【日常エッセイ③】サブカル紅夫(べにお)

高校生の頃、昭和初期の漫画や1970年代の歌謡曲にハマり、池袋のさびれた古本屋やレコード店をセーラー服で徘徊するという謎の行動をしていた。
そしてその頃に映画の楽しさにも目覚め、ミニシアターでお気に入りの映画を見ながら、第二次世界大戦後の夜の町や高度成長期の艶めかしい団地妻の日々を描いた漫画を読みながら、フィンガー5や黛ジュンの復刻版CDを見つけては歓喜し、フランス人の美少年俳優に思いを馳せるという謎の青春時代を送っていた。

そんな、サブカル女子の実態を絵に描いたような毎日だったがとても楽しかった。テテが、自分が生まれて来る前の文化に魅了されひたりたくなる気持ちがなんとなく分かる。(一緒にしてごめん)

そんなこんなで、その時代に見つけた古本少女漫画でどうしても忘れられない「紅夫べにお」という登場人物がいた。主人公の少女の交際相手なのだが、当時の絵柄なので、綺麗なジャイアンならぬ綺麗な星飛雄馬ひゅうまという感じ。いつも人差し指から小指までの4本の指をぴったりとくっつけ、親指だけピーンと立てる。
主人公の少女が会いに行くと、家の前でその手を向けて「やぁ」と言うのだ。

怖かった。

こんな彼氏嫌だ、と、いっちょまえに眉間に皺を寄せながら読んでいた。

しかし紅夫はいいやつで、何があってもその手を掲げて何か素敵な事を言うだけの心の広いやつだった。

なぜ紅夫という名前かというと、頬が紅色なのだ。
「紅顔の美少年」を体現したかったのだろうけど、私には謎の手のひらをヒラヒラ見せながら話す不気味な少年にしか見えなかった。

紅夫のトラウマのせいで、その後、眉毛が太く、目がキリリと大きく力があり、頬が美しい美少年を見ると「紅夫」という名前が頭に浮かぶようになってしまった。

あろうことか、大好きなテテが、短めの黒髪の太い眉でキリリとしている時に「紅夫」という名前が脳裏に浮かんでしまうのだ。こんなに大好きなのに。

その葛藤を繰り返しているうちに、なんと私は紅夫のトラウマから解放された。

テテにより、紅夫を愛せるようになったのだ。

愛の力って凄い。



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