第10回の3:ボウイはヨーロピアン・コンチだった。ずうとるびの新井さんは、ヨシムラの集合管をつけた
高木完『ロックとロールのあいだには、、、』
Text : Kan Takagi / Illustration : UJT
ビームスが発行する文芸カルチャー誌 IN THE CITY で好評だった連載が復活。ストリートから「輸入文化としてのロックンロール」を検証するロングエッセイ
1975年。矢沢永吉が不良たちの完璧なカリスマになりきるには、まだ数年が必要だった。不良たちは自身のロールモデルを模索していた。そんな時、ヘアスタイルはわかりやすくて重要なツールだった。結成時は長髪だったダウン・タウン・ブギウギ・バンドがポマードをてからせ、ツナギをユニフォームにした途端、一気に人気に火がついた。憂歌団の内田勘太郎が自分に教えてくれたことがある。あるとき彼がリーゼントにしてTV番組に出た途端、不良たちに不良としてシンボライズされるようになり、憂歌団のライブにリーゼント頭の若者が来るようになった、と。そんな時代のことだ。
新井はさ、暴走族やってんだよ。
とある不良の先輩から、ある日そんな話を聞いたのだが、にわかには信じがたかった。またあの頃、リーゼントこそが暴走族ライダーのシンボルだと思ってたのだが、TVで見るずうとるびの新井康弘は長髪だった。
しかもよ、ボウイ歌うんだよ。渋いべ。
べ、というのは神奈川ローカルの語尾につける言い回し。先輩はそんな風に話を続けた。
ボウイ? 暴走族がボウイ?
積極的にボウイを聞いたことのなかった自分が、初めてデヴィッド・ボウイを意識した瞬間だ。確かに当時のボウイはヨーロピアン・コンチなスーツに身を包み、当時の不良たちに愛されたフィリー・ソウルを取り入れていた。と言っても中学2年の自分がそのことを即座に理解できたわけではない。後付けでの解釈。しかしこの瞬間、ツッパリとデヴィッド・ボウイが結びついたことに、自分は大きなインパクトを受けた。
中学の頃はロックが好きで、マニアックに海賊盤まで漁る聴き方と、不良少年が直感で惹かれる聴き方の双方の感覚が大事だった。前者からはビートルズに始まり、プログレまで教わった。後者からはキャロル、ユーミンそしてフィラデルフィア・ソウルを聴かされた。その後者にいきなりボウイ。
後年、リアルタイムでボウイを聴いていた立花ハジメさんにこの話をした際には、一笑に付されてしまったのだが。
そんな思いを抱えたまま、長年経ってしまったある日、ずうとるびの再結成を知る。2020年のことだ。
「これはいつかお話が聞けるかもしれない」という期待を胸に、当連載の再開を機に、新井さんの事務所を調べて連絡してみることにした。先輩に話を聞かされてから、45年以上の時を経て、、、
新井康弘さんは、朗らかに語ってくれた。
「デヴィッド・ボウイが好きだったのも確かですし、オートバイ乗っていたのも確かですが、その頃はもう仕事もしていたので、過激な暴走族ではなかったです。仕事の最初は『笑点』で、その頃はまだ中学の終わりだったんで、髪もリーゼントだったんですけど、『その頭で出るのは良くない』と言われ、出るときは前をペタッとさせられました」
テディ・ボーイだったビートルズが、ブライアン・エプスタインによってアイドル化させられた時みたいな話だ。
「当時は格好もそういう族っぽいかんじでしたし、友達も多かったんですが、仕事を始めちゃったんで、暴走族としての活動はしてなかったです。覚えてるのは、グループの始めの頃、『ぎんざNOW!』という番組に出てまして。月曜日がレギュラーだったんですが、ナマ番組で。せんだみつおさんと番組の進行をして、最後にグループの歌を歌ってたんですが、夕方5時からの放送で、つまり学校終わってから高校生が観に来られる時間だったんです。そうすると他の3人に対しては黄色い声が多いんですが、僕だけ何故か野太い声で。『新井~』と声がかかるんですよ。学校帰りの、ちょっとカラーが高く、上着の丈は長くて、見た目で怖がられるような学生たちが応援に来てくれてね。面識はないんですけどね」
「何故そういうファンがいたかは、自分ではよくわからないんですが。オートバイには乗っていて、仕事にもそれで行っていまして。雑誌にもよく載ったんですよね」
その頃乗られてたバイクは?
「カワサキのZ2(ゼッツー)です。それに風防つけて、当時出たての集合管をつけて。ヨシムラの手曲げの集合つけた時のことでは、忘れられない事件がありました」
「スタッフの人から『新井、バイク好きなら日比谷の野音のライブの個人コーナー、バイクで登場するのどう?』と、言われたんですよ。会場にもちゃんと許可をとって、舞台下から上がっていくように。そしたら本番で、まだつけて一週間も経っていなかったヨシムラの手曲げの集合管の底を擦りまして。ポッコリ凹んで、ショックでコンサートどころじゃなくなりました」
(つづく)
お話はまだまだ続きます!