【28話】アメリカ人夫は煽り運転常習犯
家を離れたい理由は他にもあった。あの旅行以来、夫とへの信頼が崩壊しつつあるからだ。
不信感が広がった原因のひとつは、ハンガリーに行く前、彼が(鍵をもらう為に)元カノと会う事を私に言わなかった事。そしてもうひとつ、決定的なのが車の事故だった。
彼の愛車はMazda のスポーツカー。運転が大好き。でも問題は煽りの常習犯だった事だ。夫は運転をすればたちまち人格が変わり、前を走るノロノロ車をいつも煽っていた。「ただ追い越せば良い」と私は思うのだが、彼はご丁寧にもそのノロノロを追い抜き、その車の前で急ブレーキをかけたり、窓を開けてシャウトしたりするのだ。
まだ1人でやるなら良いが、奥さんを助手席に乗せて煽り危険にさらすとは、(守るべき奥さんへの)愛情もなにもあったもんじゃない。
そんな事をやられると助手席の私はたまったもんじゃない。いつもヒヤヒヤした。他のドライバーからの怒りを買って幅寄せされた事も何度もあったし、命の危険さえ感じた。それを彼はいつも「運転がうまい」「シャープな運転」などと自慢していた。
ある日とうとうその事故は起こった。バークレーの家への慣れた帰り道。前に立ち塞がるノロノロ運転にいつものようにキレた彼はその時、一方通行の「ランドアバウト」(円形状になった交差点で一台づつが曲がりたい角を曲がる)で前の車を右から追い抜きにかかった。 「え、まさか!!」 ここは一台一方通行は誰もが知っている。追い越すなんてありえない。しかし彼はやってしまった。
案の定、前の車と追い越し側に接触し、車はスピンして路肩にぶつかり止まった。前を運転していた人は、ありえない彼の行為に激怒して、夫を罵った。夫は私の顔も見ずに、気遣いもせず車、すぐ車から降りて、事故を起こした相手と口喧嘩をした。その間、私は車に置いてきぼりだった。
私は事故自体、相当怖かったのに、事故後も「Are you okay」?という言葉さえなかった。事故は瞬間的に起きるので人も咄嗟の判断を強いられる。そういう時に人間性が出るもの。彼は相手の運転手に対する怒りを爆発させ、私への思いやりの言葉もなかった。
私はこの事故の唯一の目撃者で被害者でもある。特に大きな怪我は無かったが、やはり事故に遭うのはショックだ。私は妻なので、夫側に立ち、真実は見ない事にしていた。結局夫は「あの車は止まっていた」とか言って、保健会社を説得し自分の車の修理代を相手側の保険から捻出しようとしていた。そしてそうなった。でもそのすぐ後に事故の相手側から訴えられて、最終的に夫は加害者となった。
「運転は人柄を表す」って本当だったんだ。温厚な見かけとは真逆に彼の運転は自己中のかたまりだった。元々他人と同じ道路を共有できない、「オレ様」人格なのだ。なんでも自分が正しいと思い込み相手を責める彼の本性が暴かれた事故だった。
そういえば、彼は何年も私の車には乗った事がなかった。言い換えれば私に運転をさせなかった。私はどちらかと言えば安全運転だし、煽りももしない。なのに、なぜ? 要するに「コントロール」は自分でしないと気が済まない人。人の運転で自分の思い通りにならないのは許せないのだ。
この人は「コントロールフリーク」なんだと気づき始めた。
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