リレー小説:ゆれる感情線③#電車にゆられて
秋様がリレー小説を募集しています。
というわけで、勝手にバトンを拾って、隣の駅へバトンを置いてみます。
「ゆれる感情線①」
「ゆれる感情線②」
男の人はごく自然な様子で返事をする。まるで一緒に乗っている友人に話しかけられたみたいだった。
「雰囲気が違ってすぐにはわからなかったけど、確か元は男性の曲だったと思うんです」
僕は古い記憶を思い出しながら続けた。その様子を間野は興味深そうに眺めている。
「そう。ごめん。原曲は知らないんだ。Michelle Branchが好きだから。昔よく彼女が真似してた」
優しい笑みを浮かべ、男の人はラジオをそっと撫でる。
「ちょっとあなた達! 非常識でしょう。それ止めなさいよ」
突然、甲高い声が電車内に響く。電車の入口近くで窮屈そうに立っていたおばさんが目を吊り上げてこっちを睨んでいた。
おそらくさっきの駅で乗車してきたのだろう。大音量で音楽が流れているのだ。非常識なのはわかっている。でも、このラジオは僕や間野のものではない。多分、この男の人のものでも。
おばさんが怒鳴った途端、周囲の人がさっと距離を取った。それを良いことにおばさんがこちらへ移動してくると、僕たちを睨みつける。
「早く止めなさいよ!」
紫がかった髪の生え際が少し汗ばんでいた。
僕たちのじゃない、と言いかけて止める。イライラしている人に余計なことは言わない方が良いだろう。
「あれ?」
僕はラジオに手を伸ばして、首を傾げた。「入」「切」のボタンがない。ラジオの周囲を眺めるが、どこにも電源らしいところが無かった。
「何しているのよ! さっさとしなさい!」
おばさんは僕からラジオをひったくるが、同じことに気がついたのだろう。苛立ちをぶつけるようにチューナーを回すと、耳障りな音が大音量でザーザーとなる。
「ああもう! うるさいわね!」
手のひらで思い切りラジオを叩く。すると耳障りな音が止み、軽快な音楽が流れ出す。
「さあ始まりました、Happy Monday Radio。お仕事を頑張っている人からお家でのんびりしている人まで、全国のリスナーさんへ今日も元気にレイナがお届けします」
可愛らしい女性の声だ。おばさんはその声を聴いた途端、ピタリと動きを止めた。
この記事が参加している募集
よろしければサポートをお願いします!サポートいただいた分は、クリエイティブでお返ししていきます。