忘れられない恋物語①「出逢い」
大学時代を大阪で過ごした私は、その名残り惜しさもあって、再就職先を大阪にした。
先生としては、あの“虐待トラウマ”があって、働くことは出来なくなっていたので、大学の紹介で、大手百貨店の化粧品販売員として働き始めて、1年が経とうとしていた。
パウダリーノート。
シトラスノート。
フローラルブーケノート。
シプレーノート。
フゼアノート。
色んな化粧品や香水の香りがその一階中ワンフロアに充満し、甲高い『いらっしゃいませー』と『ありがとうございましたー』が売場で飛び交う。
私は、元々は人が好きだったし、キレイなものも好きだった。
だから、百貨店で働けるのは楽しかった。
ただ一つの問題を除いては。
それは、手取り15万を切る給料。
家賃5万5千円、光熱費5千円、食費3万円の他に、何よりもしんどかったのは、勉強代という名の化粧品代が毎月約5万円前後かかること。
更にヘアカラーやネイルなどの“身支度”をすれば毎月赤字で、服や靴、バッグや小物を買ったり、お茶したり、遊ぶことは無論、まともな貯金なんて出来なかった。
大学の時は部活に明け暮れてたのに、それで飲みに行ったりもしてたのに、バイトもせずにどうやって生活してたっけ?
百貨店の空間ラウンジで、梅田の高い空を見上げながら、空になったお弁当箱をお箸でカシカシしながら考えていた。
その時だった。
『キレイなお姉さん!』
私は、まだヒコーキ雲を見つめていた。
その視界に、スーツに着せられた若い男が入って来た。
『○○(化粧品ブランド)のお姉さんなんですね!』
私は、驚いてお箸箱を人工芝の上に落とした。
『いきなり失礼しました。
こんにちは!
僕、こういう者です。
北新地で、黒服兼スカウトマンしてます!』
差し出された名刺には、
“Club xxx T.N. ”
と書かれていた。
『僭越ながら、お姉さんが売場で接客されているお姿を拝見させて頂きました。
とってもキラキラされていて、とっても輝かれていましたよ。
どうか、うちのお店で働いて頂けませんか?』
「接客を褒めて頂けたのは有り難いですが、水商売とかやったことないですし、それにこの通りちゃんと昼職してます。では。」
そう言って、私はケータイの時計を確認して、その場を離れた。
『明日も来まーす!』
後ろの方で、その黒服が叫んでいた。
それから彼は、性懲りもなく何日も空間テラスに通い続けたり、売場に顔を出すこともあった。
『お疲れ様です!』
『ご飯食べました?ご一緒にどうです!?』
『どうか、体験だけでも!』
それを見たり聞いたりしていた百貨店で同期になった友達が、それを見かねて、『体験だけでも行ってみたら?何なら、一緒に行く?』と、既に他店でキャストとして働いていて、水商売の魅力について話し出し、やっぱり儲かるよとのこと。
私は、とりあえず体験だけ行くことにした。
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