1つ置いたりすることができる。こういった、より大きな建物のある場所(※原文はlotsだが、slotsのタイポと思われる。)に乗せたディスクの数により、一致した特性に置かれた家がゲーム終了時のプレイヤーにどのくらいの点数を与えるのかが決まる。例えば、ゲーム終了時に埠頭の家に3つのディスクが置かれていれば、水路に隣接して置かれた家1つは3勝利点の価値がある。家がアップグレードされていたら、勝利点は2倍になる。プレイヤーボードからディスクを取り除くと、お金を消費して様々なボーナスを起動することができ、多様な能力を解放することにもなる。
この当初の試作品には、リソースグリッド、ハウスプレイスメント、コスト、それに得点方法といった「サポテカ」にみられる中心的なアイディアが既に多く盛り込まれている。
けれども、タイルのドラフトは、あまりうまく機能しなかった。というのも、欲しいタイルを取るというよりか、結局のところ、余裕をもって手に入れることができるタイルを取ることが多く、特に、プレイヤー人数が多いと、必要だったタイルが、いつも他のプレイヤーに取られてしまう事態が生じた。
その間、私は、PlaytestUKの定期的なイベントと、私の家で何人かの友人デザイナーを招いたテストが毎週行われていたおかげで、1週間にニ、三回のテストプレイを行うことができた。そのため、テストプレイの合間に、素早く繰り返しテストしたり、新しい変更を試してみたりすることができた。
最初に変更を加えた箇所の1つは、タイルをカードに替えてみた点だ。各カードには、リソースと建物の特性の両方が記載されていて、プレイヤーは手札を持って、次の手番でのドラフトにより手に入れるカードが何かによって左右されることなく、数手番先のことを計画できるようになった。カードには、特定の性質を持った自分の建物全てに適用される得点倍率も記載されていた。
次の写真は、実際のテストプレイで撮影したものだ。
このバージョン(2019年4月中旬以降)では、目の前にあるカードを場に出し、どのリソースの行を起動させるか、どの建物を建てるか、どの種類、どの区域、あるいは鉄道、道路、水路のいずれかに隣接させなければならないかを決めることになる。建物を配置すれば、ボード上の同じ場所からタイルを手に入れて、個人ボード上の先ほど家を取った同じ場所にタイルを置く。同じ行からタイルを集めていくと、追加のリソースを得る。
カードは、建物に対する得点倍にするものにもなるし、その他の性質を有している。例えば、あるカードは、オフィスを建設することができるとともに、プレイヤーが建設した、川に隣接する全ての建物に対して1勝利点を与える。
建物の下にディスクを置いて建物をアップグレードすると、建物の種類に応じたコストに加えて1金を支払うことになる。そして、アップグレードした建物に関連するボード上のタイルを手に入れる。
最後に、既にアップグレードした建物に2つ目のディスクを加えることができる(そして、レベル3の建物になる。)。同時に、ボードの左上の角にある9つの主要な建物の1つに別のディスクを1枚加えることができる。これらの建物は、特定の特徴を有する各建物に対して一定の勝利点を与えるし、その種類に応じたアップグレードされた建物に対して追加で勝利点を与える(例えば、左上の角の置き場所は、商業施設のレベル1/2/3に応じて、ゲーム終了時に左上の角に置かれたディスクの枚数×1/2/4勝利点を与える。)。
2019年5月上旬、Dávid Turcziの家で行われたテストプレイ会に行った(その時、私たち双方ともロンドンに住んでいた。)。私は、彼のゲームである「タワンティン・スウユ」を試して、その後、「メルフ」を遊んだ(その時、ゲームの主だったところはほとんど完成していたけれども、ソロモードについては作業中だった。そこで、師匠(master)から教えを請おう(looking for some advice)としていた。)。いつかの時に、Dávidが、もし、メソアメリカテーマのゲームを作ったら、喜んで、Board&Diceの友人に見せるよと、冗談半分で言ってきたので、それから数日の間、私は、自分の都市建設ゲームが何とかその設定に当てはまらないか調査をしていた。
サポテカ文明が中心地の周囲の3つの谷に沿って発展したことから、サポテカ文明がとてもうまくテーマに合致するということを見つけた。3つの区域がミトラ、エトラ、オコトランの3つの谷に、3種類の建物が神殿、村、とうもろこし畑に自然と変更され、水路、鉄道、道路の代わりに平原、森林、丘陵の3つの地形を使うことにした。これらは、設定から自然と現れたものだった。
一旦、こういう特定の3種類の建物を決めれば、必然的に、それぞれの建物が生む特別なリソースが決まっていく。とうもろこし畑はとうもろこし、神殿は司祭、村は交易の機会(金に抽象化した)を生み出す。
そして、"首都"アクションは、こういったリソースの使い道となり、金は交易タイルを利用できるようにするために使用される。当初は、単に変換するためのものだったのが、最終的には、多様な特殊能力に発展する。
とうもろこしはトラックを進めるために捧げられ、司祭は建物のリソースと一緒にピラミッドを建設するために使われる。
カード周り(card play)にも変更を加えて、カードが再利用されるようにした。ラウンドで使用されたカードは、次のラウンドでドラフトされるカードになった。そのカードは、同時に、印刷された番号がそのラウンドでの手番順を決めるような役割を担う。ドラフト後に余ったカードは、次のラウンドの得点カードになるなどの変更も加えた。
この新しいバージョンは、先手番か後手番かどうかによって、より緊張感を与えるものになった。そして、もし、最後の手番であれば、現在のラウンドと次のラウンドの両方の得点カードを達成できるような家を建築しようとする。
また、カードを再利用することで、最後の数ラウンドの得点カードは、既に何度か使用されていることが多くなることから、大量の得点を得る良い機会となる。最後に、プレイヤーは、次のラウンドでもう一度使うために既に使われているカードを取るか、カードから得点を得ようとしてそのままにしておくかといった面白い選択を迫られる。
また、ピラミッドの得点計算も微調整を施して、プレイヤーが一緒になって、より大きなピラミッドを建てようとするインセンティブが生まれるようにした(完成したピラミッドは、未完成のピラミッドよりも多くの得点が得られるが、1つのピラミッドにつき1手番で1階層しか建てることができない。)。
2019年6月上旬までに、十分良い状態となったゲームが出来上がったので、Dávidの家のテストプレイ会に持参した。彼が、(※ゲームの)プロトタイプを保管して、数日後のBoard&Diceとの会合に持って行った。
もう1つのプロトタイプを作成し、多くの場所に持っていくことにした。その頃に、ロンドンのアパートを離れて、週末はメルクシャム(※イングランドのウィルトシャーにある街)でのテストプレイイベントに参加し、ヨーロッパに向けて家具一式をトラックに乗せて、途中で色々な場所に立ち止まりながら、ドイツに旅行しに行った。ゲッティンゲン(※ドイツのニーダーザクセン州ゲッティンゲン郡にある都市)では、年に1度のゲームデザイナーの会合があった。ミラノに落ち着いてからは、8月から11月にかけて、イタリア各地で開催されたゲームイベントやテストプレイイベントに十数回参加して、ゲームデザインのあちこちに微修正を加えていった。
その間に、Board&Diceからも、素晴らしいフィードバックをもらって、彼らと喜んでこのゲームを契約することになった。
いくつかの最終調整を実装した。ゲームのラウンドを1つ減らし(6ラウンドから5ラウンドになった。)、宮殿を導入し(得点計算上は家2個分となるが、リソースは生み出さない。)、他のアイディアについて考えることにした。
2020年2月、飛行機でワルシャワに向かい、Board&Diceの人たちや他のデザイナーと一緒に、とうすぐ発表される彼らのゲームのために1週間没頭することになった(Dávid Turczi、Daniele Tascini、Adam Kwapiński、Board&Diceの素晴らしいメンバーと一緒に、「タワンティン・スウユ」、「テケン:太陽のオベリスク」、「タバヌシ:ウルの建築家たち」、「オリジンズ:ファーストビルダーズ」、「Dark Ages」もテストプレイした。)。
その週の間に、最後に残った詳細を仕上げ、貿易タイルを改良し、ゲームに変動性(variability)をもたらすために、儀式カードを導入した。
新型の感染症が発生する前に、「サポテカ」に関する作業の多くを終わらせたのは良かったと思う。継続中のパンデミックは、特に、完成したデザインについて広くテストプレイをすること、追加のデベロップ作業、世界的な流通の混乱といった、更なる課題を発生させているのは間違いない。そうだけれども、私は、必要とするあらゆる注意がゲームに対して払われていて、現在、配送や卸売のために世界中の様々な倉庫に輸送されているところあることがわかり、嬉しいよ。
※Fabio Lopiano氏のインタビュー記事は、以下のリンク先にある。