糸井さんの偽ウォークマンのエピソード
糸井重里さんが書かれた「ほぼ日刊イトイ新聞の本」という文庫本がいつも机の上にある。ご本人が主宰されていたWEB新聞「ほぼ日刊イトイ新聞(以下「ほぼ日」)」の立ち上げに関する本である。
2001年に糸井さんの「インターネット的」という本に読んで、糸井さんの考え方って新鮮だなと共感し、ほぼ日読者になり、糸井さんに関する情報を必死に読んでいた。そんな中で「ほぼ日刊イトイ新聞の本」に出会った。
この本にはどうしても忘れられないエピソードがある。忘れられないというか、その後の私の考え方の基本になるエピソードがある。
それがタイトルにある「偽ウォークマン」の話である。できれば皆さんにも読んでいただきたいので、簡単に話すと、糸井さんがパチンコの景品でとった本物の(ソニー製の)ウォークマンではない、海外製パチモンの「偽ウォークマン」にまつわる話である。
糸井さんはパチンコで手に入れた偽ウォークマンを、小さかった娘さんのおもちゃにでもなるかなという雑な想いで娘さんにあげたそうである。すると、渡したことすら忘れたある日、娘さんから「今度、新しいイヤホンを買って」と言われたそうです。「いいよ、買ってあげると」いいながら、娘さんを見ると、大きく無骨な偽ウォークマンにイヤホンをグルグルに巻き付け、枕元に置いて布団に入ったそうです。
バブル絶頂だった当時を想像すると、大人だったら、本物ウォークマンを使い、壊れたら買い換える、新しいモデルが出たら買い換えるというような時代だったと思う。きっと買った時の満足感がピークで、買った瞬間から、次のモデルに買い換える理由を探していたような時代ではなかっただろうか。
そんな中、無骨な偽ウォークマンを大事に枕元に置く娘さんに糸井さんは衝撃を受けた。壊れたイヤホンだけを替えて、大きなウォークマンを使い続けようとする娘さんに衝撃を受けた。その時の衝撃を糸井さんはこんな風に書いている。
「こいつのほうが、かっこいい」
「ほぼ日刊イトイ新聞の本」より
その通りだと思った。人がモノを大事にしているのを見るのは気持ちがいい。モノに限らず、他人を大事にしている人も清々しい。この気持ちは忘れないようにしようと私も思った。
買った瞬間がそのモノに対する愛情のピークで、時間の経過とともに愛情が減っていくようなモノとの付き合いは止めようと思った。逆に、使い続ける時間が長くなればなるほど、メンテナンスを繰り返せば繰り返すほど愛情が増す。そんなふうにモノと接していきたいと思う。
壊れた家電を修理に持っていくと、買いなおした方が安いですよと言われる。OSが新しくなると古いモデルは使えなくなる。そういうことが増えている現代ではあるが、「人がモノを大切にする」ことに価値を感じる人が多い社会であって欲しい。
うるさい年寄りの言葉のように思われるかもしれないが、「人が他人やモノを大切にする」社会、「それを見ると気持ちいいと思う」社会にはまだまだ未来はあると思う。