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これからの時代に求められる「企業の品格」とは - BE+Social VOICE #1(1/3)

NECのブランドエクイティ・イニシアチブは、“Listen & Exchange”(市場の声に真摯に耳を傾け、それを企業価値に転換する)をテーマに活動しています。
本マガジン「BE+Social VOICE」では、Listen活動の一環として、企業ブランドが経済的価値と社会的価値の両面にいかに貢献できるかという問いに対して、非財務資本、特に社会関係資本に着目したアカデミア・有識者の方々のVOICEをお届けします。

第1回目のVOICEとして、小塩 篤史 氏のインタビューについてお届けします。

インタビュイー:小塩 篤史 氏
麗澤大学 / EdTech研究センター / センター長/教授
国立大学法人東京大学 / 情報学環・学際情報学府 / 特任准教授
神戸情報大学院大学 / 情報科学研究科 / 客員教授
株式会社Four H / 代表取締役
株式会社IF / 代表取締役
株式会社HYPER CUBE / 取締役

「企業も品格を持ってください」というフェーズに入ってきている

 なぜ、企業経営において非財務資本を重要視しなければいけないかについてのお考えをお聞かせください。

 バックグラウンド的に、データサイエンスとか機械学習の研究という技術的な側面と経営者としての二つの観点でお話をできればと思っています。研究者は常にソーシャルグッドを考えていて、研究をすることでより良い未来を当然作りたいわけで、バッドな未来を作りたくて研究している人は基本的には存在しない。言い換えれば、どうやったら社会に対するより良いことができるのか。もちろん研究は必ずしも全てが社会のためである必要はないけれど、基本的に研究とかイノベーションの領域は社会に対してより良いものを作っていくことが求められます。
 
そういう背景を考えたときに、財務資本で捉えられているところがソーシャルグッドであるところ全てを含めていない。売上が立つとか、会社が大きくなることイコールソーシャルグッドではないので、企業がイノベーションとか新しいことにチャレンジしようというときには、当然社会にとって良いものを作らないといけない。そこの中に非財務資本が含まれていかないといけないところがあって、最近だと特にSDGsやグリーン関係、特にESGの話はヨーロッパでもかなり強く言われているのですが、人を大事にする、コミュニティを大事にする、緑を大事にする、自然を大事にするということは、未来に対して何かを作ろうとしている人間にとってケアをしなければならない要素なわけです。逆に今までケアをしなくてもいいと許容されてきたものに対して、「企業も品格を持ってください」というフェーズに入ってきているということだと思います。今まで当たり前じゃなかった状態が当たり前になってきているところが一つのトレンドとしてあります。

 もう一つ、テクノロジーが変わってくる中で、財務資本で捉えきれないものが過去よりどんどん増えてきている点があると思います。私はデータサイエンスとか機械学習とかAIをやっているのですが、いわゆる情報資本をどの資本に入れるかという問題はあるのですけど、少なくとも機械学習とAIの世界において、データ資本はこれから大きな強みになるわけですね。そこは財務資本だけでは把握しきれないので、どんなデータを持っているのか、どんなデータを取れるコネクションを持っているのか、どんなデータを取れるコミュニティを持っているのかということが、経営企業の競争戦略を考えると非常に重要なファクターになってくる。経営者として見るときには、財務資本だけではなく、より広いキャピタルの考え方を持って企業の本質的な潜在能力をどう評価して価値化していくかを考えないと置いていかれると思います。そういう意味で、時代のトレンドとして「いいことをやりましょう」ということは言われていて、その文脈の中で指標がどんどん多様化してきているので、企業の戦略上も財務資本と非財務資本をどのように蓄積するかが求められているのだと思っています。

非財務が盛り上がってきたといえると思いますが、企業である以上、あくまでも財務につながらないとまだまだ理解されないという点もあるかと思っていますが、いかがでしょうか。

 みんな直感的には非財務資本は必要と思っていますね。ただ、財務資本は明確に定量化ができるし、どのように分析すればいいか定まった規律があるので、企業のライフサイクルを見たときに特殊な捉え方をしなければいけないというバリエーションが出てきているにしても、シンプルに捉えやすい。
 一方で非財務資本は捉え方が難しくて、うまく機能すればより良くさせるきっかけになるかもしれないけど、非財務資本をアリバイ的に使おうと思ったら使えてしまう余地もあるので、「財務状態は悪いけど、こんなに良いことをしているんだよ」と強調することによって、より大きく見せてしまうことも起こり得る。非財務資本側においてどのように評価をしていくかという基準が存在しきれていないところがボトルネック。みんな大事だと思っているけど、何をしていいかわからないから踏み出せない、というシチュエーションだと思います。

社会関係資本は非財務資本の中のインフラ

非財務資本の中でも社会関係資本に焦点を当てた場合、人的資本などに比べて定義がしづらい資本かと思いますが、過去のご経験など踏まえてどのように捉えるのが適切だとお考えでしょうか。

 社会関係資本という言葉自体で言うと、元々の経済学の分野から切り離して考えたときに、私から見ると、企業は社会の中に器として存在しています。器としての境界線をどこに引くかという問題はあるのですが、基本的に社会関係資本があるリッチな会社は信頼されている会社ですね。トラストがある会社。社会関係資本には内部と外部の両方があると思いますが、従業員から良い会社だと信頼されている、外から見ても信頼されている状態というのは社会関係資本があるリッチな状態。内部と顧客だけなのか、さらに国内・グローバル含めてという器のサイズ感があると思いますけど、大きいところに信頼されているのは単純に器の広さみたいなもので、必ずしも大きければ良いということではなくて、ステークホルダーからトラストを獲得できている状態が、社会関係資本がある状態だと思います。

 
あえてこういう言い方をする理由は、これからAIがどんどん入ってくる中で、当然データの取り扱いの問題が出てきますね。我々が一番懸念しているところで、一つは完全にトラストがない状態で何か悪いことをしてしまうと、完全に嫌悪感を抱かれてしまってテクノロジーそのものが否定されてしまうというケースが結構あります。AIなどが社会で実装されようとしたときに、我々は研究者として技術的な開発をしていきますけど、基本的にはトラストがないと本当に意味の深い使われ方はしないので、社会の中での重要性とか信頼をどのように作っていくかも併せて考えていきます。トラストがある会社でないと「データ資本を進めていきましょう」とは言えないと思います。そこをどうやって守っていくかがデータ部門を作っていく意味でもすごく鍵になるし、そういう会社は人も集まってくるので人的資本がリッチになる。社会関係資本そのものは独立した一つの項目というより、どちらかいうと非財務資本の中のインフラに近いと思っていて、社会関係資本があってトラストがある状態に人的資本とかいろんなものが集まってくる構造になっているので、トラストという部分が非常に大事。トラストがないとデータが取れないと思います。

ガバナンスや倫理的な部分、データ保護はすごく大事になる

トラストを作っていくにあたって重要なことは何でしょうか。

 スタートアップ企業もそうですし、例えば研究者も大学そのものがブランドを持ってくれている部分はなきにしもあらずではあるのですが、そう考えたときに、我々の中で大事にしているプロセスは、基本的にはどうやって協創的に作るかですね。いわゆるコ・クリエーションのデザインプロセスの中で、どうやって社会関係資本に該当するような人たちをトラスト形成プロセスに巻き込んでいくことができるか。こちらが一方的にデータの使い方を決めて「これでお願いします」とするのではなく、例えば私は今EdTechとか教育系のデータをやっているので、大学生のデータ解析をしていますといったときに、どんなデータだったら見られていいのかという話を正直にして、線引きをみんなに議論しながらしてもらう。見ようと思ったらアクセスログがあるので、どんな生活を送っているか覗こうと思えば覗けちゃうのですね。でもそれって気持ち悪いと思うのですよ。基本的にトラストを獲得するためにはオープンになっていく、人を巻き込んでいく、透明性を確保するというトラスト形成の基本的なステップが大事で、スタートアップ企業もそこがしっかりできていくと、逆にやりやすいと思います。

 大きな会社だから信頼してデータを預けていたのに、大きな会社であるがゆえに統率が取れなくなっているところは結構出てきているので、その会社とスタートアップ企業でどちらが信頼されるかというとわからないですね。最近ではブロックチェーンを使って「データは勝手に使われません」と。そういう建付けを作ってプロセスを開示していくことによって、信頼を獲得できる可能性はあります。逆に大きなところの方が全体の情報管理の仕組みなどに縛られてやりづらくなったりする部分もあると思います。

 大企業の観点だと、どうやってトラストを壊さないようにするかという問題があると思います。壊さないようにどうするかというと、ガバナンスであるとか、エシックスのような倫理のところはすごく大事だと思いますね。最近ではプライバシーポリシーを単に出すのではなくて、もう少し踏み込んでAIのポリシーガイドラインを作るといった、ガバナンスに関連してデータの取扱いなどのテーマがすごく大事になってくる気がします。これまで以上にいろいろなデータを使うといろんなことが起きてくるので、非財務資本に対する注目が集まり始めると、「こういうデータを取りましょう」という話になってくる。例えば、どれくらいエコロジーに貢献しているかというデータを集めるとか、人的資本経営に貢献したデータを取りましょうと、どんどんデータが集まってきます。その中でデータをどのように使っているかわからないという話になると、どこかで誰かが悪いことをしたら一気にトラストを壊してしまうので、ガバナンスや倫理的な部分、データ保護はすごく大事になると思います。

BE+Social VOICE #1(2/3)へつづく