WUY 始まりのつづき
大阪府和泉市の住宅街の一角にWUYの工房がある。
元々は縫製の作業場だった建物を偶然見つけて、大家さんに交渉して借りることとなった。内装はほとんど廃材でDIY。什器やソファ、テーブル、シンクなどほとんどが捨てられる予定だったものだ。
工房に入ると土間があり、左手には草木染めをするためのシンクが並んでいる。右手には乾燥した草木が吊るされたり引き出し一杯に入れられたりで良い香り。
ソファにはアユミさん、ショウゴさんのご夫婦と、いとこのシンさんの三人がテーブルを囲んでその香りの中でお仕事をしている。
いつも田舎の家の勝手口から「お邪魔します」と入ったような気持ちになる。奥から「いらっしゃい」と出てくるアユミさんのエプロン姿で更に勝手口感が増す。
つくることの始まり
草木染めされた服や生地が天井から吊るされ、それを乾かすための扇風機の風が心地良く、草木の香りで満ちた工房の中、ゆったりとお話を聞かせていただいた。
草木染めを始めるきっかけは子育て。子供と公園に出かけた際に拾った草木を家に持ち帰り、一緒に楽しんで生地を染めた。それが楽しくて続けていると、自然と周りから「ウチでも教えてほしい」と声がかかるので全て引き受けて家庭でできる草木染めを始めたことから今に繋がっている。
「芸術系の学校出たり、昔からの趣味とかじゃないんですね?」と短絡的な質問をしてしまったが、「そうなんですよ。特にこんなことがやりたかった。とか、何者かになろう。といったことは考えたことがない学生時代を過ごしてました。」と笑いながらお話しされるアユミさん。
色を使って遊ぶことは好きだったことくらいで、「これがやりたい!」という何かには出会わず過ごしてきたと。お母様の影響で幼児教育には関心があり、高校卒業後は幼児教育が学べる学校へ。卒業後はすぐに夫であり現在の仕事のパートナーでもあるショウゴさんとご結婚。子供にも恵まれて専業主婦として過ごしていた。
結婚して移り住んだ場所が今の工房のある和泉市。元々は兵庫県の自然豊かな場所で過ごしてきた事もあり、和泉市の環境に馴染むまで時間がかかった。
そんな自然の少ない環境の中で、子供にはその中でも自然に触れる機会をと思い、草木染めを始めることとなっていきます。
家庭の中でできるワークショップとして続けていたものが、徐々に色んなイベントに呼ばれるようになり、チャレンジをしていく中で草木染めをもっと知りたいと経験だけではなく知識まで深めていくことに。
気がつけば工房まで持ち、自分達が住む和泉市とも連携して草木染めを広めていく活動を行っている。
つくること
[草木染め]とは花や葉・茎・木の枝葉・樹皮など天然の植物を染料として染める方法を指す。
さらにWUYは家庭で気軽に染色ができることを広めるため、野菜の皮、ハーブ、緑茶や紅茶、コーヒーなども染料にして、アップサイクルに対して楽しみながら意識できるような取り組みをされています。
昔は家庭の台所で、家事のひとつとして行われていたという草木染め。植物の効能をうまく利用しながら衣服を染め、それによって身体のケアをする。
汚れれば染め直したりして一枚の貴重な服を大切にして暮らしていたそうです。
WUYを始めて7年経った今でも「草木染めは、やっぱええなぁと思います。」と語るアユミさん。
始めたきっかけも子育ての一環。その中で考えたのは子供の未来について、今の社会と環境はどうなのだろう?と。
大量生産で作られる衣服、そして消費され捨てられていく衣類破棄の問題。海外の労働環境にも目を向けた時、それに子供の未来を重ねると色んな思いがのしかかってきて辛くなった。
大きく物事を考えると気持ちが暗くなっていく。それと同時に日々が大事だと気付かされた。
その事を深く意識したのが、東日本大震災だった。
日々を大切に生きる。そして先人が残した自然にも優しく、人の心にも優しさが生まれる草木染めを日々の生活に取り入れる暮らしが暖かくなる。
その可能性を草木染めに感じて前に進んだ。
つくるのつづき
WUYは自己完結では成り立たない。誰かと関わってようやくスタートする。
伝統工芸としての敷居が高い染めを子供とも一緒にできるもっと身近なものにしたいという思いがある。それは10枚捨てる衣類があればそのうちの2着だけでも草木染めで続けて使うことができれば廃棄衣料と廃棄植物が減っていく世界が生まれる。そんな世界が来てほしい。
消費される社会の流れに沿って生きてきた学生時代。そこで残ったものはなんだったのか?そういう時代を通ったからこそ感じる自然や循環の世界の大切さ。
始まりは子供を自然に触れさせながら自分も楽しむため。そしてそれを一緒に楽しんでくれる友人の家で共有し、徐々に活動の幅は広がっていった。
草木染めに対する思いもそれと同じように広がり、深まってきました。と語るアユミさん。
「ローカルな場所としてのWUYをクリーニング屋さんのように使ってくれるようになっていきたいんです。」
その一歩として月に一回OPEN DAYを設けて工房を開放している。
会うといつも笑顔で迎えてくださるWUYさんの工房で「この汚れてしまって着れなくなったお気に入りの1着を頼みます」と預けるご近所さんが入っていく街の情景を思い浮かべると優しい気持ちになる。
これで1着捨てられる服が減り、お気に入りが増える。優しい世界。
「子供に対してこうあって欲しい。と願う自分を客観的に見て、自分は出来ているのか?と考えて、自立して楽しく生きている姿をまず自分が実現しなきゃと思うんです」
まずは自分から、そして子供たち、周りの人々、暮らしの中へ。煮詰められた草木、そして抽出された染料が生地に浸透していくように、WUYさんの想いが暮らしに浸透していく風景を思い浮かべた。
いつの間にか夕方になっている。家に子供が帰ってくる時間。
「そろそろ帰りますね。」と車に乗って工房を後に。
車の中でもほんのりWUYさんの工房の香りがした。