見出し画像

インタビュー:「The King is Dead」と「ブライアン・ボル」のデザイナーPeer Sylvester(Interview: Peer Sylvester, Designer of The King is Dead & Brian Boru)

本記事は、2021年10月23日にDiagonal Moveにて掲載され、2021年11月13日にBGG上にも掲載された「Interview: Peer Sylvester, Designer of The King is Dead & Brian Boru」の翻訳である。

先日、ケンビルさんから日本語版の発売がされたブライアン・ボル」を手がけたPeer Sylvester氏のインタビュー記事となる。Peer氏は、日本語版が発売されていないものの、日本において根強い人気のある「The King is Dead」(※「王は死んだ」とも呼ばれている。)のデザイナーでもある。

個人的には不思議なデザインをする人のように思っている。佳作を数多く手がけているPeer氏の語りは参考になることも多いだろう。それに、「ブライアン・ボル」の発売が予定されていることから、一定数の需要があるように思われる。

Takewatchさんの「ブライアン・ボル」に関する優れたレビュー記事が、既に存在しており、本記事を読むよりも、深く的確に「ブライアン・ボル」を読み解くことができるように思われる。その記事の中で本インタビューの要旨が記述されているものの、本記事では全訳しており、多少の差別化はできているように思われる。

なお、翻訳にあたっては、時間的に後に掲載されたBGGの記事のほうを参照しているが、画像は重複してなければ、双方の記事に掲載されたものを取り入れている。また、インタビュアーをDM(Diagonal Move)と略記し、インタビュイーをPS(Peer Sylvester)と略記している。

おって、元記事は以下のリンク先を参照されたい。ヘッダー画像は、BGGから引用させていただいた(左からクレジット: Julio Anderson NunesW. Eric Martin)

クレジット: Christian Leonhard

[編集者注記:このインタビューは、2021年10月にDiagonal Move上で初めて掲載されたものです。]

「The King Is Dead」、「The Lost Expedition」、そして「ブライアン・ボル」のデザイナーであるPeer Sylvesterが、Neil Bunkerが運営するDiagonal Moveに来てくれて、ゲームデザインにおけるキャリアについて語ってくれました。

DM:やぁ、Peer。今日は、お越しいただきまして誠にありがとうございます。まず、少しだけ自分自身のことや、どうやってゲームデザイナーになったのかについて教えていただけませんか。

PS:こんにちは。私は、ベルリンで数学と化学の教師をしている。2003年には、タイのバンコクで15か月間ほど住んでいたんだけど、振り返ってみると、「チェッカー」(※西洋碁)や「チェス」を除くとボードゲームが全くない環境だった。この方、ずっとボードゲームをしていたものだから、たくさんのプリント・アンド・プレイのゲームを遊び始めただけでなく、自分自身のアイディアを持つようになった。ドイツに戻ると、ハンブルグからベルリンに引っ越した。そこで、デザイナーのGünter Cornett(※「オイそれはオレの魚だぜ!」や「ボトルインプ」の作者)に出会って、ベルリンのゲームデザイン界を紹介してもらった。今では、アイディア彼らとテストプレイする環境がある!

DM:今では、「The King Is Dead」、「Village Green」、「The Lost Expedition」をデザインしたことで有名ですよね。ただ、これらの作品より前に多くのゲームをデザインされています。こういった初期の作品について教えていただけますか。また、どのようにして、最終的に広くみんなに"知られる"ことになったのでしょうか。

PS:多くのアイディアがあったから、初期の頃は、多くのゲームを試しに作ってみたんだ。初期に出版されたゲームは、HiKu Spieleから出たアブストラクトゲームで「Monochrom」と「Bamogo」があった。ベルリン出身のよく知られたゲームデザイナーであるHartmut Kommerellが、HiKuか小さいアブストラクトゲームを探しているということを教えてくれたので、その目標を念頭に置いて創作を始めたんだ。

バンコクで過ごした時に、タイの歴史に触れることになった。そして、タイ王国(かつてはシャム王国として知られていた)が植民地とはならなかったのはなぜかという疑問に興味を持った。その考えは、最終的に、「The King Is Dead」の前身となる「King of Siam」に結実した。私は、ゲッティンゲンのゲームデザイナーの会合でHistogameRichard Shakoに会った。そして、彼は、このゲームを出版することを快諾してくれたんだ。二人ともベルリンに住んでいるので、同じように別のゲームのプロトタイプをプレイしたよ。私は、彼に「Wir sind das Volk」(※「我ら人民!」でも知られている。)を見せると、彼はこのアイディアを気に入ってくれて、このゲームのデベロップを手伝ってくれた。そして、彼の関与が大きくなった結果、このゲームの共同デザイナーになることになった。

この時点では、主に小さい出版者と作業していたことから、世界的に知られているわけではなかった。ドイツでは、主にボードゲームブロガーとして知られていたと思う。その後、2014年に、Osprey GamesDuncan Molloyが、「King of Siam」の新版を作りたくて、私に連絡をしてきた。「King of Siam」を知っている人の中では、かなり評判が良かったからね。もちろん、私は、承諾して、これまで私のゲームを多く出版してくれたOsprey Gamesとの友情やつながりが生まれたんだ。

クレジット: richard sivel
クレジット: Diagonal Move

DM:今では、「The King Is Dead」には2つの版があり、初期のゲームをベースにしていますね。このゲームが、長年にわたりどのようにデベロップされて、このゲームが根強い人気を保つ理由はなんだと思いますか。

PS:「King of Siam」は、当初からうまく機能していた作品だった。テストプレイヤーから、自分自身で立ち回ろうとすると、3人の対戦相手に対してはあまりにもコントロールできる余地が少なすぎるという感想があったので、4人用ゲームからチーム制のゲームに変えた。デベロップにおいて、自分の本拠地(home provinces)を加えたが、それを別とすれば、プロトタイプとほとんど同じようにプレイすることとなる。「The King Is Dead」はボードを変更し、スタート時のキューブをランダムにすることで、多様性が増加した。新しいことを試したい経験豊富なゲーマーのためにMordredバリアントを付け加えた。正直にいえば、このバリアントには100%満足してなかったが、機能したんだ。非常に精度が高いわけではなかっただけなんだ。

クレジット: Neil Bunker

このゲームの新版は、またしても、新しいアート、マップ、設定となった。ゲームを終了するための中立勢力との同盟(ties)の数は、より脅威となるように3つに減らした。そして、Mordredの代わりに基本のアクションと交換することができる新しいカードが搭載された。私は、この新しいカードシステムが好きだ。私たちは、あり得る拡張要素がどうなるのかに関して多くのブレインストーミングをした。その結果、これがアイディアとして固まったんだ。もちろん、拡張ではなくて、新版という形になったけれどもね。

また、元版にあったキングメイカーが成立しないようなシステムは、途中のある時点で没になった。元々は、ゲーム中の本当に最後のカードを使うことで勝利できる場合に限り、そのカードをプレイすることになっていた。これは、3人プレイのゲームでしか影響がなく、非常にぎこちないものだった。そして、ほとんどのグループでは、このルールがなくとも、問題に直面することはなかった。そこで、このルールは消え去った。

このゲームに関してみんなが好きな点は、比較的短時間の濃密なゲームの中で多くの戦略が詰め込まれているところだと思う。そこまでルール量は多くないので、自分自身で言うとすれば、このゲームは非常に簡潔で美しい。みんな洗練されたゲームが好きだ。そして、そういうゲームは非常に直接的で、自分のアクションが直ちに他のプレイヤーに影響を与えるんだ。

クレジット: Neil Bunker
※元の画像のクレジットはTjark Schoenfeldのようだ。

DM:「The Lost Expedition」は、ジャングルの探索をテーマにした協力ゲームで、その難易度の高さで有名です。「The Lost Expedition」のデザインやデベロップについて教えていただけませんか。そして、どのようにして、ゲームデザインにおける難易度の設定を手がけているかも教えてください。

PS:私は、デイヴィッド・グランの「ロスト・シティZ 探検史上、最大の謎を追え」を読んだことがあって、探検家御一行がジャングルに赴いて、何に出くわすかわからないという物語に触発されたんだ。探検ゲームは、何を予期すべきか不確実であるせいで、少し厄介な面がある。けれど、最悪の事態に備えることができるようにしておきたい。着想を得るために、"まだ形になってない(loose)アイディアとコンセプトの巨大なファイル"という作動するプロトタイプにもまだできてないアイディアが全て含まれたファイルをスクロールしてみたんだ。"Wolfgang Kramerの「Take 5」を協力ゲームに"という1つのアイディアをちょうど読んだんだ。そして、このゲームの適切な主要メカニズム(motor)になると考えた。デザインの過程で、カードの同時選択があまり満足いくものではないことに気づいたが、それ以外の部分では、オリジナルアイディアの面影を見てとることができると思う。

難易度の観点では、このゲームは、主として数学的な要素取り入れて(with a dose of mathem@)テストプレイが行われた。本当に悪いカードの引き運を避けるために、私の記憶が正しければ、3枚目ごとに前進するシンボルを付した。その後、どのような遭遇が起こるかを調査して、ゲームの用語に置き換えていった。そしたら、テストプレイの問題で、少し微調整をしている。もし、プレイヤーが、そのゲームの大部分について、20%は成功で、20%は大失敗だったが、もっと多くの回数プレイすれば、この数値が上がるといった状況で、なんとか切り抜けた時間だったという感想を得られるのであれば、ゲームは正しいと感じられると思う。

だが、正直な話、ほとんど直感なんだよね……。

クレジット: Diagonal Move
「The Lost Expedition」は、「Judge Dredd: The Cursed Earth」としてリメイクされた。

DM:「Village Green」は、"ルールを覚えるのは簡単、習熟するのは難しい"といった調子のカードを中心に用いたパズルゲームです。どのようにして、"パズル"ゲームのデザインを手掛け始めるのでしょうか。

PS:私が母のために庭のゲームを作りたいと思ったという理由で、このゲームの制作が始まった。何年も前から、3色の異なる色の3種類の異なる花というアイディアがあった。しかし、このアイディアは、得点カードを見せるだけという代わりに、庭で得点カードをプレイするというアイディアが出るまで、ゲームとしてうまく機能することはなかった。そして、主に、余分なルールを削ぎ落とすといった作業になった。母と一緒にたくさんテストプレイをした。そして、彼女の好みからすると複雑すぎるということに気づくたびに、簡素化していった。幸いにも、ゲームの核心が、このゲームを素晴らしいものにしていて、ほかに追加のアイディアを必要としなかった。

したがって、またしても、全ての解決策は、"テストプレイ"と"直感"なんだ。これ以上に役に立つことがなくて申し訳ないね! デザインをしている時は、長い間、1つのアイディアをじっくり考えて、それを使ってできることが何かを考える。アイディアが手持ちであれば、それを実装していく。アイディアが手持ちでないなら、アイディアを書き出していく。それはつまり、私の"巨大なファイル"に長い時間溜まっていたアイディアが、もしかすると、以前までは予想もしなかった形で使われるかもしれないということだ。

クレジット: W. Eric Martin

DM:「North American Railways」は線路やマップのない18xx系ゲームとして説明されてきました。このゲームについて教えていただけませんか。また、"鉄道"ゲームの純粋な経済的な側面に焦点を当てた理由も教えてください。

PS:ある種の自分への挑戦だったんだ。別のゲームに関するものを読んでいて、それが何だったか覚えてないんだけれど、"18xx系のカードゲーム"として説明されていた。そして、考えるために読むのを中断したんだ。"私だったら、これに対してどのように手がけようとするだろうか? マップがなくても、ある種の地政学的な要素を取り入れることができるだろうか? 株式市場を面白くするにはどうしたらよいだろうか?" もし、18xx系のゲームで線路の構築を取り除いたら(あるいは、大幅に単純化したら)、自動的に徹底的な経済ゲームになる。

私のデザインのプロセスは好奇心を源泉にしている。以前に試されたことがない事柄に興味があるし、私のアイディアが最終的にどこに行き着くかが分かるのが好きだ。それは、テーマだったり、メカニズムだったり、XとYを掛け合わせたゲームの組合せだったりする。あるいは、今回のように、マップのない18xx系ゲームをどうやって作るかというものだったりする。

クレジット: Neil Bunker

DM:最新作は、歴史的なテーマで、ユーロゲームをベースにしたトリックテイキングである「ブライアン・ボル」ですね。もう少し、詳細を教えていただけませんか。

PS:ブライアン・ボルを題材としたゲームをデザインするというアイディアは、制作中から長らくあった。けど、最初のアイディアは全く機能しなかったんだ。ある日、通勤途中に、"トリックテイキングゲームをしていて、プレイする全てのカードがボード上で行われるアクションを決定するとしたらどうなるか?"という問いをじっくり考えた。このアイディアは、ブライアン・ボルが国内の競争に勝利することによって力を得ただけでなく、バイキングと戦ったり、さまざまな親族を嫁がせたり、カソリック教会と強く団結したりことによっても力を得たことから、テーマに非常によく合致した。この3つの要素が(※トリックテイキングにおける)スートとなった。

ところで、要素が付け加わったり取り除かれたりしたので、デベロップは非常に時間がかかった。しかし、維持した要素(そして、いまだに維持されている要素)は、トリックテイキングゲームのようには感じられないものだ。カードプレイは、ボード上で行うためのものにすぎないと同時に、(トリックに勝つことによって行うこととなる)都市に対する影響力を勝ち取るためのものでもある。このゲームでは、全ての要素がお互いに強くつながっている。全体としてみれば、私だったら、このゲームは、多様性が富んでいるテーマ性のあるユーロゲームだと説明するだろう。

クレジット: Neil Bunker

DM:今では、過去に出版されたゲームのポートフォリオから、世間からデザイナーとして認められていますが、成功と失望に対応するための戦略について変わったところはありますか。

PS:正直なところ、いまだに、自分自身が"ファン"がたくさんいる"よく知られたデザイナー"と考えることに対して変な感じがするんだ。どっちみち、幸せなことだけどね。みんなが好きになってくれるゲームを制作することで、私も嬉しくなるさ。けど、本当に自分で受け入れられていないよね。

今では、出版社に注目されるようになるのは、間違いなく簡単になった。だから、ゲームの出版社を見つけるのも簡単になったよ。けど、いまだに不合格になることも多い。これも、そういったことの一部にすぎない。適切な時に適切な人を見つけるには運が必要で、断られることも同じように良い方向になるのかもしれない。幸いにも、私は、教師として安定した職についてるし、自分のゲームに依存していない。だから、冷静に不合格を受け止めてるよ。

自分のゲームが発売される時は、いまだにピリピリしてしまうもので、たくさん売れることを期待しつつも、みんなが私のことをへぼデザイナー(a hack)と考えて、二度と私のゲームを見てくれなくなることを恐れてしまう。けれども、いまだに偶然見かけた全てのレビューを見ようとしているよ。みんながどんなふうな反応を示しているのか確かめるだけだけどね。もし、批判があれば、私がそれを理解しているかどうかを確認して、"うん、公正なものだ"と"こいつは完全に間違っている"(そんなに真面目に考えているわけじゃないよ)に分けようとする。

DM:あなたのデザインナーとしてのキャリアを通じてみると、あなたのゲームは、庭の設計から、噴火する火山や株式までといった豊富なメカニズムとテーマが特徴的になっています。あなたのゲーム全体に共通するテーマとはなんだと思いますか。

PS:難しい質問だよね! おそらく、"余分なルールがほとんどないが厳しい意思決定に満ちている"ところだね。

個人的には、意思決定は、大部分のゲームの中心に据えられている。「Village Green」では、プレイヤーは、どこにカードを置くべきかという意思決定をしなければならない。「The King Is Dead」では、自分の手番が来るたびに、"アクションをするかパスするか"という意思決定をしなければならないし、常にそれは厳しいものとなる。私のゲームのほとんどは、ある種の厳しい意思決定が特徴となっていると思うね。

また、私は、"下から上へ"ゲームをデザインする。具体的には、中核となる部分から始めて、私がしたかったことを実現させるゲームができるまでは、中核部分の周りを広げていく。他のデザイナーは、多くの要素を自分のゲームに収めようとする。そして、そういったゲームは、より多くの余分なルールを含むこととなる(私は、自分のやり方のほうが望ましいと言っているわけではないんだ。これは、趣味と目標が何かという問題だからね。私は、単に自分のゲームにはルールが少なめだと言っているにすぎない。)。

クレジット: W. Eric Martin

DM:最後に、デザイナーとしてのキャリアを始めようとしている新人デザイナーに対して何かアドバイスはありますか?

PS:全てを書き残しておくことだね! 全てだ! 設定、テーマ、コンセプト、あるいはメカニズムに関するあらゆるアイディアのことだ。時間があれば、それらを研ぎ澄ましていけばいい。時間がないとか、アイディアを有効に機能させる術がわからないのであれば、時間を置いておけば、おそらく後々のアイディアに用いることができるだろうさ。「Wir sind das Volk」の経済システムは、それ自体はうまく機能しないアブストラクトゲームとして始まったんだ。私の巨大なファイルがなければ、おそらくアイディアを忘れてしまっていただろう。より複雑なゲームにおいては、もっと多くのメカニズムが必要となって、それを求めてアクセスできる"パントリー(pantry, ※食品庫)"があれば良いよね。

けど、もっと重要なのは、自分の好きなデザインであることだ。自分が十分に納得していないアイディアであれば、やる気になるのは難しい。自分が購入したいと思うようなゲームをデザインしてほしい。それが基準となるに違いないさ! このようしておけば、物事が自分の思ったとおりにいかなかったとしても、少なくとも、自分の好きなゲームを制作したことになる。それは大いに価値があることだ。

以上

インタビュー記事としては、ほかに以下のものがある。

いいなと思ったら応援しよう!