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経営における無形資産との向き合い方 - BE+Social VOICE#2(1/3)

NECのブランドエクイティ・イニシアチブは、“Listen & Exchange”(市場の声に真摯に耳を傾け、それを企業価値に転換する)をテーマに活動しています。
本マガジン「BE+Social VOICE」では、Listen活動の一環として、企業ブランドが経済的価値と社会的価値の両面にいかに貢献できるかという問いに対して、非財務資本、特に社会関係資本に着目したアカデミア・有識者の方々のVOICEをお届けします。

#1に引き続き、第2回目のVOICEとして、間中 健介 氏のインタビューについてお届けします。

インタビュイー:間中 健介 氏
国立大学法人茨城大学 講師
経済社会保障政策アナリスト
元 内閣企画官
大企業、スタートアップ企業等のアドバイザーとしても従事

資本コストの高まりと無形資産活用による新たな価値創造

なぜ、企業経営において非財務資本を重要視しなければいけないかについてのお考えをお聞かせください。

 非財務資本全体にはいろいろな文脈があると思っています。特にアメリカ企業に比べて日本企業はROEも低いし、PBRも低いという中で、日本企業がマーケットで過少評価をされているのではないかという議論がこの5年、10年くらいあったと思います。元々無形資産を評価するのは、10年以上前からあったわけですけど、特にアベノミクス以降、国民の金融資産が少しはリスクを取っていく側に向かっていき、日本企業の稼ぐ力が高まったけれども、コロナを経てもっと高めなければいけないという中で、無形資産の価値をより高く評価していこうとなっていますし、日本の大企業においても、特にたとえば、エレクトロニクスメーカーは頑張ってきたと思います。ROEは確かに10%くらいを超えているのですが、GAFAは利益率40%という水準で、世界で競争している中でROE10%では足りない。資本コストも高まっている中で、新たな価値を創造していこうという文脈の中から、無形資産を評価していこうということになったと理解しています。

事前ヒアリングの際に徳川幕府の話を例に、日本と社会関係資本の関係性についてお話いただきましたが、改めて教えていただけますでしょうか。

 今日の本題とは違うかもしれないですが、何らかの社会関係資本があったから徳川幕府は260年続いたと思っています。私は荻生徂徠さんの本を読んでいますが、将軍は15人いて、天下泰平という一つの経営哲学がずっと残っていて、ガバナンスストラクチャーとしては侍とそれ以外みたいなものがあって、それ以外の方には自由な経済活動を保証しますと。侍がガバナンスをするわけですけど、侍には武士道という規律を持たせたところが260年もった秘訣なのかなと思っています。そういうところから無形資産のことを考えたいなと思って、事前ヒアリングでお話させていただきました。

下記記事のようなPBR 1倍割れ改善のお話など、政府や証券取引所が企業価値の向上への対策について言及していること含め様々な背景もあるとは思いますが、徳川幕府の話も踏まえて、非財務資本に行き着いているのは日本人と親和性が高いなどもありそうでしょうか。
東証が異例の要請「PBR1倍割れ改善」の"真意" 東証の「キーマン」に聞く企業がやるべき具体策 | 市場観測 | 東洋経済オンライン (toyokeizai.net)

 もちろん三方よしという精神が日本型経営の良さという議論は今でも残っていると思います。それをある程度見える化していくことで、グローバル経済で日本の立ち位置をしっかりしなければいけないという政治的な雰囲気の中で高まってきたことがあると思います。あとは、特に人的資本ですけど、日本企業の労働生産性が低いという議論の中で、賃金をどう位置付けてどう高めるかという根拠をみんなが探している中で、無形資産の議論が脚光を浴びてきたのだと思います。

人々の信頼感が資金調達の格付けを高めることに繋がる可能性も

非財務資本の中でも社会関係資本に焦点を当てた場合、人的資本などに比べて定義がしづらい資本かと思いますが、過去のご経験など踏まえてどのように捉えるのが適切だとお考えでしょうか。

 有識者が社会関係資本を定義しているケースもありますが、各企業がマーケットをどのように捉えているのかだと思いますね。「人材こそ最大の資本です」と言うのであれば、社内託児所というようなものもソーシャルキャピタルだったりしますし、オープンチャットというようなものも社会関係資本と言えると思います。あと伝統的な日本企業の場合は、旭化成の延岡市や日立製作所の日立市といった企業城下町の中で、運動会に寄付したり、労働組合が選挙で地方議員を立てて出したりするのはソーシャルキャピタルですよね。あとは財閥企業がわかりやすいです。昔はメセナという言葉で言ったと思いますが、美術館があるなど、バランスシート上に価値としては出ていないけど、ソーシャルキャピタルとして人々の信頼感を高めている。それが資金調達のときの格付けを高めることなどに繋がっているという気がします。

社会関係資本から別の資本が生まれる

定義が曖昧にならざるを得ないからこそ、なんでもありという風になってしまいそうな気もしますが、何か重要なポイントはありますでしょうか。

 スタートアップの資金調達のお手伝いをやっているのですが、例えば共同研究の本数などは社会関係資本だと思います。共同研究していて、それ自体がテストマーケティングとなって、そこを核にしていろんな自治体と連携という話はありますよね。例えばディープテックのスタートアップと大企業が組むときに、大企業側からするとディープテック企業と組むことによって自治体に入り込みやすくなることでいろんな別の資本が生まれるので、画期的なテクノロジーを持った人たちとの共同研究の本数やクオリティは重要だと思います。設計とかすり合わせの納期を短納期化することにも繋がりますし、オープンイノベーション自体がテストマーケティングでもあるし、そこからいろいろ広がると思う。そういうことが訴求できてないところは、資本として捉えられてない部分ではないでしょうか。

社会貢献して当たり前と考えられている今、刹那的なものはすぐばれる

いろいろな定義や取り組みが考えられる中で、社会関係資本の開示について、きちんと外部に伝わっているとお考えでしょうか。

 大企業だと、生活者は「社会貢献して当たり前」と思いますよね。なので重要なこととして、会社の経営戦略と結びついているような活動をしっかり出す必要があると思っています。たとえば、人類の新しい病気を見える化したい、と考えている研究者と連携して、そこにファイナンスしましたというようなところをプレスリリースするとか、あえて社長が出張っていって自ら話すとか。大企業だとやっていることがいっぱいあって全部同じプレスリリースをしていますけど、この案件は社長が話すというようにメリハリをつけないと、社会関係資本にコミットしていることは一般には伝わりづらいという気がします。
 今は刹那的なものはすぐばれるので、自治体とかのプロジェクトで複数の会社が関わることになったとして、そこにコミットしていますと言ってもあまり伝わらないと思います。

BE+Social VOICE #2(2/3)へつづく