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#003 山岡牛について

 取り扱いを検討頂いている皆様に山岡牛がどのような牛なのかを知って頂くべく、文章にまとめました。これまでの経緯や飼育法、牛に対する信念をつづらせて頂き、紹介をさせて頂きます。


山岡牛の由来と歴史

〇一頭一頭に真摯に向き合い、手に取る人が感動する牛を
 山岡牧場は広島県安芸高田市で三代続く家族経営の牧場であり、地元に密着して地域の農家と連携を取りながら、経営を続けてきました。過去には120頭まで牛の数を増やしたこともありましたが、一頭一頭に真摯に向き合うために規模を縮小し、現在は約40頭の牛を世話しています。
「現状の市場の基準に合わせて価値を上げることよりも、このお肉を手に取り食べる人にとってより感動を与えられる牛にしたい」

〇独自のアプローチで築かれるお肉の美味しさを自らの言葉で伝えること               
 そのためにこだわったのは一般的に市場で評価されるサシ(脂肪交雑)が多く入ることではなく、赤身の美味しさ。和牛の特長である芳醇な旨味を感じられることに加え、飼育環境を整えてストレスを低減させることなど現在の市場の評価基準から大きくずれ、独自の取り組みに傾注することになりました。
 規模を拡大してより多くの牛を市場に出荷することよりも、一頭一頭を大切に育て、顔の見える生産者として赤身の美味しい牛肉を届けることに注力するために山岡氏はトップ営業として日本全国をまわり、山岡牛の魅力を広く伝える活動を行っています。その結果、各地で「山岡牛でなければ」というコアなファンが生まれるほどの評判を得ています。

牛舎の様子

子牛の評価基準

〇近年の子牛繁殖の課題と肥育まで及ぶ影響
 山岡牛の肥育を行う上で発育が良い(良すぎる)子牛では、思うような牛に仕上がらないことがあります。多くの子牛繁殖農家の目標は、市場で最も高く評価される子牛を生産すること。具体的には「発育が良く、過去に良い肥育実績のある血統の子牛」を目指しています。  しかしながらサシ(脂肪交雑)が多く入り、発育も良いとなるとそれだけ成長に必要となる栄養分が増えることになります。昨今輸入飼料が高騰しており、国産飼料と価格的な差は埋まりつつあるものの、産地の基盤・生産量など課題の解決はこれからの状態で、代替とまではなっていません。結果的に生産コストを抑えるために肥育期間を短縮する傾向になりつつあるのです。
 それに加えて子牛繁殖農家は子牛を出荷する時点で最も評価が高くなるように努めています。発育の良い子牛と判断してもらうために出荷前に体重をより重くしようと飼料の給与量を増やして所謂「肉付け」が行われています。それが行き過ぎて肥育農家からすれば子牛が「過肥」になっている場合もあるのです。

〇独自の子牛評価基準によって生まれる新たな可能性
 したがって山岡牛の肥育方針上、平均的な子牛よりもやや体格が小柄であることが重要となります。小柄であった場合、その要因は「その牛の血統的特性」、「繁殖農家の飼養管理」、「疾病」などが考えられます。血統的特性以外の要因であれば肥育時点の飼育環境を整えることでその牛本来の発育を取り戻すことは可能です。小柄な子牛によって成長に必要な栄養分が比較的に低く抑えられ、地元で手に入る資源を組み合わせて肥育を行うことができます。自ら飼料を確保しようとすると手間をかける必要はありますが、それによって長期肥育が現実的な選択肢となり得るのです。

1頭毎のスペースを確保した区画

健康に配慮した飼育環境と管理

〇牛がのびのびと過ごせる環境と丁寧なケアとコミュニケーション
 
山岡牛は一般的な和牛に比べて長期間飼育するため、牛の健康状態をチェックし、飼育環境の整備や手入れによって健康を維持します。
 牛舎内で外的ストレス要因として最も大きいものは、同じ区画内の別の牛によるものです。牛は元来群れで生活する動物であるため、複数頭で飼うと必ず序列が生まれます。その際、角をつき合わせて力を競うため外傷の要因にもなり、同時に餌を食べるときの優先順位も決まってしまいます。上位の牛が餌を常に豊富に食べられるようになり、より頑丈で強い牛になっていくのに対し、下位の牛は餌になかなかありつけず、痩せ細ってしまうこともあります。
 山岡牧場では牛の相性を観察し、必要に応じて1頭で飼うことによって競争を起こさず、同時に十分な運動スペースを確保しています。結果的に1頭毎の観察も容易になり、健康状態のチェックや行動のモニタリングを行いやすくなるのです。そのようなストレスを低減させる対応によって牛同士のコミュニケーションが減少してしまう分、人の手によるコミュニケーション機会を積極的につくっています。グルーミングを行うことによって背中や腹部など牛自身では届かない部分のケアができ、特に夏毛・冬毛の生え変わるタイミングは牛の衛生状態と健康の維持にも重要な役割を担っています。

〇牛舎環境、暑熱対策、給餌管理の徹底によるストレス低減
 牛舎の床の敷物の状態にも気を配ります。数百キロにもなる体重を支える脚への負担を軽減させるため、製材所から調達するおがくずをふんだんに敷き、約1ヶ月間隔で交換することによって消臭効果と足元の衛生環境を良好に維持するよう努めています。
 夏場の暑熱ストレスの配慮も欠かせません。遮光性の高い屋根材を使った牛舎と高い屋根の牛舎で暑熱対策をし、牛舎の各区画に扇風機を設置。気温のピーク時には敷地への打ち水や牛の体に直接ミストをかけるなど重点的なケアを行っています。
 餌の給与にもひと手間加えています。餌を給餌する際、一度に与えるのではなく、一定時間を経過させながら3回に分けて給与することによって食欲の有無を判断し、同時に健康状態も確認します。特に複数頭が一区画にいる場合に1頭毎の餌の摂取量にバラツキが出ないようにするためにこのような管理が重要になるのです。個々の牛の餌の給餌量の記録を蓄積し、飼養管理の改善に役立てています。

くつろぐ牛達

高品質な肉質と風味

〇昨今主流の肥育手法が辿る道
 肥育農家の大多数は栄養価が計算された配合飼料を購入して、それ単体を給与することでカロリーコントロールを行います。市販の配合飼料は牛の成長に合わせてカロリーを充足させることが目的であり、一般的には28カ月齢ですが昨今の飼料価格の高騰によってそれよりも短い期間での肥育がトレンドとなってきています。そのようなカロリーの高い飼料を給与していては30カ月齢以上の肥育に牛の体が耐えられません。特に夏季の暑熱ストレスが増す時期や牛床の管理が不十分だと起立不能になるなど肥育事故の発生に直結してしまいます。

〇「小柄な牛の長期肥育」だから活かせる地域資源
 
山岡牧場では小振りな牛を導入して長期肥育を行うことで和牛の特長である芳醇な旨味をより強くすることを目指しました。そのため朝夕の餌を自家配合することによってその問題を解決しています。給餌毎に配合機で餌をつくることで、保存のききにくいおからやビール粕など水分量の多いフレッシュな餌を利用することができ、市販の配合飼料に比べてカロリーを抑えつつ牛達の食欲を増進させるような餌を実現しています。  また輸入牧草の代わりに栄養価が豊富な畔草を給与することによって、肉色が深い赤色となって独特な風味が生まれます。単一品種の輸入牧草に比べて多種多様で、季節によって顔ぶれが変わる草花は牛の嗜好性も高くなります。

〇快適な環境でのびのびと育てれば、牛は美味しさを身に纏う
 牛の感じるストレスを低減させるために飼育環境の改善・状態維持していることが肉質にも良い影響を与えるという研究結果があります。牛がストレスを受けると筋肉に蓄えた糖、グリコーゲン、およびアミノ酸を消耗します。ストレスは脂肪の質にも影響し、不飽和脂肪酸※が減少し、飽和脂肪酸が増加することになるのです。  餌、飼育環境にこだわった結果、和牛の特長である霜降りの入りやすい部位と入りにくい部位のコントラストがしっかり表れたことで各部位の良さが際立ち、長期肥育による深い旨味も備えた牛となりました。
※オレイン酸などの一価不飽和脂肪酸を指す。融点が低く、口の中で脂が溶けて味わいが良くなる

自家産の飼料米

肉質を活かした料理の提案

〇牛の目覚ましい進歩によって置き去りにされた個性
 ここ数十年の家畜改良技術によって和牛の特長であるサシ(脂肪交雑)は目覚ましい進歩を遂げてきました。元々サシ(脂肪交雑)の入りづらかった部位ですら美しい霜降りが入るようになり、加工技術の発展によって柔らかく食べやすいようになってきています。結果的に和牛らしいサシ(脂肪交雑)を求める消費者のニーズは満たされるものの、各部位の個性は薄まってしまったと言えるかもしれません。

〇特長を活かした料理提案と、生産者との連携よって深みを増す牛の魅力
 山岡牛はモモをはじめとする赤身の強い部分と、ロースなどのサシ(脂肪交雑)が入りやすい部位とのコントラストがはっきり分かれているため、和牛の際立った特長と、和牛本来の良さを兼ね備えた牛です。人間の食物をつくる過程で出た副産物を餌に活用しているため、関連した食材との合わせやすさは勿論のこと、地元の畔草を与えることによって季節毎に肉質に特長が生まれます。
 赤身の強いモモをローストしてシンプルにその強い旨味を味わう―――
 十分な運動で発達したスネ肉、ネックを煮込みで―――
 控え目なサシ(脂肪交雑)の入ったロースをスライスして炙りで―――
 そのような定番の提供の仕方もありますが、そこから一歩踏み込んで部位の特長を表現できるような調理をシェフの方々に提案していきたいと考えています。各部位の特長を踏まえ、料理に落とし込んでいく工程を積極的に学び、生産者として生産段階の取り組みをしっかり伝えて料理に奥行きを生み出す。料理から生産過程にフィードバックをもらい、ブラッシュアップをしてより深化させていく。そうやって料理も牛も磨かれていく流れをつくることによって生産者である私にとってだけでなく、取り扱って頂くシェフ、生み出される一皿に出会うお客様にとって唯一無二の牛となっていくのです。


最後までお読み頂き、ありがとうございました。

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