聞いてみた! セガサターン30周年記念アルバム『Technosoft Music Collection - THUNDER FORCE V -』 後編─by 佐伯 憲司─
ウェーブマスター/SOUND! SHOCK SERIESより8月8日に発売された『Technosoft Music Collection - THUNDER FORCE V -(テクノソフト ミュージックコレクション - サンダーフォースⅤ -)』。セガサターン(以下SS)版、PlayStation(以下PS)版のリマスター音源に加え、意欲的なボーナストラック「もしメガドライブ(以下MD)で『サンダーフォースⅤ(以下TFV) MD』が出ていたら?(以下MD if Arr Ver.)」を収録し、入手された方からも高評価を得ています。記事にもたくさん「いいね」を頂きました。ありがとうございます!
本CDのスーパーバイザーである奥成洋輔氏(株式会社セガ)、Co-A&Rを担当された西村“まぢん”真人氏(株式会社セガ)と、MD音源で『TFⅤ』のサウンドをディメイクされたサウンドクリエイター工藤索興氏(有限会社エムツー)に加え、A&Rプロデューサーの伊藤“モバ”良弘氏(株式会社ウェーブマスター)に直撃(リモート)インタビューを敢行した後半は、MD IF Arr Ver.の制作秘話を中心にお届けいたします。
また、試聴動画も後半の内容に沿うべく、MD if Arr Ver.を含め、SS版、PS版の音源を加えた鶴岡八幡氏の新バージョンMIXを掲載! 本記事がCDを入手された方々、これから入手しようとお思いの方々、読者の皆様がより楽しめるようなものになっていれば幸いです。(以下、文中敬称略)
『Technosoft Music Collection - THUNDER FORCE V -(テクノソフト ミュージックコレクション - サンダーフォースⅤ -)』
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『TFⅣ』のサウンドデータをもってしても難しかったMD if Arr Ver.
──ここまでのお話でも、環境はある程度整っていたとしても、『TFⅤ』のサウンドをMD音源で再現するMD if Arr Ver.の制作は相当大変だったんじゃないかなと感じられました。
工藤 お察しの通りです(笑)。本当に「Legendary Wings」は大変で大変で……。
西村 本当に申し訳ございません。しかも、ライナーノーツにも書きましたが、アレンジの方向性として、ドラムはPCMを使わず、歴代の『TF』シリーズで守られてきた音で、とお願いしたんですよ。
──前編で工藤さんがおっしゃられていた「音源は『TFⅣ』準拠で」という話ですよね。現代のMD音源使いのかたたちはPCMを合成して再生したりしているというのに……。
西村 テクノソフトも『ハイパーデュエル』(アーケード版が1993年、セガサターン[以下SS]版が1996年リリース)ではPCMを楽曲に使っているんですが、今回の企画の時系列としてはちょっと早いし、「それじゃ『TFⅣ』から引き継いだ『TF』の音じゃないよね」とアレンジの方向性を決めたので。
──そういう話なんですね。こだわってますね……。
奥成 結局、工藤さんから一度OKをもらったデータをもらってから、西村が「ここの譜面が違う」、「あそこが違う」といったやりとりが4~5回あったのかな? もっとかな?
西村 もっとかな?
工藤 結構ありましたよね。
奥成 そんなやり取りがあったうえで(データを修正してもらって)、最後、マスター音源を作ってもらったあと、マスタリング作業を終えて最後に音源チェックしていたら、今度は工藤さん自ら「すみません」ってダメ出しが来て、もう一度マスタリングをやり直しましたね(一同笑い)。
──完成までに採譜ミスの指摘が4~5回以上やり取りがあって、MD if Arr Ver.のデータがどんどん進化していったあと、さらにマスタリングされたのちに工藤さんがミスに気づいてマスタリングし直しになった、ということですか?
工藤 最後は自分のほうから「すみません」と直させていただきました。
──両者のやりとりでMD if Arr Ver.が育っていったというか、完成度が上がっていったように聞こえて、ファンとしてはうれしい話なんですが、当事者としては大変だったと。
サウンドの採譜ミスに気付く西村氏の能力とは?
奥成 ここで西村という普通いない人材というか、本職では音楽と一切関係のない変な(笑)趣味人の能力が活かされたということですね。
西村 自分の本職はデザイナーですから。
奥成 とにかく、西村は採譜ミスにすごいうるさい人材なんですよ。ゲームミュージックのアルバムの話になると「あのアレンジ版、すごくカッコいいんだけど、あそこ間違ってるんだよね」とかいつも言ってるんですよ。ゲームの移植作などでも。
西村 Nintendo Switch版の『バーチャレーシング』のときも、マスターアップの日だっけ? 奥成から「チェックして」ってメールが来ていたんだけれど、その日がたまたま自分の休みの日で。なので週明けに会社に来てメールを見てチェックしたんだけど、採譜ミスが4~5か所あったので、マスターアップ後なのに結局修正してもらったんだよね。
工藤 そうですね。私もマスターアップ後でひと段落していたんですが、その話が来てちょっとびっくりしましたけれど、「ああ~ここそうだったのか」って直したんです。私の耳コピ力(りょく)が足りなくて。すみませんでした。
奥成 西村は本職の人でも気づかない、採譜ミスを見つけちゃうリスニングスキルを持っているんですよ。
──なんだか優秀なデバッガーさんのお話を聞いているようです。
西村 そんなものかもしれないです。
奥成 ええ。デバッガーに求められる能力って、ゲームのクリエイトとは違うところにあるっていうじゃないですか? 作曲力と採譜力って違うので。
──それは特殊な能力ですね。ただ、今回は、オリジナルのSS版から新しくMD if Arr Ver.という形で新たにアレンジされた楽曲で、今までとはちょっと違う話では? と思うんですが。ポピュラーな音楽で例えると、バンドのメンバーが変わったからアレンジが変わったとか、レコーディングの作業でここは弾きづらいからちょっとフレーズを変えたけど、ちょっと違う、みたいなことに気づくというか。
西村 そうですね。ただ、自分はサウンドの人間ではないので、音楽的な知識はほとんどないんです。だから、高西さんの時も工藤さんのときも、指摘の仕方が、例えばドラムが「ドッドコダッドコドッドコダッドコ」と文字にして書くんですよ。で、「ドドドドチーン」ってところが「ドッドッドチーン」だよ、みたいなふうに指摘するんですよ。
──擬音を文字にして送られているってことですか?
工藤 そうですね。
西村 「わかってくれるかな~?」って思いながらなるべくわかりやすいように文字にするという形で。それを工藤さんは全部理解してくださって、助かりました(一同笑い)。
工藤 大丈夫です(笑)!
──西村さんの指摘する擬音の羅列をどこのパートの何の音だかわかるという翻訳技術を工藤さんが身に着けたってことなんですかね?
工藤 そうとも言えますね(笑)。正直、西村さんの尽力がなければ、今回のMD if Arr Ver.のアレンジはここまでの高みにはいけなかったと思っています。
──ちょっとやり取りを見せていただいたんですけれど、確かに擬音が文字で書かれている! 擬音で書かれたほうが素人目にはわかりやすいのかな? と思いました。
工藤 リズム系の間違いは微妙なミスが多かったので、こうして擬音にしてもらったほうがわかりやすかったんですよ。この指摘にはすごく助けられましたね。
西村 『TFⅤ』はバスドラが本当に聞こえないんですよね。本当にわかりにくかった。
工藤 聞こえないんですよね!
──これは個人の印象ですが、DTMに使われるようになった音源は、あの時期、LA音源のMT-32(1987年)→CM-64(1989年)からGS音源のSC-55mk-II(1993年)→SC-88(1994年)、SC-88Pro(1996年)と短期間で定番の音源がFMからPCMベースになり、同時発音数がどんどん増え、リバーブやコーラスといったエフェクト機能が搭載されるようになって、音が豪華になっていった反面、細かいところまで聞き取ろうとすると、難度が高かったのでは? と思うのですが。
西村、工藤 そうなんですよ……。
──おふたりの言葉から深刻さが感じられる……。
工藤 最初、SS版の音源をもらって、そこから採譜していたんですけれど、先ほど(前編)もPlayStation(以下PS)版との音源の違いの話がありましたが、SS版はちょっとあいまいな雰囲気の調整がされているところが多数あってですね……細かいところで本当にわからない部分が出てきまして。「たぶんこうかな?」みたいなところはありつつ、最初とにかく探り探りで全体を一度作るというやり方で進行していきました。一度全体を作って形にしてみないとたたき台にもならないので、どんどん進めていったんですね。そのせいで西村さんに指摘していただいた箇所も多くてご迷惑をおかけしたんですが、その後PS版の音源をいただいて、それが結構役に立ちまして。
西村 そうですね。PS版は音像がくっきりはっきりしているので。
工藤 西村さんの指摘とPS版の音源を合わせて、細部を補完しながら詰めていったという形ですね。どちらも助かりました。
──お話を伺っていると、プログラムの解析を想起しちゃいますね。
工藤 解析ですね。完成しているものから、聞き取りづらいところをちまちまと採譜していきましたね……。
──個人的な感覚ですが、インタビューの録音から文字起こしをしているときの体験に近いものを感じます。例えば聞き取りづらいところをスロー再生しても、結局わからないところはゆっくりになるだけで、言葉の区切りがはっきりしないまま聞き取れないことがよくあります。
工藤 そうなんですよ。耳コピも同じです。例えば再生スピードを半分にしたり0.25倍にしても、結局、音の区切りがあいまいなところは、あいまいなまま引き延ばされて再生されるだけでわからないんですよ。
──それは共感しちゃいます!
工藤 録音されたものの情報量は、録音されたものしかないので、そこからどうやって取り出すか……補助にはなるけれどわかりづらいものはわかりづらいままという感じでした。
音数を半分以下に起こし直すアレンジの苦悩とは?
──もうひとつ気になっていたんですが、『TFⅤ』のBGMに使われていた音数をMD if Arr Ver.ではどのように圧縮したんでしょうか?
工藤 最初のころは、耳コピしたものをシーケンサーに起こして全パート採譜して、コードプログレッション(コード進行)とかぶつかっていないかな? 不協和音になっていないかな? みたいに確認していったんです。その時点ではコードのシンセ音で3音鳴らしつつ、ギターのパワーコードが鳴ってて、もうこれで5音ぐらいになるんですけれど、メロディーのリード(シンセ)も鳴って6~7音、ざっくりですが8音ぐらいにしました。なので、「Legendary Wings」だとオリジナルの半分ぐらいにトラック数を圧縮したことになりますね。
──話を聞いているだけでもう寒気がしてきました(笑)。企画サイドの皆さんが考えていたことはかなりの無茶振りであることがわかってきました……。
工藤 具体的にどれぐらいの難易度になるのか、企画を振ってくださった皆様はわかっていなかったと思うのですが、私はわかっていてこの話を請けたので……(一同笑い)。「和音はこうして何とかしていかなきゃいけないんだな」ということはもう慣れっこだったので、大丈夫でした。途中からはMIDIに起こすとワンテンポ遅れる(行程的に1つ増える)ので、直接MML(※1)でガリガリ書くようになりました。時間もないし、遅いし……ってなって。それから、MIDIからコンバートしたMMLって読みづらくなりがちなので、後から手を入れるのが難しくなっちゃうんですよ。なので、最初のころは結構書き直したり紆余曲折がありましたね。
──慣れるまでは正面から採譜して、パートごとに起こしてそれをMMLに書き直していたんですね。それでは時間が足りなくなると察知して、頭の中でパートをまとめて直にMMLに起こすように作業を最適化していったと。
工藤 途中から曲を聴いてパートごとの圧縮などをもう無意識にやりながら、「ここの音が欲しい」という形で採譜していきました。全体を耳コピしてから落とし込むのではなく、聴きながら落とし込んでましたね。
──感覚が洗練されていくすごさが伝わってきますね。先ほども言いましたが、急ぎのインタビューでは自分でも、記憶から「あの人のあの言葉を柱に使おう」などと思いながら録音データから文字に起こしていくんですよ。使いたい会話だけタイピングしていく感じで、タイピング中に再生が終わると「あ、また聴き直すか」みたいな感じで記憶に残る言葉だけ繋いでまとめるみたいな。
工藤 そうですね。ざっと全体を聞いてみて、「ここでバッキングがこう鳴ってるな」みたいなものを見つけたら、このバッキングは使うけれど、こっちは聞き取りづらいっていうことは落としても大丈夫だな、みたいな取捨選択を頭の中で先に決めてからMMLで書き起こす、とやってましたね。
──なるほど。
工藤 和音はMIDI環境でやったほうがいいので、例えばキーボードでコードを弾いてから、あとは和音だけMIDIで起こしたんですけれど。そこからメロディなどはもう最初から直接MMLで。あとはドラムですね。ドラム譜は直接MML化していました。先ほどお話があったように、今回、YM2612のPCMモードは封印、楽音のみということで、効果音用のチャンネルは空けなくてもいいのですが、今回のMDの音源をフルに使える環境としてはドラムに使えるチャンネルはFM音源の1~2chととにかく少ないので、ドラム譜はそもそも起こし直さなきゃいけない。
──とはいえ、全体を整えるうえでリズム隊をごそっと抜くわけにもいかない。
工藤 全体の音数を抑えるには、ドラム譜でいうところのハイハットやバスドラ、スネアといったものをバラバラにMIDIで起こしてからMMLへとなると、後から全部取捨選択してから書き直さなきゃいけないので、「ここはスネアが聞こえるからスネアを入れる」といった優先度だけ頭に入れてガンガン書くという感じの作業になりました。
──編曲しながら手前に残る音を拾っていくような作業ですね。
工藤 ここはスネアのリリースまで聞こえるから、ハイハットは全部捨てるみたいなことを全体的にやっているという感じです。そういうことをいっぱいやってきました。
西村 パズルですね。
──これだけのことをどのぐらいの期間でやったんですか?
奥成 伊藤からエムツーの辛島(由紀子※2)さんにお話をさせていただいたのが2024年の4月で、そこから実際にお仕事を請けていただいて、工藤さんが具体的に作業に入っていただいたのが5月の中頃ですかね。最終的にマスタリングしたのは6月18日です。だいたい1か月半ぐらいで5曲ですか。
工藤 こうして振り返ってスケジュールを聞くとヤバいですね(笑)。この間別の仕事もやりながらだったので……。
奥成 そうでしょうね。専任できるほどの拘束料をうちも出していないので(笑)。
──その間に西村さんからのチェックの反映などもありつつ完成させたんですね。その後工藤さんからの直しもあって。……そういう話を聞くと、このアルバムをただ聞いているのはもったいないというか、「心して聴こう」って気になりますね。
奥成 このアルバムを聴いたみなさんは、きっと工藤さんのアレンジの『TFⅤ』MD if Arr Ver.を全曲聴いてみたいって話になるんじゃないですかね? 全7面ぐらいだから、1年ぐらいかけて作ってもらうことになりますね(笑)。
西村 実際やるとなるとたぶん、「Steel of Destiny」は、「Legendary Wings」以上に私のチェックが厳しくなると思うので(笑)。
工藤 「Legendary Wings」だけでもまともなものを作らないと……という思いでやっていたので、大変なことですね。
──それはそれで聴いてみたい! 全曲MD音源版……。
奥成 佐伯さんもアルバムを聴いていただいていると思うんですが、どうでしたか?
──サンプルを聞かせていただいて、「これはいい!」と直感的に感じたのが最初の感想です。特にMD if Arr Ver.の5曲を通しで聞いていると、頭に浮かぶ映像が『TFⅤ』なのに、『TF』シリーズ共通のフレーズなどを聴いていると情景がMDとSSを行ったり来たりするという不思議な感覚で。特にディストーションギターとバスドラのFM音源の音色が『TFⅣ』らしさのキモだったのかな、と感じて。それを工藤さんが意識して使われていると感じました。テクノソフトのFM音源らしさを残しつつ、でも『TFⅤ』の曲だと思える仕上がりになっていて、好きなアレンジですね。
工藤 ありがとうございます。
──その後にSS版を聞いても新鮮味が出て面白いし、PS版とSS版を行き来しても「あ、スネアが刺さるように聞こえるのがPS版の音源なんだ」とか、ヘッドフォンを変えたりスピーカーで聞いたり、聞き比べが楽しい! それにMD if Arr Ver.は「IFの世界でメガCD版とかスーパー32X版『TFⅤ』を見てみたい」という思いも出てきたりして。あとはやっぱり「セガサターンミニ早う!」って思っちゃいますよね(一同笑い)。
伊藤 このアルバムの企画を発表してからみなさんのコメントがまさにそれです。
──やっぱりこれまでのことを考えると、このアルバムが「セガサターンミニ」の呼び水みたいに感じる方もいると思います。もしくは、奥成さんがおっしゃったIFのMD音源版『TFⅤ』全曲を実現してほしいという気持ちもわかります。
奥成 もし『TFⅤ』をMDで再現するとしたら、おまけじゃできないですね。フルプライスで出すならなんとか……(笑)。セガサターン版の復刻も当面全く予定はないので、こうしてアルバムになったということもありますし。
──その片鱗をこの5曲がまざまざと表現してくれているなと感じます。それと同時に、それまでヤマハのFM音源一色だったセガの家庭用ゲーム機サウンドが、『TFⅤ』をはじめいろんなゲームにいろんなメーカーの多彩な音源が使われるようになったんだな、ということを改めて感じて。当時の「次世代ゲーム機」のサウンドの新鮮味を改めて思い知らされたといいますか……。MD if Arr Ver.の5曲が心に刺さるのはそこからの逆算かもしれません。当時のゲームファンだけでなく、形に見えないものが刺さる5曲になっていると感じました。
西村 SSも内蔵音源(SCSP(※3))はヤマハ製ですけどね。
──そうですね。セガハードとしてはSSにもヤマハの内蔵音源チップが引き継がれていますが、その前のメガCDからCDに録音した音を流せるようになったことが最初のターニングポイントですよね。SSはCD-ROMが標準メディアになり、録音された多彩な音源を再生するか、内蔵音源を使いこなすか選べるようになったんだなあ……というところに郷愁を感じつつ、IFの次元を妄想しながら聞いて楽しんでいます。
工藤 それはよかったです。ギターは本当に大変でしたね……。
音色を持ってくるだけでは済まなかったテクノソフトのディストーションギターの再現
──DTM崩れとしては、FM音源でのギターの再現は大変だったろうなと想像します。テクノソフトのディストーションギターの音色は独特で、当時のサウンドクリエイターは、「いかに生音に近づけるか」をひとつの目標にしていた記憶もあり、自分もそうした試行錯誤にもロマンを感じてしまうやっかいな客でして(汗)。ただ、それを工藤さんが背負うことはないのでは? という気持ちもあり(笑)。
工藤 結果的にその再現をすることになりましたが……。ディストーションギターの音色は『TFⅣ』から持ってきたんですが、そのまま鳴らすと迫力が出なくて……軽くなっちゃったんですね。
──それはなぜですか?
工藤 その理由は、『TFⅤ』の楽曲は『TFⅣ』より全体的に音域が高めに構成されていることにあったんですよ。音域が高いということは基音(※4)がどんどん上にいってしまうので、エレキギター、とくにリズムギターだと中低域の歪みがすごく大事なんですよね。そのままではあのスコスコ鳴る感じのところがすごく痩せてしまって……。
──なるほど。音色にはそれぞれ想定している音域がありますよね。それを超えたり、それより下の音域ではその魅力が十二分に発揮できないと。
工藤 そうです。そのまま使うとどんどん痩せて聞こえてしまうので、「これは音色を調整するしかないぞ」という結論になりまして。『TFⅣ』の音色をベースにしつつ、『TFⅤ』の音域にも耐えられるよう音色を調整しました。佐伯さんは『TFⅣ』の音色だと何の違和感も感じなかったとおっしゃられていましたが、そう感じられるように若干調整を施してあります。
──まったく違和感を感じなかったです。ただ、「Legendary Wings」に関しては、ほかのパートも含めて、サビへ向かって進行していくと、まるでMD音源が悲鳴を上げているような感じに聞こえてくるんですよね。
工藤 リードシンセですよね。実は「Legendary Wings」のメロディに充てている音色は『TFⅣ』準拠ということもある程度踏まえた形で選んでいて……それぞれのメインはイントロがDCSG音源、AメロがFM音源、BメロがDCSG音源、サビはFM音源、という割り当てなのですが、実はBメロまでの割り当ては『TFⅣ』の「Fighting Back (Stage 1 - Strite/A)」と意図的に同じにしてあります。サビだけは「Legendary Wings」原曲でのAメロのリードシンセが帰ってくるのに合わせていますね。音色は『TFⅣ』の「Fighting Back (Stage 1 - Strite/A)」の同セクションで鳴っている音色をベースにしていますが、やはり「Legendary Wings」の方が音域が高いので、エレキギター音色と同様に『TFⅤ』の楽曲用に調整を加えています。
──なるほどなあ……ほかのサウンドクリエイターさんにもお話を伺ったとき、「音色作りで曲に合わせた音域を想定して作るけれど、そこを外れる場合は別に音色を用意する」というお話を伺ったことがあって、それが今回のMD if Arr Ver.にも起こっていたんですね。
工藤 どんどん曲が盛り上がっていくので……。『TFⅣ』の音色でそのまま鳴らすと、もっとキーキー鳴るんですよ。
──その状態はなんとなく想像がつきますね。それがまた哀愁を誘うといいますか……アルバムに収録されているバージョンでも、MD音源の咆哮というか、なんと表現したらいいのかわからないんですが、音源がキーッって悲鳴を上げている感じがたまらなくいいんですよね。
工藤 でも、そうなるとなんか「薄い」って感じるんで……。『TFⅣ』のサウンドデザインをされた方々の音色のデザインの意図からすると、「音域が上になったらこの痩せた音はよしとしないだろう」と感じまして。そこは『TFⅣ』のようにスコスコゴンゴンいうような、全体的に迫力のある音色にして、聴いたかたにも『TFⅣ』の延長線上にある音だなと感じていただけるようなものに、いろんなところを調整しましたね。そういう意味で、FM音源の音色パラメーターが読めるようになっていてよかったなと。
──今までのお仕事での知見が工藤さんにも蓄積されていたことが功を奏したと。
工藤 そうですね。私がMD音源を深掘りしたのはエムツーで今の仕事に就いてからだったので。ここに入ってからいろいろ覚えたことばかりで。元々はいわゆるPSG系の音を触っていて。
──工藤さんもTracker(※5)勢だったとお伺いしています。
工藤 そうです。元々Tracker勢ですね。だったんですけれど、FM音源に関してはほとんどMMLで書くようになっちゃっているので。
──そこはエムツーのサウンドクリエイターらしいといいますか、chibi-techさん(※6)、春日(達彦※7)さんから引き継がれた血統のようなものが感じられますね。
工藤 エムツーイズムといいますか、そういったところは引き継いでいる気はしますね。
リアルタイム世代とチップチューン世代の視点の違いが楽曲の完成度を高めあう
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