第二十一回:これを聴いてみたい
片岡義男『ドーナツを聴く』
Text & Photo:Yoshio Kataoka
ビームスが発行する文芸カルチャー誌 IN THE CITY で好評だった連載が復活。片岡義男が買って、撮って、考えた「ドーナツ盤(=7インチ・シングル)」との付き合いかた
数年前、夏の終わりのある日、中古レコード店で洋楽のシングル盤を三百枚ほど、購入した。洋楽とは、元来は西洋の音楽すべて、というような意味だった。送りますよ、と言われて、宅配便の伝票を書いた。後日、そのレコードは届いた。段ボールの箱に入っていた。その大きさは、シングル盤をまとめて置いてあるところの、空きスペースにぴったりだった。やれ、うれしや、と僕は思ったに違いない。段ボール箱をそこに置き、一件は落着してしまった。それっきり、そのシングル盤のことは、忘れた。
いまこうして十枚の洋楽シングル盤を取り出してみると、これは買う、これは珍しい、これは持っていないからぜひとも購入する、などとやっていたときのシングル盤配列が、そのままに残っていることに、僕は気づいた。店頭で見たときのシングル盤の配列が、僕の自宅に当時のままにある段ボール箱のなかに、ほとんどそのままに、残っているではないか。配列は店で見たときのままだ。なんら変えていない。
店頭で見たときには、もちろん、選んだ。たとえば、『ルート66』と『ジェームス・ディーンの追悼』のあいだに、デヴィッド・ボウイの『クリスタル・ジャパン』があったのを、僕は避けた。すでに持っているからだ。『ルート66』と『ジェームス・ディーンの追悼』のあいだに『クリスタル・ジャパン』があるのは、洋楽シングル盤の楽しさの神髄のひとつだ。
この十枚をこの順番で聴きたくなった。アメリカの映画館のスピーカーで部屋いっぱいに朗々と鳴るシステムは、いまは使えない。CDのためのシステムは別にある。と考えた僕は、シングル盤専用のシステムが欲しくなった。ターンテーブルの直径はLPも乗る三十センチで、これ以上には小さくなりませんという筐体に二ワットくらいのアンプを内蔵し、両側に五センチのフル・レンジが二発ある、というようなシステムだ。僕が即座に考えるのだから、その道の専門家はとっくに製品化しているはずだ。探してみよう。自宅の段ボール箱のなかに、中古レコード店の配列がそのまま残っている。それは有効に使うべきだ。