これからの時代に求められる「企業の品格」とは - BE+Social VOICE #1(2/3)
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経営陣が非財務資本にコミットし、経営陣だけではなくて社内を巻き込みながら考えられているか
うまくガバナンスを効かせながら社会関係資本を作り上げている企業や事例などありますでしょうか。
非財務資本に関して言うと、例えば、株式会社 丸井グループの統合報告書がすごく面白いです。ソーシャルなところとか非財務資本のところって、大手はどこもやっていますよね。ただ、スタートアップ企業の場合は全社的に簡単にやれる。大きなところは全社的には簡単にやれないところがあって、どうやって全社的にやるかというのも課題ですね。丸井は統合報告書が行動指針になり、自分たちのミッションなりビジョンに繋がっているのもあって、経営陣が一生懸命作っているのが見て取れます。これぐらい経営層が財務以外のところにコミットして何か資料一つ作っているだけでもすごくメッセージはあると思うし、経営層自体がそこに足を踏み込んでいるのはすごくメッセージ性があると思いますね。
ちょっとトゲのある言い方をすると、単にSDGsバッチを付けていればいい訳ではないということ。経営陣が本当に考えているところを見せる、それを経営陣だけが考えるのではなくて、社内を巻き込みながら考えているかという非常にシンプルでオーソドックスな話ですけど、それをできるかだと思いますよね。非財務資本を含めて経営の重要な目標を見せて、ちゃんと捉えるということを言えるか。
本質的に言うと、元々三方よしの商人哲学を掲げている企業はいっぱいあるので、日本の企業は得意ですよ。三方よしの考え方は、基本的にサステナビリティの考え方だと思いますね。特に彼らが鎖国している世界の中で商売のサステナビリティを考えた時に、社会にも良いことをやり続けないと商売そのものが絶えてしまうというシンプルな知恵ですよね。そこに対する感覚は、日本の会社は長寿企業がたくさんあるので、本質的に持っている会社はたくさんあるはずで、本当は世界をリードしていった方がいいと思いますけどね。ヨーロッパ型のSDGsではなくて、サステナビリティを意識した会社を日本が作れるというPRも必要と思います。
日本人にとって非財務資本は自由すぎるから苦手なのだと思います
日本企業の非財務資本の取入れ方や開示方法に課題はあるでしょうか。
伝統的に日本の会社は資金調達をかなり借入れで担保していて、欧米に比べると株式の調達がかなり少ない。そういうことに起因して企業価値をどうやって上げていくかというところも見せ方が上手くないのはありますよね。財務資本は嘘つきようがないけど、非財務資本の方は掘り起こしてくればいくらでもキャピタルとして定義できるので、そこが欧米は非常に上手なところ。例えば、日本人のやり方はいつまで経っても「センター試験何点でした」みたいなことしか言わない感じですが、欧米は「俺は数学の出来は悪いけど、カンボジアに行ってボランティアしてきて、テニス部もやって」みたいな、そういう見せ方が上手ですよね。私も2年くらいアメリカで仕事していましたけど、日本人は決まったところで勝負しようとしすぎるところがあって、見せ方の勝負が非常に苦手だと感じました。「欧米の人たちはずるい」と言っているけど、彼らは彼らで評価してもらうために、競争優位にするために、すごくストラテジックにやっている。例えば大学の基準で言うと、入試方法を変えさせたりするわけですよね。日本人は決められた入試の中で「どうやって高得点を取ろう」と考えるけど、欧米では「俺に有利な入試に変えよう」という発想をする。
日本人にとって非財務資本は自由すぎるから苦手なのだと思いますね。欧米は自分たちの企業価値を高めるために、平気で国際標準を変えたり、国際ルールを変えたりしにいきますが、私は必要なアクションだと思います。カウンター提案しないで決まった後に「こんなのお前らだけで決めた」と言っているので、一点突破でもいいから何か提案するところから作った方がいいですよね。でも何かやろうと思ったときに、国際標準は政策の話だけではなくて企業の存続にも関わっているから、会社が出ていかなければいけないケースも多くある。
もし仮に非財務資本に関する国際標準が決まっていくとしたら、日本企業が出張って「これが日本の非財務資本のやり方だから、ちゃんと評価するような枠組みを作れ」と言いに行かなければいけないですよね。それを言うためには、そもそも経営陣も含めて会社全体で非財務資本にコミットできる会社がないといけないので、会社全社が本気になるのはすごく大事ですね。
駄目なことも含めて嘘をつかないこと
非財務資本は自由度が高いからこそ開示の方法次第で「やってます感」に終わる可能性もありますが、対外的な発信観点でどういった発信が有効だとお考えですか。
トラストを獲得していくベーシックなセオリーは嘘をつかないことですね。ちゃんと情報開示をして、嘘をつかない。中長期的に駄目なことも含めて出していくことも大事だと思います。短期的に駄目なことを出すとダメージを受けるかもしれないので、この辺の意思決定が難しいですけど。
実は、元々デジタルトラストを研究していたこともあってトラストの話をしているのですが、例えば医師がリモートでどうやって信頼してもらうかという研究をしていたことがありますが、人間だから対面同士で場を共有する関係を持っている方が基本的には信頼されやすいです。リモートはどうしても情報のやり取りだけになるので信頼されにくいところはあります。でも、基本的にトラスト形成のプロセスは、自己開示をしていくことでデータがどんどん増えていくというもの。そこで難しいのは、プロモーションのために情報開示をするのではなくて、やっていることをどうやって出していくのかということ。イコールではないですけど、例えば医療の場合だと、手術の成績をちゃんと隠さないで出すこと。失敗も当然あるので、そこを出せるかがトラストとしては大事だったりします。例えば「国際標準をとるために頑張ったけど駄目でした」というような話も含めて出せると、意外とトラストに繋がったりすると思いますけどね。
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