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欲はあるうちに使え

2023.9.19 (火)  no desire


暑いと欲が湧かなくなる。
と言ったのは武田百合子さんだっけ?

ほんとにそうだなと思う。
私の中であらゆる欲が鳴りを潜めている。
街を散歩していても、美味しそうな食べ物にも洒落た洋服にも、色男を見かけても、あの本にさえも今はなびかない。
火鉢を抱いて歩いているようである。

朝から、日曜日にひょいと外れた差し歯を取り付けてもらうために歯科医院に行った。
とれた歯にも歯茎にも損傷がないようなので、すぐにひょいと付けてくれた。簡単だ。こんなに簡単に付けられるってことは、また簡単に外れてしまうんじゃないかと心配になる。
「とれたら、また来てください」と帰り際に言われた。
心配が増幅する。

歯科医院の帰りにどこかでお昼ごはんを食べようと思っていろんな店のメーニュー看板を覗いてみるが、さっきも書いたように欲がないもんだからどれにもそそられない。
喉の渇きだけでも癒そうとカフェに入った。
以前ハマったドーナツが並んでいる。ドーナツでも食べようかと思っていたら、前に並んでいたお客さんがニューヨークチーズケーキを注文したのを見て私も真似っこした。
隅っこの席でぼんやりと食べる。
ぼんやりがいちばん幸せだわ。
テーブルの上に置いたスマホにいろいろと通知画面が映し出される。
以前のスマホはそういうのなかったから楽だったけど、機種変更したばかりのコイツはそういうのバンバン映し出すからめんどくさい(まだ設定が完璧じゃないから)
30分ほどぼんやりして帰ろうと思った時に、ふと隣の隣の席の人を見たら知ってる人で「あっ」となる。その人も私を見て「あっ」となっていた。
ふたりして見つめあって「あっ」と、声を同時に出したのがおもしろかった。しかし、一緒にお茶を飲むほど親しいわけじゃないから時候の挨拶を交わして別れる。元気そうだった。
私は元気じゃないからあの人の目には「イトカズさん元気じゃないな」って映ったのだろう。

帰宅する。
帰ってきたらエアコンの効いた涼しい部屋で猫がぽわ〜んとした顔をして寝ていた。
なんて、なんて、幸せなヤツなんだと小憎たらしくなる。

極楽な寝顔


来世は猫に生まれたし





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イトカズ
読んでいただきありがとうございます。 書くこと、読むこと、考えること... これからも精進します。