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短編

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4000字~20000字程度の小説です。5~30分くらいで読めます。 10000字以上になるときは2、3回に分けますので、1つの記事で15分程度の目安です。
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#シロクマ文芸部

【短編小説】夢を見る#シロクマ文芸部

【短編小説】夢を見る#シロクマ文芸部

(読了目安6分/約4,400字)

 夢を見る妻の穏やかな表情に、私はそっと頬を緩ませる。彼女の桜色の唇がかすかに動き、何かの言葉を紡いだように見える。だが、その言葉は私には届かない。卵型のカプセルの中は“羊水”で満たされ、膝を抱えるようにして眠る彼女に触れることはかなわない。

 カプセルの窓にそっと手を触れると、柔らかな温もりを感じる。彼女の温もりを、沈丁花のような彼女の匂いを感じる。もちろん

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【短編小説】春と風#夜行バスに乗って#シロクマ文芸部

【短編小説】春と風#夜行バスに乗って#シロクマ文芸部

(読了目安7分/約4,900字+α)

『春と風林火山号に乗って新宿に行こう!』ツアーにご参加いただき、誠にありがとうございます。このバスは21時00分に出発し、途中〇〇サービスエリアに23時00分、△△サービスエリアに2時00分、〇△サービスエリアに4時00分、終点バスタ新宿へ6時00分到着予定です。私、乗合が運転手を務めます。どうぞ到着までよろしくお願いいたします。

23時00分 〇〇サービ

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【短編小説】愛は犬#シロクマ文芸部

【短編小説】愛は犬#シロクマ文芸部

(読了目安9分/約7,850字+α)

「愛は犬を連れてくる」

 突然聞こえてきた呟きに、我に返った。振り向くと、カウンターに腰かけた美女と目が合う。切れ長の瞳。顎のラインで切りそろえられた黒髪。その合間からキラリと光るイヤリング。スレンダーな四肢。細い首、手首、指先を飾るゴールドの装飾は生まれつきだと言われても信じそうなくらいなじんでいる。思わず絶句した僕の顔を舐めるように眺め、薄く笑う。

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【短編小説】平和とは#シロクマ文芸部

【短編小説】平和とは#シロクマ文芸部

(読了目安6分/約5,000字+α)

 平和とは何なのだろう。二か月前まであったものが平和、だったのだろうか。でももしも平和が安らぎなら、今の状態が平和なのかもしれない。いや、とにかく今はそんなことよりも。

 朝起きたら、隣に知らない男性が寝ていた。理由は想像もつかない。けどまあ、私の飲み過ぎが原因なのだろう。

 二十歳くらいのジャニーズみたいな整った顔。ドレープカーテン越しの微かな陽ざしの

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