【連載小説】「雨の牢獄」解決篇(七)
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【注意】
本投稿は、犯人当て小説「雨の牢獄」の解決篇です。
問題篇を未読のかたは、そちらからお読みください。
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車体が左右に揺れる。
風が強くなってきたかわりに、雨は途切れてきたようだ。
刻一刻と変わる天候。
夜明けが近づいているはずだが、空は鉛色の雲で覆われている。
「〈足跡の密室〉を完成させるためには……離れにサンダルを持ち込まないといけない」
雨脚が弱く、声が聞こえやすい間に少しでも議論を先に進めておきたい、と黎司は思った。
「事件が発覚してから、現場検証でサンダルの存在が確認されるまで、枝野さんには離れに近づくチャンスがなかったはずだ」
脳裏でタイムテーブルを検証する黎司。
「そうだ、このタイミングで共犯の可能性も検証しておきたいんだけど」
「共犯の可能性……」
「枝野さんに共犯者がいて、その人物がサンダルを持ち込んだという可能性……これも考えられなくはないけれど……もし共犯だとしたら、お互いのアリバイを保証しあった方がずっと安全だと思うんだ。私たちはずっと一緒にいたので犯人ではありません、ってね……つまり」
黎司は顔を上げ、瀬奈の横顔を見つめる。
「犯人はあくまで単独犯である……これを僕たちの共通認識にしたいんだ」
沈黙を続ける瀬奈。
強く、弱く、風が車体を煽る音だけが聴こえる。
「同意してくれるかな」
と、黎司が返答を迫ると、
「わかったわ」
と熟慮した様子で瀬奈が言った。
「よし、じゃあ話を進めよう……犯行は単独犯である、ということは、離れにサンダルを持ち込めた人物こそが犯人だということになる」
「そうね」
「犯人がサンダルを持ち込んだタイミング……それはおそらく、事件発見時だ……第一発見者である三人のうち、まず、僕は僕自身が犯人でないことをよく知っている」
黎司は悲しそうに微笑むと、瀬奈は、
「被害者である蘭さんも除外すると……該当するのは」
――能登亜良多さんね、と言った。
「いや……亜良多さんはTシャツにタイトジーンズ……とてもサンダルを隠して持ち歩ける服装じゃない」
と否定した黎司は、
「じゃあ、やっぱり、寅男さんなのね」
「ああ……事件発見時じゃなく、現場検証のときに寅雄さんがサンダルを持ち込んだ、ということか」
「そう」
瀬奈の意外な応答に再度困惑した。
「僕たちは……やっぱり、さっきの問題に立ち返るべきなんだと思う」
「さっきの……」
と怪訝な表情をする瀬奈に向かって、黎司は断言した。
「被害者が離れにいることを知ることができた人物……それこそが犯人だ」