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第三章数学と幽霊、第一話 楓と鉄平

第三章数学と幽霊、第一話 楓と鉄平
第三章数学と幽霊、第ニ話 佳子と一朗
第三章数学と幽霊、第三話 事故物件
第三章数学と幽霊、第四話 逆ナン
第三章数学と幽霊、第五話 巫女
第三章数学と幽霊、第六話 童貞
第三章数学と幽霊、第七話 翌朝
第三章数学と幽霊、第八話 下見
第三章数学と幽霊、第九話 祝日
第三章数学と幽霊、第十話  処女以前

第三章数学と幽霊、第十一話 処女以後
第三章数学と幽霊、第十ニ話 調査
処女を失くすの大変!

第三章 数学と幽霊

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性同一性障害と勘違いして悩む
義理の妹に悩むぼくの物語
第三章一話 楓と鉄平

 金曜日の夕方、タケシのアパートの部屋で、タケシと美久とカエデがお茶を飲んでいた。来年度はカエデが美久の大学に進学することが決まった。タケシと美久は三年生になる。タケシは来年度から本郷に通うので、千代田線の根津駅までは多少歩くが、北千住まではメトロで十分の距離になる。

「お茶大って、直線距離だと北千住に近そうなのに、メトロで行くとわざわざ大手町まで戻って、丸の内線から千代田線にトコトコ歩いて乗り換えて、来なきゃあいけないのねえ。北千住って陸の孤島みたい。四十四分もかかったわ」と美久に言う。
「でも、一時間以内だから、近いほうでしょ。ねえ、タケシさん?」
「本郷から来る方が多少時間は短いけど、似たりよったりだね」
「神泉に帰るのも大手町経由なのよねえ。神泉までは四十六分。似たようなものだなあ。いっそのこと、私がここに住んじゃえばいいのよね?ロフトも空いているし」
「カエデちゃん、ロフトはぼくの寝室でしょ?」
「だから、お兄の横が空いているじゃないの?」
「なぜ、そういう結論になりますか?」
「ダメ?」
「ダメです!」
「美久さんの邪魔しないから」
「十分邪魔しているでしょう?」
「あ~あ、私は捨てられたネコなんだ」
「なぜ、そうなるの?」
「神泉の家でもパパとママがベタベタしてるし、北千住じゃあお兄とお姉さまがベタベタしてるし。もう、悔しい!私だけ放置よ!放置!」
「放置されてないでしょ?現にここにいるんだから。美久とぼくの間に堂々と座って」
「ねぇねぇ、美久お姉さま、あれからお兄と進展ありました?」とカエデはタケシを無視して、急に美久に話をふった。
「え?えっと、そのね、あれからね、ゴックンを二回ほど・・・」
「う?ゴックン二回?あれから?ということは、最初のゴックンと合わせて三回?三回?三回?」
「・・・ハ、ハイ・・・さ、三回・・・」
「・・・」
「タ、タケシさんも・・・私を・・・ペロッと・・・」
「お兄も、美久お姉さまをペロッとですって!」
「ふ、二人共、う、うまくなったの・・・節子があれは全飲みだ!全部飲み干さないとネエさん、失礼に当たる!って言うんで、ちょっと練習して・・・」
「失礼に当たるって、それって、節子さん、お姉さまをからかっているだけじゃないの?それを口実にしてません?それで、練習って?」
「あ、あの、分銅屋のお野菜で・・・節子に習って・・・」
「・・・」
「楓さん?」
「お兄!あんたら、何してんの?ゴックンとペロッとじゃあ、全然進歩がないでしょ?さっさとやっちゃえばいいじゃん!パパとママの公認なんだから!」
「いや、カエデちゃん、もうちょっと待って・・・」
「ああ!悔しい!私は彼氏いないのに!ちょっと、お兄、チュ~させてよ!」と口を尖らせてカエデがタケシにせまる。
「楓さん、それはダメです!」と美久がカエデに抱きついて止めた。
「お姉さま、ケチね。チュ~くらいいいじゃない!パックンとかゴックンするわけじゃないんだから!ちょっと分けてよ!」
「ダメです!タケシさんの唇は私のです!」
「もう、じゃあ、お姉さま、私って、レズっ気があるのよ。お姉さま、私とチュ~しましょう!」と口を尖らせ、今度はカエデは本気で美久にチュ~をしようとする。
「ちょ、ちょっと、楓さん、止めて下さい!私はレズっ気ありません!」とカエデを押しのけて美久が言った。
「もう、腹が立つ!・・・お兄!さっさと彼氏を紹介して!」
「おまえ、そんなこと言ったって、もう三人、紹介したじゃないか?全員ふっちゃって」
「だぁ~って、お兄と同じで、陰キャ、オタク、童貞、天然の四拍子そろってないとダメなの!私もお姉さまと同じく、天然バカップルするんだもん!」
「楓さん、私、天然じゃありません」
「お姉さまは自覚症状がないんです!」
「そうかなあ・・・」
「だって、カエデは天然じゃないし、陽キャだし。美久と同じなのは処女でオタクだけじゃないか?」
「いいんです。私も陰キャと天然の練習しますから」
「そういうのって、練習で身につくのか?」
「もう、どうでもいいから、早く、もう一人、紹介して!」
「本当に四拍子そろってもいいんだね?本当だね?」
「そうです!それもお兄のレベルか、それ以上の!」
「わ、わかった。とっておきのを紹介する。まさか、それほどのレベルをカエデが求めているとは思わなかった。ぼくの友人の丸尾、丸尾鉄平を紹介する。ぼくの大学の同期生だ。とっておきの四拍子だ。すごいぞ」
「なぁ~んだ、いるんじゃない。お兄、出し惜しみして!」
「いや、本当に四拍子だからな。だから、紹介しなかったんだ。後で文句を言わないことだぞ!」
「本当に四拍子なら文句は言いません!」
「わかった、わかった。今、電話する」

「あ!鉄平か?武だよ。今、電話大丈夫か?え?LINEにしてくれって?おまえ、テキストじゃないとダメなの?あのな、おまえに彼女を紹介する。ぼくの妹だ。え?いやだって?美人だぞ。カワイイぞ。え?女性恐怖症?何言っているんだおまえは。あのな、鉄平、キミはぼくの『いちご100%』全19巻を返してないだろ。だから、キミはぼくに借りがある。ぼくの妹とデートしなさい。え?デートなんかしたことないからわからないって?うるさい!明日だ!明日の土曜日だ!え?じゃあ、千駄ヶ谷の駅で待ち合わせるって?なんでそうなる?え?ちょうど出かけるから?どこ行くんだ?教えないって?バカなのか?おまえは?十二時に改札口で待ってるって?おい、直接、妹と話せ。え?イヤだって?怖いって?まあ、わかった。おまえのLINEを教えておくからな。写真も送る。おまえの写真も妹に見せる。妹の名前は楓だ。高校三年生だ。ほら、紅葉して赤くなる楓だよ。う~、まあ、いい。明日、妹を千駄ヶ谷に行かせるから。ちゃんとデートするんだぞ。じゃあな」
「あの、タケシさん、『いちご100%』って、あのマンガの『いちご100%』?」と美久。
「そうです。河下水希の『いちご100%』です」
「それって、いちごパンツの女の子の?」
「そうです」
「わ、私じゃないですか?私と付き合う前から、いちごパンツ、好きだったんですか?」
「言ったでしょ?美久と付き合う前はぼくは二次元の女の子しか縁がなかったし興味がなかったって」
「私、感激です!いちごパンツのご縁です」
「そうなんだね。運命だね」

(何、言ってるんだか。お兄と一緒の時は東城綾キャラだけど、それ以外の時は外村美鈴キャラじゃないの。私はさしずめ西野つかさかな?私もいちごパンツはけば彼氏ができるかな?・・・おっと、お姉さまが乗り移ってきた。ナンマンダブ、ナンマンダブ)

「二人共、いちごパンツの話は、二人だけの時に何時間でもしてちょうだい!それより、その丸尾鉄平さんって、どんな人なの?」
「え~っと、写真、あったかな?・・・ああ、あった。こういうヤツ」とタケシはスマホの鉄平の写真を見せた。
「鉄平って名前で、いかつい人かと思った。メガネかけているのね。ニヒルな表情だけどハンサムじゃない。これで彼女がいないの?」とカエデ。
「あら?すごくイケメンじゃないですか?タケシさんよりカッコイイかも」美久がスマホをのぞきこんだ。
「美久、何言ってんの?あのね、鉄平は、全然いかつくない。身長は180センチでぼくより高い。痩せてヒョロっとしている。さっきの電話でわかったように、臆病だ。ぼくよりも頭がおかしい。数学科だ。数学科にはキチガイが多いんだ。彼女いない歴イコール年齢だ。あとは、本人を見て判断して欲しい。キミが四拍子と言うから、極めつけの四拍子だぞ、カエデ」
「う~ん、想像つかない!まあ、いいわ。会えばわかる」

 翌日、楓が千駄ヶ谷駅の改札口を出ると、丸尾鉄平らしき男性が突っ立っていた。長身なので見当がついたのだ。改札口に背を向けて外を眺めている。ダッフルコートを着ていた。楓はピーコートに黒のタートルネックにグレーのフレアーのミニスカート、パープルのストッキング。もちろん、いちごパンツははいていない。8.5等身以上あって身長170センチ。どの男性も振り返って楓を見ている。

 楓はトンっとジャンプして鉄平の真横に立った。「丸尾さんですよね?ヒョウドウカエ・・・」と鉄平の顔を見上げて言いかける。丸尾鉄平は横っ飛びに飛び離れた。「ワッ!び、びっくりした。心臓が止まるかと思った・・・え、ええっとタケシの妹さんの楓さん?」「ハイ、そうです。初めまして。今日はよろしくお願いいたします」とお辞儀した。(なんでそんなに私から離れてるの?私は危険物質?)

「何を見られていたんですか?体育館?」と丸尾に聞くと、
「ああ、千駄ヶ谷って地名を考えていたんですよ。『ヶ谷』と小さい『ヶ』に『谷』ですが、江戸時代初期は、『萱(かや)』つまり屋根をふくいね科の植物の名前に『千駄』、つまり、千の『馬の荷駄』という意味で、ここいら辺は萱が豊富に生えていたんだなあ、と思って」
「とすると、ここいらは低地であったと。『萱(かや)』を『ヶ谷』と書くとすると、谷間だったのかもしれない。そうすると、水源はどこだろう?と。線路向こうの新宿御苑が水源だった可能性もある。渋谷川という川が流れていたらしい。国立競技場の向こうに坂道があって、『勢揃坂(せいぞろいざか)』というんですが、1083年の後三年の役の時、源義家が奥州征伐に向かう軍勢を勢揃いさせたんで勢揃坂というんですよ。つまり、この駅はこの周辺で一番低い位置で川底だったのかなと。ご存知でした?」
「ハ、ハイ、知りませんでした(こいつはタモリか?)」
「当たり前ですよね。楓さんもぼくも鎌倉時代に生きていたわけがない」
「エ、エエ・・・」
「しかし、実に興味深い。そうは思いませんか?ふ~む」と腕組みをする。
「あ、あの、丸尾さん、今日はどこにお連れいただけるんでしょうか?」
「え?ああ、忘れていました。今日は、もともと国立能楽堂に行くと決めていたんです。午後一時開演なんです。さ、行きましょう」と楓をおいて、駅の右手に歩いていってしまう。あわてて楓が追っていく。

(普通、デートで十二時待合せって、まず、食事とかするもんじゃないの?それともこの数学科の歴史マニアは食事を忘れてしまっているの?)

 楓が丸尾鉄平の左手をとろうとした。丸尾は楓の手がちょっと触れた途端、「か、楓さん、何をされるんですか?」と手を振り払う。「え?手を引いてもらおうと思って・・・」「な、何を言っておられる。今日お会いしたばかりで、手をつなぐなどと!それに、ぼくは女性恐怖症ですので、楓さん、申し訳ないが、距離をとっていただけませんか?それと女性が車道側を歩いては行けない。こっちに来なさい」と丸尾は自分の右側を楓に指し示した。
 
 おっかしな人。女性恐怖症だって言ったり、手を振りほどいたり。まあ、初めて会って手をつなごうとした私も悪いか。それで、車道側は危ないとか、紳士的だし。でも、私に赤くもならず普通に喋れるじゃない?なんだろう?この人、と楓は思った。
 
 鉄平は鉄平で、おかしい、女性に赤面もしないし、不快でもない、変だ、ぼくは楓さんなら大丈夫なのか?と思っていた。
 
 二人は、能楽堂前の交差点を渡り、能楽堂の正面玄関に着いた。丸尾は楓のチケットも手配してくれていた。普通は今日の明日でチケットが手に入るわけではない。楓も演劇など時々見に行くのでチケットが入手困難なのを知っていた。
 
「丸尾さん、昨日の今日でよく私のチケットまで入手できましたね」
「ああ、ぼくの知り合いに能の演者がおりまして、その伝手で、知り合いの好事家を紹介してもらいまして、次回の公演のぼくのチケットと交換してもらったんですよ」
「あら、悪いことしちゃいましたね」
「タケシの頼みだからね。妹さんをお連れするのに、おかしな場所じゃあ申し訳ないし、ちょうどぼくも来ることにしていたので」
「それはありがとうございます」

 国立能楽堂に来るのは楓は初めてだった。玄関広間から入って、右に曲がった。受付、渡り、広間、西歩廊を通って、扉四から能舞台のある見所に入った。高い天井に檜の能舞台が正面に見えた。丸尾は慣れた様子で、一番前の11番、12番席に歩いてゆく。能舞台の檜の階段下すぐ側だった。
 
(ここ、特等席じゃないの?うわぁ、舞台が目前よ)

「楓さんは初めてですか?」「ハイ、初めてです」「今日の公演は、特別講演で、能の誓願寺、狂言の節分、能の大仏供養の三題を演じます。金剛流、和泉流、観世流の演者が出ます。ぼくは説明しません。楓さんは、先入観なしに自然に出し物を見られた方がいいでしょう」

 楓は、初めての能を正面で見て、終演の三時半まですべてを忘れて見入ってしまった。(うわぁ、すごい!)
 
 丸尾と楓は、能楽堂から出て、さてどうしようかと。それで、昼飯を食べていなかった楓のお腹がなった。(ありゃりゃ、聞こえちゃったかな?)

「あ!楓さん、申し訳ない。お腹が空いているんですね?しまった。昼飯とかすっかり失念していました。ゴメンナサイ。どこかで遅い昼飯を・・・」
「丸尾さん、私にいい考えがあります。タクシーで北千住まで行って、知り合いの居酒屋に行きましょう。たぶん、タケシお兄さまもいると思いますよ」と丸尾の返事も聞かず、道路に出て、タクシーを止めてしまった。

 楓がタクシーに先に乗り込む。丸尾は楓から距離をおいて、ドアに張り付いている。(変な人だなあ。本当に女性恐怖症なのかな?)いたずら心を起こして、楓は丸尾の方にちょっと体を寄せてみる。
「ちょ、ちょっと楓さん、近寄らないで。近いです」と言う。
「でも、丸尾さん、女性恐怖症って、赤面したり、女性を気持ち悪がったりするもんじゃないんですか?丸尾さん、私には普通に話してくれていますよね?」
「た、確かにそうですね・・・なんでだろう?タケシの妹だからかな?匂いが似ているから、安心するのかな?」

「あれ?丸尾さん、私、タケシお兄様の義理の妹ですよ。聞いていませんか?血はつながっていないんですよ」
「え?そんなこと聞いてません・・・まあ、タケシは女性の話しをぼくにすることもないですからね。無駄と思っているんでしょうから」
「丸尾さん、面白い人・・・ねぇ、練習しません?」
「練習?」
「私と手をつなぐの」
「そ、そんなこと・・・」
「ほら!」と楓は丸尾の右手を握ってしまう。
「ちょ、ちょっと楓さん!」
「ほら、平気じゃないですか?」
「あれ?本当だ。なんでだろう?・・・楓さん、女の子の手って、フワフワしていて柔らかいんですね?」
「手握って平気なら、腕組んじゃったら?」と楓は腕を絡めてしまう。胸を擦り付ける。
「楓さん!ち、近い!それに胸、当たってます!」
「なんだ、大丈夫じゃないの」と楓。タクシーの運転手がバックミラーをのぞいて、(なんだ、これは?)と思っていた。
 
 分銅屋の暖簾をくぐるとタケシと美久、三人組がいた。節子は板場で和服で涼しい顔をしている。楓は丸尾の腕を強引に絡めながら「こんばんわ~」と言って入っていった。丸尾は店の中に女性が五人もいるのを見て取って「ギャッ!女性がいっぱいだ!か、楓さん、失礼します!」と後ずさりしようとするが、楓は強引に引きずり込んだ。

 カウンターにいたタケシは目をまん丸くして、楓と丸尾を見ている。「て、鉄平!おま、おまえ、女の子と、楓と手を組んでるぞ!赤面もしてないぞ!震えてもいないぞ!どうしちゃったんだ?」と丸尾に言う。
「いや、タケシ、あの、どうも楓さんは大丈夫みたいだ・・・」

「う~ん、信じられん」と首を捻ったが、みんなに丸尾を紹介した。「みなさん、彼はぼくの大学の同期の丸尾鉄平くん。数学の天才だ。それと能と歌舞伎と歴史マニアで、おまけに女性恐怖症なんだ・・・カエデは例外みたいだけど・・・今日はカエデとデートさせたんだけど・・・」

「あ、みなさん、丸尾鉄平です・・・楓さん、ぼくの席、この端っこでいいかな?女性が近い」とI字のカウンター席の端に座った。カエデが横の席に座る。腕を組みっぱなしだ。タケシは、美久、女将さんと三人組を丸尾に紹介する。丸尾は女性五人が面前にいて死にそうになった。それでも腕を組んでいる楓は彼には平気だった。

「カエデ、会ったそうそう腕まで組む仲になったのか?」とタケシが聞く。
「女性に触られない、触られるのが怖いって丸尾さんが言われるから、練習してます」とカエデ。
「う~、頭が痛くなってきた。鉄平は絶対そういうことができない体質なのに」

「試してみよう。ちょっと、美久」とタケシは美久をカウンター席から立たせた。丸尾の座っている端の席に手を引いて連れて行く。
「美久、丸尾を触ってご覧」と無理やり美久の手を丸尾の首筋に擦り付ける。
「ギャッ!タケシ、何をするんだ」途端に丸尾は真っ赤になって首筋をゴシゴシこすった。
「ね?普通は女性に対して、鉄平はこうなるんだ」
「タケシさん、私って丸尾さんにとって危険物質なの?」と美久。
「そうだ。美久に限らず、女性全員が。それが見てご覧。カエデは平気で鉄平にすがりついていて、隣の席に座っていても平気だ!なんなんだ?これは・・・う~ん、この前までカエデは自分がLGBTと勘違いしていたから、性差の意識が普通の女性と違うからかなあ?」

(ん?ちょっと、待ってよ。丸尾さんは私以外、女性が体を触れられない。私には免疫があるみたい。背は私よりも高い。数学者。知的だ。私の知らない能と歌舞伎と歴史マニア。顔はハンサムだ。ということは?)

「美久お姉さま、私も運命の人を見つけたようよ」と美久に言う。「え?」と美久が驚いてカエデの顔を見た。カエデは丸尾に向き直って、「丸尾さん、私とお付き合いしてください。私をお嫁にもらって下さい」と言った。丸尾はのけぞった。

 前回は、会った翌日、美久のお嫁にもらって宣言で、今回は会ったその日の楓のもらって宣言。一同、再度唖然とした。
 
 鉄平と反対側のカウンターに座っている佳子が板場の女将さんと節子においでおいでをする。「何?佳子?」と女将さん。「女将さん、あのさ、わたしら、頭悪いじゃん?で、ヤンキーやって、でも、まあ、だんだん普通になってきたよね?節子も板場がピッタリ合ってきたし、紗栄子も自衛隊行くとか言ってる。わたしにも普通の彼氏ができたし、ね?で、あの四人って、わたしらと違って頭いいじゃん?女将さんもそうだけど。頭のいい大学に行くと、みんなああなっちゃうの?」
 
「う~ん、私も物理学専攻だから、人のこと言えないけど、実際の話、物理学科とか数学科は、おかしい人が他の学科よりも多いのよ。化学科とか、それほどでもないの。それで、物理学科でも実験物理よりも理論物理の方がおかしい。私とタケシくんは実験物理よりだけど、美久は理論物理だからね。数式が頭をスクロールするなんて、おかしいのよ。それよりもさらにおかしいのが数学科。物理学は実体があるけど、数学に実体はない。絵描きは物理学者に似ているわね。音楽家は数学者みたいなもの。実体のないものを研究対象にしているとおかしくなるかもね」

「なんか、ややこしいカップルがまたひとつって感じですね?」と紗栄子。
「どうなっちゃうんでしょうね?あのカップル?」と節子。
「また、童貞と処女のカップルだよ」と佳子。




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