#020 稲わらは肥育農家の生命線。今年は...
肥育農家にとって粗飼料(草やワラ、青刈り作物などを原料として、繊維質が多く含まれる飼料)の確保は経営における最重要事項のひとつです。現在の規模が拡大して専業化した肥育農家は粗飼料を購入して安定して供給することが多くなります。一方うちは昔ながらの耕畜連携を行っているので自ら粗飼料を確保しているのです。
もちろん購入するのに比べてその年の天候に作業が左右され、安定的な確保はどうしても難しくなります。ここ数年と比較しても今年は稲わらを集められませんでした。安定供給を行う上でどのような方針をとるべきで、どうリスクを低減することができるのかを改めて整理してみたいと思います。
〇今年の状況
毎年約2000個は集めている稲わらが今年は1043個と例年の半分に留まりました。年末のこの時期は稲わらロールを倉庫に積み上げて天井まで格納している状態となっているはずが、倉庫の中はまだまだ余裕がある状態。倉庫の内部が稲わらロールで一杯になっている光景は、余すところなく田んぼの恵みを得ることできたと実感が湧いたものです。
しかし今年は余裕もなく早々に今年度産の稲わらを使い始めざるを得ない有様。米の収量は以下の記事でも述べた通り、例年並みであったことから稲わら自体はそれなりに育っていたことを踏まえると何か対処ができたのではないか、という印象を頂いています。
〇稲わら不足の原因と影響
1.原因は天候不良
今年うちの地域は8月の雨が非常に少なく、夕立ちやゲリラ雷雨は市内でも度々発生したもののうちの地域は全く降らずに稲の生育に影響が出る程でした。そのため、早生品種であるモチやコシヒカリなどの稲刈りは順調に消化し、その後の稲わら集めも雨の少ない中で予定通りに行うことができたのです。
その後うちの稲刈りを終え、例年であればすぐに稲わら集めに着手できるのですが天候不良が続き幾度かのゲリラ雷雨によって稲わらはずぶ濡れ。止む無く作業が後ろ倒しに。結果茎の細い品種の稲わらの状態が悪化し、その分の回収ができなくなってしまいました。
2.引き起こされる影響
①代替品の争奪戦
もちろんこの天候は広島県だけでなく、方々で「思うように集められなかった」という声を聞くこととなりました。こうなると代わりの粗飼料を確保するためにお金を出す他ありません。これは自家栽培分の確保を前提に経営計画が立てられている農家にとって臨時の支出。加えて大規模畜産農家は元来購入前提での経営を行っていますが、需要が高まるとそういった経営体にも影響が及びます。
九州の稲わらを取り寄せた方からお話を聞きましたが、現地もご多聞に漏れず天候に恵まれず、一部乾燥が不十分で低品質なものもあるそうです。その上雨に濡れることを絶対に避けるために現地からの運搬にも気を遣い、積み下ろしの際に雨が降っていては話になりません。昨今のドライバー不足の状況で積み荷としての稲わらは他の積み荷と比べても相対的に単価が低く、今後このような確保の仕方は条件的に厳しくなることが予想されます。
中国からの稲わらの輸入も為替の影響や政治的なリスクなどを考慮すると今後安価な代替品として認識することは難しく、以下記事のように国内の広域流通の検討もなされていますが、実現には課題も多い状態です。
②牛の体調不良
自ら粗飼料を集める農家にありがちなのが、保存状態が悪いものを与えてしまい、牛の体調を悪化させてしまうケースです。粗飼料を集める量が多いとそれだけ保存場所の確保が必要となり、管理の行き届かないところで野生動物や雨などの影響でカビが発生することがあります。
今年のような雨の多い場合、例年に比べて乾燥が不十分となることが多く、加えて上記のような保存状態だと牛の体調への影響が大きくなります。
昨今の生産コストの上昇はそのような粗飼料をやむを得ず使うことで、牛の発育に悪影響が出てしまい、生産コストの低減はできたものの、売上の減少にもつながってしまうことになりかねません。
〇うちの対策
1.代替品の稲わらサイレージ
「ではあなたのところはどのように対応するつもりなのか?」というと稲わらサイレージの追加注文で耐えることにしました。稲わらを直径約1mのロールにし、それをフィルムで巻いて運搬性、保存性を高めた近年主流のサイレージ。サイレージをつくるための機械を揃えている同じ地域の農家に余分に作成してもらい、それを自分達で運搬することで相手は副次収入が生まれ、こちらは近隣で粗飼料を確保することができるのです。
広域流通が実現できればそれに越したことはありませんが、近年ドライバー不足や燃料費高騰によって遠くから運ぶことのリスクは高まっています。
現状は理想形ではあるものの、高齢化が問題で後継者はおらず、次の手を用意することはできていません。雇用しようにもこの作業だけで生計を立てることは難しく、複数の仕事を組み合わせることで収入を確保せざるを得ませんが、働き手不足の昨今難しいと言わざるを得ません。
2.牧草や畔草の自給
並行して進めているのはお米からの転作です。「お米が足りなくて価格が高騰しているのに何を考えているのか」と思われる方もいらっしゃるでしょうが、安芸高田市のような中山間地域では小さな田んぼも多く、耕作に不向きな田んぼも存在します。そこを牧草地として切り替えることで管理負担を減らし、農繁期以外に作業を分散でき、天候不良などのリスクの低減も図れます。
また高齢化や担い手不足で耕作ができなくなる農地が増えることを見据えての準備にもなります。近年鹿や猪、ヌートリアなどの獣害も増えており、負担は年々増加。少人数で効率的に広範囲をカバーすることを前提に営農計画を立てる必要に迫られています。
〇まとめ
ここ数年はしっかりと集められていただけに、今年の結果にはショックを隠し切れませんでした。うちは一般的な肥育農家に比べて粗飼料を与える量が多いため、影響は大きくなります。近隣の農家の水管理などに協力することで安定的な稲わら確保につなげるような取り組みを検討すべき時期にきていると感じています。
米農家は主食用米の価格低迷に耐え、安定経営の方策として飼料米や穂の少ない稲を刈り取りそのまま飼料とするホールクロップサイレージ(WCS)などを組み合わせていました。飼料米の取り組み項目の一つに稲わらの利用もありますが、収集するために高額の機械導入の必要もあり、うちのような畜産農家でない限り積極的に集めようというほどではありません。
こういった地味な話題は農政にはなかなか反映されません。そのため「改善に向けて声を上げていく!」というよりは手の届く範囲内で工夫していくほうが個人的に性に合っています。そのためにも近隣の農家との連携を高めつつ、米や牛の売上の向上にも努めることで対応の選択肢を増やせるように日々仕事に邁進したいと思います。
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