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DV男から抜け出せなかった頃のはなし

その人との出会いは冬の夜10時、ススキノの路上だった。


その寒い冬の日、男運のなさを嘆きながら泥酔していた私と親友。次の店を探して歩いていた時、二人組の男に声をかけられる。


「このあと一緒に飲みに行かない?」
いわゆるナンパである。


問題のその男の出で立ちは、ヴィトンのバッグにヴィトンのベルト、グッチのマフラー、レイバンのメガネ、バーバーリーのダウンというダサさと胡散臭さが爆発したセンスで包まれていた。


正常な思考回路だったら絶対についていかなかったはずなのだが、前の男とのトラブルでかなりメンタルがやられていたのと結構酔っていたのとちょっと顔がタイプだったし奢ってくれるというので一緒に飲みに行ってしまったのだ。


実際話して見るとびっくりするくらい意気投合して、なんだかすごい楽しくて、一目惚れではないけど二目惚れくらいだったのかもしれない。


出会い方が奇跡的だし、若い子がよく信じちゃう運命ってやつを感じてしまって、私も本当に頭がおかしかったし、相手はもっと頭がイカれていたので、出会ったその日の夜に付き合うことになったのだった。


付き合ってからバツイチで小学生くらいの子供がいて元嫁が育てているということを聞いた。20代の頃に好き好んでバツイチ子持ちを選ぶ女はいないと思うのだが、聞かされたのは付き合ってからだったし、あまり深く考えないようにしていた。でもご両親も良い人で、家族ぐるみのお付き合いをしていた。
私は多分ものすごい好きだったし、その男も私のことがものすごい好きだったし、性格も合って、なにより一緒にいてすごく楽しくて、結婚するという話が出ていたような気もするし、私の実家にも連れて行ったことがあったのだ。
彼氏を実家に連れて行くなんて高校生以来なかったことなので私の両親も結婚を視野に入れた相手なんだと思っていただろう。


うまくやっていたのだ。途中までは。


もともと酒癖は良い方ではなくお酒が入ると人格が変わることはあったが、最初のうちはそんなに実害がなかったので「酒癖悪い人だな」くらいの認識だった。

行動は段々とエスカレートするのだが、その頃には感覚が麻痺してしまっていた。

飲みに行くと朝方3時、4時に帰宅。その男は昼からのシフトも多かったが私は朝8時出勤のためすでに就寝中。しかし帰宅後無理やり起こされ、相手をしないとキレるということが増えていった。睡眠不足で仕事しなければならないので起こすのは勘弁して欲しいと頼むと、好きすぎるから帰ってきてから話がしたいのだと言う。普通の人はそこで、好きすぎて相手のことを思うならそんな時間に帰宅すんなよと一蹴するのだろうが、頭がおかしくなっている当時の私は、そんなに私のことが好きなら仕方ないね!と許してしまった。


ある日は4時に寿司折を持って帰ってきて、「なすちゃんの好きなマグロを買ってきたから食べて!起きて食べて!!」と騒ぎ立てる。
さすがに今寿司は食えないので朝に食べさせて、と布団の中からお願いするも、「せっかくマグロを買ってきたのに!!!!食べないなんて何事!」と逆上し、無理やりマグロを口に突っ込まれる。
こりゃー起きて食べないと布団がマグロまみれになってしまう、そう思って起きて寿司折を完食した午前4時。


マグロを口に突っ込まれた時点で別れる選択肢を思いつかないくらい洗脳されていたので、眠たいけどこんなに私のことを考えて私の好物を買ってきてくれるなんて愛されてる、とか思って寿司食ってたんですよね。


そのうちだんだんと、起こすときに手が出るようになってくる。
でも翌朝お酒が抜けていたら、昨日はひどいことしてごめんね、でも好きすぎるからだよ、と言ってくる。


この時点ではもう、完全にDV男の手中にはまっていた。

DV以外の出来事といえば、


エピソード①私の旅行中に家にデリヘル呼んだことが排水口から未使用のコンドームが発見されたことでバレた事件

エピソード②浮気してiPhoneを探すで居場所を突き止めた事件

エピソード③誕生日にパチスロやりに行って夜まで帰ってこなかった事件

エピソード④パチスロやるために30万ほど借金していた事件

エピソード⑤新規立ち上げの事業所に転職したはいいがかなりヤバイところで、その事業所のホームページの作成、ロゴの作成、勤務表の作成、月一のおたよりの作成などを私が請け負っていたが一銭ももらってない事件


などなどありましたが、洗脳って恐ろしいですね、このくらいでは全く別れようとは思いませんでした。


そんな私の洗脳が解ける事件が発生したのは雪まつり開催中の真冬の2月。

その日も酒に酔って帰ってきたDV男。
ふとしたきっかけで勃発したケンカの最中に私の男友達から着信があり、その画面を見て逆上したDV男。
「この男はいったい誰だ!!!なんで今電話かけてくるんだ!!!こんな電話捨ててやる!!!!!」


私のスマホを掴み、ベランダをあけてぶん投げる。

え!ベランダの下は駐車場!車に当たったらヤバイ!

動揺してあわててベランダに出て下を覗く。


その瞬間、後ろでピシャッ!と音がした。


「投げるわけないだろ。そこで少し頭を冷やせ。」

そう、窓を閉められたのだ。

2月の平均気温マイナス3℃の札幌。
しかも夜、しかもTシャツとハーフパンツ、裸足。

直感が告げた。
これは死ぬ。
コイツはヤバイ。

DV男を窓越しになんとか説得する。
10分ほどたっただろうか。少し冷静になったのか、男が鍵を開けてくれた。

鍵が開いた瞬間、ただ頭にあったのは逃げないと!という気持ちで、財布と携帯と鍵を掴んで玄関を飛び出した。

エレベーターの下ボタンを必死で連打する。早くこい、早くこい!

しかし男に追いつかれ、首根っこを掴まれて玄関まで引きずられて連れ戻され、また激ギレされる。

なんとしてでも逃げなければならない。男がタバコを吸いにベランダに出た瞬間、再び財布と携帯と鍵を掴んで家を飛び出した。

今度はエレベーターを待たず階段を駆け下りる。

必死で駆け下りる。

遠くから男の声がする。気がつかれた。

とにかくとにかく、今はここを離れなければ命の危険がある。

走って走って、必死で走って、駐車場まであと少し。

車に飛び乗ってエンジンをかける。

ミラーに男の姿が見えた。

アクセル全開で駐車場を飛び出す。

とにかく遠くに、追いかけて来られない所まで逃げないといけない。

逃げてる間もずっと電話がかかってくる。

怖い。
めちゃめちゃ怖い。

その時、恐怖という感情をようやく取り戻した。

何分か走ってコンビニの駐車場に止めた。
近くに住んでいた友達に連絡したらすぐに家に呼んでくれた。
その友達が私の代わりに電話に出て、家を出ていくようにも言ってくれた。


それからのことは詳しく覚えていない。その後紆余曲折を経て別れることにはなったのだが、同棲していたので出ていくにもお金がなくて無理だという。

敷金、礼金、引越し代と、処分してしまったので新しい家電家具を購入するためのお金が必要だと言ってくるクズぶり。

私もさすがにびた一文もお金は払いたくなかったので拒否していたが、結局別れたあとも家庭内別居状態が継続。3ヶ月ほどその状況が続いたあと、私の我慢の限界がきてしまい、手切れ金として30万渡すので出て行くよう一筆かいてもらうことした。

誓約書を作成し、退去日を設定し、お互いに一人ずつ保証人を立て、額面も確認してもらい、ようやく引越し日が決定した。


引越しの日、男の荷物が全てなくなった部屋を見て、ようやく自分と自分の生活を取り戻したことを実感した。


しかしこれも次なるダメ男との出会いの序章にすぎなかった。


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