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経営における無形資産との向き合い方 - BE+Social VOICE#2(2/3)

前回のBE+Social VOICE #2(1/3)はこちら

経営のコミットメントがないと社会関係資本に先行投資できない

社会関係資本を高めることで企業ブランドの価値を向上させている事例として具体的に何か思いつくものはありますでしょうか。

 デベロッパーだとわかりやすいと思っていて、例えば三井不動産の柏の葉キャンパスの事例は企業ブランドを高めていたと思います。デベロッパーは基本的に目線が長期だし、自治体とか大学とか住民に物事をアピールできるので、結構やりやすいと思います。あとナイキだったらアスリートを支援しますと言って、様々な取り組みをしている。もちろんマーケットシェアを狙って利益に繋げるためにやっているのでしょうけど、経営のコミットメントがないと先行投資できないですよね。またそこに向かうメッセージとしては「社会関係資本を大事にしています」ということがあると思います。

投資家からすると短期的な利益を追求せざるを得ないというところがあると思いますが、非財務資本として必ずしも経済価値につながらなくてもいいというお考えでしょうか。

 柳モデルでは、企業が長期的に企業価値を高めるには環境や社会というポイントが必要だと言っていて、多くの人は違和感ないと思うので、目先の売り上げではないと思います。ただし、長期的に社会関係資本を構築したということと企業価値が高まったというところは相関関係があったということを見せないといけないと思います。
 あとは人的資本とか顧客資本とかイノベーション資本とか、プロセス資本とか社会関係資本などの資本がありますよね。これが足し算なのか、掛け算なのかというような議論があって、おそらく足し算でもあるし、掛け算でもあるという気がします。例えばAさんが10億円、Bさんが10億円というときに、20億+αというような感じ。だから足し算を中心にしつつ、そこに掛け目があるということだと思います。

 企業の中には、他機関に人件費を持ち出しで数十人の社員を送っているような企業もあるかと思います。その費用対効果をどう判断するかというときに、送り込まれた人たちが役所とか組織の中で育てば、その人の人的資本価値が高まることに加えて、その人から生まれるネットワークが社会関係資本になるということで人件費の負担が正当化されるのだと思います。そういう意味で人的資本から社会資本が生まれる場合もある。あと例えば、自治体と連携して自治体のシステムを作るとすると、顧客との関係がより広がって戦略パートナーになるということで、顧客資本が社会資本になると思うので、いろんな矢印があると思います。

内部留保するぐらいだったらリスクを取ろうという考え方が会社としてあることが大切

社会関係資本で考えた際に、集中して取り組むべきことやアピールしたほうがいいと思うようなことはありますか。

 日本の成長戦略の観点から今求められているのは、ディープテックに関する共同研究や博士号を持っている人を社員に入れるというようなこと。それは社会関係資本であり人的資本だと思うのですが、日本企業に世界のナレッジを獲得する努力をしてほしいという要請があるのだと思います。それは、大学との共同研究とか研究者コミュニティに対するアクセスのようなことですね。Amazonも経済学者いっぱい雇っていますよね。

コーポレートカルチャーだといえばそれまでな気もしますが、会社として技術をきちんと評価できているということにおけるポイントは何でしょうか。

 グローバルな市場で揉まれながら、内部留保するぐらいだったらリスクを取ろうという考え方が会社としてあることが大切な気がします。
その点でいうと、日本企業だとソニーが優れていると思います。いくつか大学発スタートアップの面倒を見ていますけど、資金調達のフェーズになるとソニーが一番お金を出すのもスムーズだし、知的なものに対する理解がすごく高いと思いますね。「このテクノロジーすごいです」と言われたところで普通は判断できないですけど、マネジメントの力が強いのか、リスクを取る経営をしているのかという話だと思いますが、ソニーは判断する力があるように感じます。普通の会社は「これに1億円出してください」と言っても「出す根拠がない」とか、名前のある研究者が並んでいたとしても、現実的に人を見て判断できないですよね。ソニーはちょっと違うカルチャーなのかなという気がします。

無形資産なるものにお金と時間を使おうという発想にならないといけない

社会関係資本や無形資産の価値を高める会社になれるかといった観点でいうと社内でどのように取り組むのがよいとお考えでしょうか。

 リスクを取る経営をしないといけないですよね。無形資産なるものにお金と時間を使おうという発想にならないといけない。一つ私のアイデアとしてあり得るとすれば、「企業年金を増やしましょう」というようなKPIはあると思っています。企業年金を増やそうと思ったら長期的な目線にならないといけないので、目先の利益だけではないとなって、「自分たちが長期的に追求したい戦略って何だっけ」とみんなが考えるようになる。なるべく長期的な目線で経営していくための一つのアイデアとしてあり得るかと思います。あとはちょっと暴論だと思いますが、配当を増やさずに社員に還元することも考えられます。

仮にそういったある種、長期目線重視のアイデアを実施した場合、資本市場での評価は分かれるかと思いますが、どのような説明があり得るとお考えでしょうか。

 
いろんな競争の中で会社を作り変えていかないといけないという中で、今いる人材により生産性を高めてもらいたいし、モチベーションを持ってもらいたい。短期的に株主に配当を増やすよりは、会社の中の戦力を高めるという発信をするということですかね。

BE+Social VOICE #2(3/3)へつづく