【日常エッセイ②】ジャンルの違うオタク同士の敬意の払い方は「助さん格さん」
会社に藤井風さんの強火ファンがいる。
そして私は強火テテ(BTSのV)ファンだ。オタク同士、よくお互いの推しの話に花を咲かせる。お互い強火沼の住人のため、相手の沼をパシャパシャと汚さぬよう、細心の注意を払いながらお互いの推しについてあれこれ尋ねる。
彼女はテテのことを、「Vさん」と呼ぶ。アーミーでは無い自分が、あだ名である「テテ」と呼んではいけないと思っている。
「Vさん」。
玄人呼びだ。私は未だテテのことを「Vさん」と呼んだ事がない。Wikipediaに載っている正式名称は「V」だと言うのに。でも、まだ私には早い気が勝手にしている。なぜだ。誰もそんなこと気にしちゃいない。これぞ拗らせオタクだ。Vさんと呼んだ途端、ボスのような上司のような部長のような敷居の高さが心に現れる。「Vさん」はテテの仕事仲間が呼ぶイメージがあるからかもしれない。
そんな沼の底のオタクの一人相撲など、清らかな淑女の前では何の意味も持たない。彼女は私がテテ沼の住人であることに最大の敬意を払って、「Vさん」と呼んでくれる。なんと謙虚な彼女。
一方、私は彼女の推しを「風さん」と呼ぶ。
失礼の無いように「藤井さん」と呼ぼうかと思ったが、そうするとまた「藤井部長」みが出て来てしまう。(実際風さんは係長なんだけど)
呼び方って難しい。ちゃんと呼ぼうとするとなぜ部長感が出るのだ。フルネームに「さん」付けも変なので、「風さん」に落ち着いた。
「かぜ」の「か」を強く発音するのか「ぜ」を強く発音するのか、敬意の使い方を間違えているかもしれないような質問をしてみたが、藤井風さん自身、どちらでも良いとおっしゃっているようなので、どちらでも良いことにした。オタクの取り越し苦労だった。
Vさんと風さんは、黒髪パーマがよく似合い、彼らにしか聞こえない声を聞くことが出来、天才だが喋ると可愛いという共通点があり、彼女とたまに仕事で一緒になると「助さん格さん」ならぬ「風さんVさん」談義に花を咲かせ、お互いの推しの新曲の感想を報告し合っている。