『捨てる、その過程』改訂版
私がサークル発表会のために書いた戯曲の台本(改訂版)を全文掲載します。5分尺のごく短い台本(というか、詩?)なので、ぜひご覧ください。
『捨てる、その過程』
作・緒方美月
私が娼婦になったらあなたが最初に来てくれる?
花占いも
白い吐息も
月を眺めるのも
あなたとの日々にくらべれば
どうでもいいよなことなのです
……どうでもいいよなことでした
私が娼婦になったら
悲しみいっぱい背負って来た人には翼をあげよう
私が娼婦になったら
あなたのにおいの残ったプライベートルームは
いつも綺麗に掃除して悪いけど誰も入れない
『花に嵐のたとえもあるさ』
私が娼婦になったら
アンドロメダを腕輪にする呪文を覚えよう
私が娼婦になったら
誰にも犯サレナイ少女になろう
『さようならだけが人生だ』
でも
また来る春は何だろう
淋しい時にはベッドにはいってあなたのにおいをかいで
うれしい時には窓に向って静かに次に起こることを待ち
陽が落ちる頃にあなたにむしょうに会いたくなったなら
息を殺して遠い星の声をきこう
あなたに雨傘さしかけたい
キスしたあとに囁きたい
コーラとペプシをチャンポンしたい
埃より小さな星、食べたい
私が娼婦になっても西から東へ月が沈んで
私が娼婦になってもあなたはずっと夢を見てて
わかっていてよと伸ばした腕に
止まる小さな黒い蝿
振り落とされて惨めに蠢く
牛乳の中の黒い蝿
果たされない約束がしたい
月夜の晩に散歩がしたい
トイレに行きたい
セックスしたい
『東京へ行きたい』
嘘
待ちたい
水平線で凍死したい
夜をぶっとばせ
ヒールを鳴らせ
『揺れる耳飾り』
耳、赤いよ?
触れる、振れる心臓
何がしたい?
覚醒
わたしのからだにとじこめられた
ほんとのわたしは泣いている
満身創痍で慢心
『また来る春は何だろう』
女神じゃないのは知っていた
でも
女神になれると思ってた
アンドロメダの腕輪だって
私のものだと思ってた
十八、十九をいったりきたりしながら夢だけを観させてね
好きだった、雪だったあのころの日々そのものだった君
天使にできないこと、あくび、ふたり音重ねて引くプルリング
なんて わたしの言ったりしたこと全部忘れてね
映画が見たい 見たかった
散歩がしたい したかった
夜桜見物 したかった
あなたとふたりで歩きたかった
果たされない約束
流せない軽口
娼婦になってもだめだった
花に嵐はもろかった
……覚醒
私が娼婦になったらあなたは来てくれる?
私が娼婦になったらあなたが最初に来てくれる?
私が、
私が娼婦になったらあなたが最初に来てくれる?
私が娼婦になったらあなたと最初にさようなら
P.S. この台本は、寺山修司『書を捨てよ町へ出よう(評論版)』タイマーズ『デイドリーム・ビリーバー』など、多くの作品から影響を受け、作成しました。noteの『戯曲解説版』にて、この戯曲のどこがどう引用されているのかについて記しています。
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使途不明金にします