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第二十三回:一曲だからこそシングル盤だったのです

片岡義男『ドーナツを聴く』
Text & Photo:Yoshio Kataoka

ビームスが発行する文芸カルチャー誌 IN THE CITY で好評だった連載が復活。片岡義男が買って、撮って、考えた「ドーナツ盤(=7インチ・シングル)」との付き合いかた


シングル盤は円形だ。シングル盤であろうとなかろうと、すべて円形なのではないか。一本の糸のようにつながった情報をおなじ手段で取り出し、微細な信号を増幅したり加工するにあたって、情報源は円形にしておくのがもっとも都合がいいからだろう。PCに内蔵されているというHDもまだ円形のままだ。このおなじ円形のまま、シングル盤はその時代をまっとうした。シングル盤の時代は三十数年続いたと思う。円形であることに関して、シングル盤はまったく変化なかった。再生してみるとよくわかることだが、シングル盤はすぐに終わる。忙しいのだ。再生装置にほとんど張りついていなければならない。


「一曲だから良かったのです。歌謡曲を考えてみてください。あの歌手のあの曲、ときめてレコード店へ急いだじゃないですか。アメリカのポップスもおなじことです。LPとシングル盤とでは、まずその価格に雲泥の差がありました。シングル盤なら買えたのです。なにか新しいロックを、と求めている人は、『プラウド・メアリー』を買います。ピンク・フロイドも一曲なら手が出るのです」


友人に僕は戒められた。LPが一枚を通して聴き通すべき構成された作品となったのは、ザ・ビートルズの『ラバー・ソウル』からだ。それまでのLPは、ヒットした曲を適当につなぎ、隙間をオリジナルとカヴァーで埋めていく、というスタイルだったではないか。そのとおりだ。シングル盤によって送り出される作品が、ごちゃ混ぜなのも、一曲を選び出すほうの都合に合わせた結果だ、と友人は言う。選ぶ対象がさまざまでしかも数は多いほうがい




片岡義男
かたおか・よしお。作家、写真家。1960年代より活躍。
『スローなブギにしてくれ』『ぼくはプレスリーが大好き』『ロンサム・カウボーイ』『日本語の外へ』など著作多数。近著に短編小説集『これでいくほかないのよ』(亜紀書房)がある。 https://kataokayoshio.com

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