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SOUND! SHOCK SERIES の軌跡を辿る!セガサターン30周年記念アルバム『SEGA RALLY CHAMPIONSHIP - 30th Anniv. Album -』後編・伊藤“モバ”良弘 インタビュー by 佐伯憲司 / 鶴岡八幡


ウェーブマスター/SOUND! SHOCK SERIESより2024年10月17日に発売されたセガサターン30周年記念アルバム第2弾「SEGA RALLY CHAMPIONSHIP - 30th Anniversary Album -」。本アルバムのA&Rプロデューサーのモバ伊藤こと伊藤“モバ”良弘氏(株式会社ウェーブマスター)に直撃(リモート)インタビューを敢行かんこう。今回の「後編」では、本アルバムの狙い、リマスターによる音質の進化、そしてボーナストラックの企画について深掘りしていきます。

▼本記事の「前編」はこちらから

発売日:2024年10月17日
品 番:WM-0879~80
価 格:3,630円(税込)
ブランド:SOUND! SHOCK SERIES
発 売・販売元:株式会社ウェーブマスター
特設ページ:https://wave-master.com/ent/src/

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インタビュイー紹介

株式会社ウェーブマスター
制作部 SOUND! SHOCK SERIES
A&Rプロデューサー 伊藤“モバ”良弘

宮城県「ハイテク セガ 仙台」のアルバイト・スタッフを経て、1991年3月に株式会社セガ・エンタープライゼスに中途入社しアミューズメント施設運営事業(※店長業務や後に東北地区の景品・販促担当業務)に携わる。2000年10月にドリームキャストのビジュアルメモリや携帯端末を利用したインターネットサービス「サイバークーポン」を企画しセガ本社へ異動。2001年には「サイバークーポン」から派生したセガのアミューズメント施設向け会員システム「セガ モバイルフレンズ(略称:セガモバ)」を立ち上げる。以後、モバイルサイト「ヒトカラ」「セガカラMelody」「セガにゅ~NaVi」「セガプラザ」でのキャンペーン営業等に従事。2017年8月末を以て株式会社セガ・インタラクティブを卒業、2018年2月より株式会社ウェーブマスターにてA&Rプロデューサーとして勤務開始。

セガオフィシャルの音源として

──前編でモバ伊藤さんの経歴をご披露ひろうしていただいたことからも読者のかたには伝わったと思うのですが、今回インタビューしている我々も、されているモバ伊藤さんも、生活の中にゲームミュージックサントラというものが溶け込んでいって、当たり前になっていった世代ですよね。「サンダーフォースⅤ」のインタビューの時の奥成(洋輔)さんや西村(“まぢん”真人)さんも、ほぼ同じ世代。

モバ伊藤 そうです。奥成さんや西村さんは同学年です。

──今のゲームミュージックサントラは、昔ながらのお客さまが聴いて楽しむということに加えて、さらにゲームに流れるサウンドを記録として残す意義もある、リファレンスとして残していくというものになっていると思うんです。それが「セガラリー」のアルバムからも伝わってきて。それも含めて今回モバ伊藤さんにも今のゲームサウンドトラックのにない手のひとりとして、お話を伺って記録に残したいし、これからも出し続けていってもらいたいと思いまして。その秘密は何なのかを聞きたいと(現場メンバーで)話し合っていたんです。

モバ伊藤 然様さようでしたか!

【音源についての補足】
アーケード版……MODEL2A基板を採用。音源はセガサターンと同じSCSP(=Saturn Custom Sound Processor)でPCM32chもしくはFM音源としても使用可能。光吉猛修氏のコラムによれば、効果音用に16ch、楽曲用に16chと用途によって明確に使用チャンネルを限定していたため、同じくMODEL2基板の「デイトナUSA」(こちらのサウンドボードはMODEL1と同じPCM64ch)よりも楽曲で使用できる音数が減ってしまったとのこと。くわしくは光吉氏の連載から「セガラリー」回をご一読いただきたい。DX筐体きょうたいにはフロント2ch、リア2chのスピーカーとシート下にサブウーファーが設置され、臨場感を演出していた。また、デラックスタイプのほか2画面2シートのツインタイプ、ジョイポリス(当時)ではラリーカーをしたアトラクション仕様の“スペシャルステージ”が稼働していた。

デラックスタイプ
ツインタイプ

セガサターン版……企画アルバム「IGNITION」に収録された土方隆行氏によるプロデュースでアレンジされた楽曲を選抜的にメインにえ、当時CS開発部に所属していた幡谷尚史氏によるリプレイなどの追加楽曲(全コースのリプレイではコースごとにロード間にもジングルやDJの演出が入り、ジングルはプレイ次第で選択されるという仕様)が追加され、走りが上達すると楽曲のパターンが変化するという新鮮味が加わった。楽曲パートはCD-DA(PCM)で収録されたものを使用、効果音はSCSPによるPCM音源が活用されている。

──「セガラリー」もゲーム内ではやはり効果音が特徴的で、タイヤが接地しているか、すべっているのか、はたまたマシンがジャンプしているのかをロードノイズで表現していたり、全体マップがなくてコ・ドライバーのナビゲーション音声が重要でしたよね。光吉さんや幡谷さんが作られた楽曲は、それを中心に据えて、楽曲は自車のSE(効果音)を包み込むような音選び、音作りをされていたんだな、ということがあらためてプレイしてみるとわかったんです。BGMもSEもサウンド担当者として目的があって、それにまっとうに取り組まれた結果の音作りだなあと感じました。

ちょっと話はわき道にそれてしまうのですが、「デイトナUSA」もそうだったのですが、セガサターン版は当時、他社のアーケードゲームで採用されていた「Qサウンド」のロゴが盤面に入っていましたが、これは楽曲のほうも準拠されていたんでしょうか?

モバ伊藤 幡谷さんをはじめ、セガサターン版サウンドディレクターの幸﨑(達哉)さんに確認を取ったところ、セガサターンの内蔵音源(SCSP)を使っていた効果音を「Qサウンド」に準拠したものにしていたとのことでした。楽曲に関してはCDからのステレオ2chですね。アーケード版では「デイトナUSA」と同様に立体音響システムRSS=Roland Sound Space(ローランド独自の3次元音響処理技術)が採用されていたとのこと。

▼3次元立体音響付加装置RSS-303のプレスリリース

──アーケード版にて立体音響効果が採用されていたから、それをセガサターンの環境で再現するための「Qサウンド」対応だったのか! セガサターン版のディスクの盤面にあのロゴが入っていた理由がそれだったんですね。細かいところまで調べていただいて恐縮です。

※セガサターン版「NiGHTS into dreams…」の公式サイトにセガサターンにおけるQサウンドの具体的な効果について記述されていました。

【以下引用】
>Qサウンドというのは、「飛び出す音」のことなの。
>Qサウンドが使われている効果音はプレーヤーを中心にして
>あたかも自分がそこにいるかのように、いろいろな方向から聞こえてくるんです。
【引用ここまで】
だそうです。ざっくり言うと、ステレオ2chの環境でバーチャルサラウンドのような仕掛けを実現していたのがQサウンドということなんですね。

──というわけでこちらの勉強不足に明確なご回答をいただいたことですし、話をサントラに戻させていただきますが、「セガラリー」はゲームミュージックサントラとしても、原曲をアレンジしたもので構成されたものや、ナビゲーション音声をDJ風にしたトラックが入っていたり、ゲームをプレイした人、そうでない人、いろんな聞き手に楽しんでもらえるような仕掛けがあったりと、アルバムによって既存のゲームサウンドトラックからさらに多くの人に聴いてもらいたい、といった目的が感じられる試行錯誤をてきたわけですが……。

モバ伊藤 今回の「セガラリー」30周年記念アルバムで使用した音源のソースとなったのは、セガ・サウンドチームのアーカイブデータとなります。(※アルバム「COMPETITION」収録用の元となったステレオミックスされた長尺の素材)

──セガサターン版の制作の際に作られた音源と、「COMPETITION」に収録されたアーケード版の音源がセガさんにアーカイブとして残っていたと。セガサターン版のほうはDJ入りのバージョンとそうでないものと。

モバ伊藤 はい、その2ミックスの音源です。アルバム「COMPETITION」用に納品したDJバージョンと、それをかぶせないバージョンの生粋きっすいの音源っていうのがありまして。その生粋のものを使わせていただきました。

──アーカイブがしっかり残っていることがまずすごい。

モバ伊藤 光吉さんに並行して確認したんですが、アーケード版のデータはMIDIデータさえもうない状態らしいんですよね…。なので当時っていた音源があってよかったと。それがなかったら、またMODEL2Aから再録という方法しかなかったらしいです。

──そうなればなったで、また大変だと。

モバ伊藤 そうです。幡谷さんのほうからは最初、「あの音源(※「COMPETITION」Ver.)のまんま収録しませんか?」というご提案があったんです。

──ふむふむ。

モバ伊藤 でも私は「SEやナビゲーション音を取っ払った生粋のBGMで、つ楽曲の尺も再調整して2ループ+αという形で収録した新作サントラのていでリリースしたいです!」というご提案を逆にさせていただきました。幡谷さんから「それもありですね!」とご納得していただいたうえで制作を進行させていただいたんです。要は、当時ゲームをプレイされていた方々が聴き続けていた、アーケード版やセガサターン版に収録されたVer.のままのサウンドに準拠する形で収録したかったわけです。

──なるべく音源に忠実=サウンドクリエイターが作った時の音に近いものを収録するという「SOUND! SHOCK SERIES」のコンセプトにのっとったということですね。

モバ伊藤 その通りです。

最新のマスタリングが埋もれていた音域を蘇らせる

──今回のサントラは、前編で(本稿ライターの)佐伯、鶴岡それぞれの感想を質問状に書いてしまうほど、過去のアルバムに収録されていたものから“さらに音が良くなっている!”と感じられました。その理由は何なのでしょう?

モバ伊藤 “なぜ今のゲームサウンドトラックの音が当時のものと違うのか?”と言いますと、マスタリングエンジニアの方に話を伺うと、昔と今ではマスタリングの仕方が全然違うらしいんですね。

──確かに、とくにゲームサウンドトラックの黎明期れいめいきから、セガさんのゲームミュージックサントラが発売されるようになった時期は、サウンドトラックに限らず、レコードやカセットもありつつ、CDも出るようになった時代とかぶりますね。

モバ伊藤 レコードやカセットと同じマスターをCDでも使っていたものと、そうでないものがあると思いますが、全体的に時代の傾向として、音が割れないよう、大人おとなしめのマスタリングがまだ主流だったそうです。セガサターンの時代の音源も。ですので、エンジニアのかたからすると、マスタリングの際“いじりようのある音源”なのだそうでして。

──なるほど……マージン(余力)を残していたというか、その場で鳴っている音すべてを破綻はたんしないよう、ひかえめに収録されて、マスタリングも控えめに…という感じでしょうか?

モバ伊藤 そうですね。素材は同じでも、(楽器としての)ベースだったり、ちょっと埋もれていた音域を今の技術でちゃんと位相や音源の位置がわかりやすいようにリマスタリングする、ということができる余地が残っているんですよ。

──鶴岡の感想にあった“位相にこだわっている”ことが感じられた部分がそのあたりですね。

モバ伊藤 それと、当時はサウンドトラックの制作の際、作曲者本人がマスタリングに立ち会っていなかったことも多かったらしいんです。いわゆる“レコード会社におまかせ”というやつで。できあがってしまった音質に「そうじゃないんだけどな~」とモヤモヤしたかたもたとか居ないとか(苦笑)。

──そうなんですか……。今と違い、業務用から家庭用とサウンド担当者が変わって、さらにサウンドトラック用のマスター制作も、当時は今のように便利なツールもまだそこまでそろっている時代でもなかったでしょうし、アーケード版、セガサターン版の当時は制作にも手間暇てまひまかかっていたのではないかと思います。そういった意味で原作者がサントラまで手が回らないということも時代的にあったのかもしれません。サントラ用の音源を原作者に検聴してもらうにしても今みたいにネットですぐに送って聞いてもらうというわけにもいかなかったでしょうし。

モバ伊藤 一概に昔の音源が悪いってことじゃないんです。それを再調理すると、その曇りを取っ払うこともできますし、圧も上げられますし、音域も調整できるっていうのが今のデジタル技術でより緻密ちみつにできるようになった、ということなんですよね。職人が腕を振るいやすくなったといいますか、より繊細せんさいな味付けができるようになったわけです。

マスタリングも時代によって進化していく

──リマスタリングする際、その余裕をギリギリまで使ってしまうといわゆる凸凹のない“のっぺりした音”になる可能性もあると思いますが、そのさじ加減がエンジニアさんの腕の見せ所ということですか?

モバ伊藤 はい。弊社の場合、エンジニアさんへは元となる音源素材とマスタリングの基準となる音源(※業界的に言うリファレンス)とともに提出して、先ずは全トラック整えていただいた“仮マスタリング版”を送っていただくんです。それを今回で言うと音源監修者である光吉さんと幡谷さんとでご検聴いただき、そのご意見をとりまとめてさらに微調整してゆくのです。

──なるほど。

モバ伊藤 その後、“立ち会いマスタリング”では、マスタリングスタジオの整った環境でモニタースピーカーを介しての“圧”を耳と体で感じながら、最終調整していくという工程です。スタジオへ出向く前にヘッドフォンでさんざん聞いた同じ音でも、マスタリングスタジオでの聴感上、全身で体感するサウンドはまた違うものです。スピーカーのコーン(振動板)がふるえるさまが目でも確認できますしね。

──今作のリマスタリングには、幡谷さんたちは立ち会われたのですか?

モバ伊藤 そうです!  光吉・幡谷ご両人にお立ち会いいただいております。コロナ禍があって、昔だったら朝イチからスタジオに入って1曲目から全部現場で調整していたんですけどね(遠い目w)。

──制作者自らがきちんとアルバムのリマスタリングにも立ち会われている。まさにオフィシャルのリファレンス(基準)になるようにという願いが制作過程に反映されているんですね。聴き手の環境は同一ではないでしょうから、そのあたりをふまえたプロのお仕事、ということなんですね。

モバ伊藤 今後もセガオフィシャルの音源として仕上げていただくためにも、この工程が必要になります。私が関わっているものに関しては、「立ち会いマスタリング」の際は作曲者のかたに自ら立ち会っていただきたいですし、そうでない場合は信頼できる有識者に立ち会ってもらっています。そのうえで、意見が異なる場合はバランスをとるような調整をお願いすることもあります。

──それは心強い。それにエンジニアさんの今の見識が加わった結果が今回のアルバムの音の良さにつながっているんですね。やっぱり、ミックス作業でもかなり変わる、エンジニアさんの力は大きいということなんですね。

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