彩瀬まるさんのおすすめ作品5選【読書案内】
こんにちは、miharuです。
本日は、繊細な心情描写が美しい小説家、彩瀬まるさんのおすすめ本を5冊紹介します!
私自身、大学に入ってすぐのころ、彩瀬さんの本と図書館で出会い(当時は装丁やタイトルを見て気になったものをすべて借りていました。表紙借りです笑)、その独特な感性や表現力の虜になってしまいました。
初めに、今回紹介する作家の彩瀬さんについてです。
【彩瀬まる】千葉県幕張市出身。上智大学文学部卒業後、小売会社勤務を経て、2010年「花に眩む」で第9回女による女のためのR-18文学賞読者賞を受賞。2016年、『やがて海へと届く』で第38回野間文芸新人賞候補。2017年、『くちなし』で第158回直木三十五賞候補、第5回高校生直木賞受賞。2019年、『森があふれる』で第36回織田作之助賞候補。(参考:Wikipedia 「彩瀬まる」)
それでは早速見ていきましょう!
1.彩瀬作品初心者はまずこれ!『骨を彩る』
5編からなる連作短編集。彩瀬さんの作品の良さは特に短編に出ていると感じているので、今回紹介する作品はすべて短編ものです。勿論長編も好きなんですけどね。
読書を普段しない方、彩瀬さんの作品初心者の方にもおすすめな作品。生と死を連想させる作品が多い彩瀬さんの世界観を存分に味わえます。
この作品はすべての物語が「骨」に関係しており、登場人物の様々な心情の移り変わりが「骨」によって描写されています。
ひとつめのお話は「指のたより」。10年前に妻の朝子を大腸がんで亡くした津村が主人公です。光恵という新しい恋人ができ、娘の小春も協力的な様子を見せていたある日、数年ぶりに妻が夢に出てきます。夢の中の妻はがんになる前のように朗らかに笑い、幸せそうな表情を見せていました。しかし奇妙な点がひとつだけ。妻の手の指の数が、彼女の夢を見るたびに一本ずつ減っていくのです。
なぜ妻は急に夢に現れるようになったのか、なぜ指が欠けていくのか。そんな疑問を抱えた津村は、生前に妻が書いていた手帳を見つけます。懐かしさと不安に駆られながらページをめくり飛び込んできた言葉は、「だれもわかってくれない」。がんになり、身体がぼろぼろになるにつれて家から出たがらず、機嫌の悪さが際立つようになった妻の姿。刻一刻と変わってしまう妻を恐ろしいとすら感じていた自分。逃げてしまっていた自分と十一文字の重さに向き合うために、妻は夢に現れたのでしょうか。
ちなみに2作目は、津村の恋人である光恵が主人公です。個人的には最後の「やわらかい骨」がお気に入り。弱さを抱えながらもうまく向き合いきれない人々の、希望の糧になるような柔らかなお話の数々です。
2.『神様のケーキを頬ばるまで』
錦糸町の雑居ビルに集まる人々を主人公とした、こちらも連作短編集。読後感の良い、いい意味でさらっと読める作品を求めている方にもおすすめ。
登場人物はみんな、前を向いて日々と生きようとしながらも、なぜか物事が上手くいかない、そんなもやもやを抱えています。
ひとつめのお話の主人公は、雑居ビルでマッサージ師をしているシングルマザー。夫の暴力から解放された後も2人の子どもとのかかわり方に悩み、それでもマッサージを受けに来る人々との交流を通して、少しずつ気持ちにほんの小さなゆとりを見つけていく物語です。彼女の過去やエピソードには暗い側面を感じるかもしれませんが、だからこそ、現実を生きる私たちと近いところに彼女たちは生きているのだと思わされます。
もう一つ、この短編集には「ウツミマコト」という名前だけ登場する映画監督がいます。彼のつくった映画『深海魚』が度々会話の中で取り上げられるのですが、登場人物それぞれの映画の観方がとても興味深いんです。この点も要チェックですね。
解説は柚木麻子さん。テンションあがるでしょう?笑
3.『まだ温かい鍋を抱いておやすみ』
食がテーマとなった短編集。人間の温かみを感じられる、穏やかな結末を好む人におすすめ。
個人的に特に好きなのは「かなしい食べ物」。昇降機や演劇ホールの設計に携わる透と、彼女である灯のお話です。
付き合ってしばらく経ち、同棲を始めることにした二人。灯は透にレシピを差し出し、「枝豆チーズパン」を作ってほしいと頼みます。人に作ってもらうこのパンが好き、という灯は、完成したパンの出来に関わらず冷凍保存をして定期的に食べ、それから透に何度もねだるようになりました。透がほかの具材を入れようかと提案しても頑なに断り続ける灯。そこにはある理由が隠されていたのです。
作中に出てくる食べ物もとても美味しそうなんです。ぜひ何かつまめる環境で読んでくださいね。笑
4.『朝が来るまでそばにいる』
ここから紹介するのは、彩瀬さんワールド炸裂のちょっと不気味で繊細な作品たち。
大切な人の死をテーマにした短編集、というとありきたりに聞こえてしまうかもしれません。この作品は、いうなれば「死に起点をおいた」お話です。生きている時間を「死の前の時間」と捉えて読んでみるのもいいと思います。
おすすめは2作目の「ゆびのいと」と最後の「かいぶつの名前」。前者は少しホラー要素を感じる方がいるかも。火葬をしたはずの妻が、いつも通りに家で自分を迎え、生前と変わらぬ振る舞いを見せるのです。妻と本当の別れをするために、主人公は妻を連れて行けなかった新婚旅行に向かいます。
後者は学校が舞台。いじめを受けて学校で自殺を図るも成仏しきれなかった少女のお話です。少女と唯一認識できた荻倉先生と交わす言葉が印象的。「誰も彼もが乱暴だった。うまくものが見えず、声が出せず、自分か他人を痛めつけずにはいられなかった。私もあの子も、みんなみんな。」
名前のない気持ちをそっと代弁してくれる、静かな話の数々です。
5.『くちなし』
最後に紹介するのはこちら。
非現実的でグロテスクな描写があるにもかかわらず、人間味あふれる登場人物のやり取りを感じられる、不思議な作品です。
1作目の「くちなし」から独特の世界観。アツタさんと不倫をしていたユマ、そしてアツタさんの妻が登場します。
10年も不倫を続けたその最後に、ユマはアツタさんの片腕をもらうことを望みました。(作品の中では、愛する人の指や片腕を交換するのがよくあるそう。。。)アツタさんの片腕に甘やかされる日々を送っていたある日、彼の妻が「腕を返して」と現れるのです。ユマがそこで下した決断が衝撃的。ラストも妖艶でどこか物悲しい。そのかなしさに惹かれてしまうのです…。
一見歪んだ愛情表現に見えるそれらが、見方を変えれば苦しいほどにまっすぐで、きれいなものだったりするのかもしれません。自分なりに少しずつ想像して、想いを馳せて欲しい一作です。
【おまけ】心揺るがすドキュメンタリー『暗い夜、星を数えて―3・11被災鉄道からの脱出』
短編集ばかり紹介してしまいましたが、彩瀬さんが実際に体験した東日本大震災のルポルタージュもおすすめです。最後にこちらを紹介してお暇します。
あの日、福島に一人で向かう途中で地震に見舞われた彩瀬さん。余震、津波、避難所、原発事故……。押し寄せる不安の数々と、偶然知り合った人々のあたたかさが手に取るように想像できる気がして、ページを繰る手が止まらなかったことを覚えています。
それでも、あの日にあの場所で体験しなかったらきっと分からない。「こんな、手品みたいに」流されてしまったことがどんなに苦しいのか。だからこそ、知らなければならないのだと思います。ちゃんと、忘れないために。
いかがだったでしょうか。最後はしんみりしてしまいましたが、どれも全部いい作品!大好きな作家さんだということが伝われば何よりです。笑
週に1回ペースでゆるゆる更新したいと思いますので、また覗きに来てくださいね。
では。
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