第11回の2:ウィキにも載っていない、ギタリスト窪田晴男の知られざるグラム期。ボウイ初来日の衝撃、ミック・ロンソンの「音とポーズ」の一撃!とは?
高木完『ロックとロールのあいだには、、、』
Text : Kan Takagi / Illustration : UJT
ビームスが発行する文芸カルチャー誌 IN THE CITY で好評だった連載が復活。ストリートから「輸入文化としてのロックンロール」を検証するロングエッセイ
「いきなり1曲目に『追憶』やるかんじとかは、ボウイの持っているものの中にそういう要素がすごくあるっての、わかってたからね。ボウイはのちにビング・クロスビーともやるし、あれは僕らより後だったと思うけど」
久々に会う窪田晴男氏は、そう言ってワインを飲んだ。
窪田氏のウィキを見ても、プロフィールは1979年からの人種熱(のちのビブラトーンズ)からになっていて、グラム期のことは書かれていない。しかし、ライブで見たSLAVE(スレイブ)は強烈だった。
「あの時(77年)は活断層でもあったよね。もうパンクが出てきて、スレイブやってる場合じゃないなって、なってきてはいた」
窪田氏はそう言うが、まだ日本ではパンク・バンドもなかなか出てきていない状況(コピー・バンドを除けばオリジナルを演奏していたのはレックの3/3とリズムボックス導入前のプラスチックスぐらいだと思われる)で、彼のグラマラスなステージングは舞台映えしていたし、逗子の少年にとってはまだ見ぬNYやロンドンと違い、憧れてやってきた東京をかんじさせられるものがあった。またライブハウスではなく、〈アトリエフォンテーヌ〉というミニシアターな場所も良かった。
「僕らのスタッフの女の子たちがいろいろやってくれてて。普通の会館でやっても個性が出ないってなって。そうじゃなくて、昼夜やれて、二日続けてやれるところ。高校生のくせに動員800人持ってるから、小さいところでもいいから――っていうんで、いろんなことをできるところないかな、と。で、探してきてくれたんだ」
そう、窪田氏は僕より2歳上なだけ、、、当時高校3年だったのだ。
窪田氏との会話でも度々その話題になったが、日本、東京におけるグラム・ロック的なバンドはどれも基本ニューヨーク・ドールズ的なソレで、見た目はボウイっぽくても音はストーンズ・タイプ。僕が思うグラムはボウイやロキシーのソレで、ちょっと違うのだ。もちろん、ドールズも大好きなんだが、ドールズはグラムというよりプロト・パンク。見た目で最もグラムといえば一時期のミカ・バンド、そして紅蜥蜴もいたが、紅蜥蜴はそれこそ窪田氏が言うように、77年という活断層のタイミングでリザードになろうとしていたわけで、ここいらへんはいずれまた検証するとして、ともかく僕は初めて間近で見た日本のバンドに一発でノックアウトされるのだが、その活動はおそらく活断層期だったこともあってそこから終息していくわけで、見られたことはラッキーだった、と思う。
ウィキにも載っていない、ギタリスト窪田晴男の知られざるグラム期。、、、
「デヴィッド・ボウイのレコードを買って、タダ券もらったんだ。新星堂で。厚生年金会館の2階席なんだけどね。僕ね、当時荻窪の新星堂には毎日入り浸ってて、当時の私のメンターである佐藤さんって人がいて、僕が行くと『よう来た』と言って、1、2枚新しい僕の知らないレコードをかけてくれる。そんなとき『グラム・ロックというのがあるよ』と言われてガーンときて、もしかしたらその佐藤さんがチケットくれたのかも。とにかく音でかいのにびっくりしたよ。ステージの良し悪しもよくわからない。その当時見た向こうのアーティストって言えばエルトン・ジョンとチェイスだから、3個目だ」
デヴィッド・ボウイの初来日を見た人がどれぐらいいるのかわからないが、少なくとも僕の周りにはそれを目撃した人が何人かいる。
中西俊夫、立花ハジメ、フリクションのレック、ヒゲ、、、そして窪田晴男。
「当時の煽り記事で頭ん中いっぱいだったけど、ステージは暗かったよ。全部ピンスポで追うかんじのステージ。(衣装の早替りの)引き抜きとかもやるんだけど、それよりも音量だね。後は今までのロックって長髪でさ、ダウン・トゥ・アースで、ブルース系のかんじがあるんだけど、ミック・ロンソンの歪みって全然ブルースをかんじないんだ。そこにまずやられちゃったよね」
「とにかく音が違う。ファズもシンエイのと明らかに違う。理屈じゃなく、一撃でやられた。上手い下手とかではなく。今考えるとすごいスタイル、ポーズでギター弾いてるしさ」
「その後ボウイ好きでしたって人がボロボロ出てきたけど、あの時タダ券撒いてても、8割ぐらいしか埋まってなかったよ。満杯じゃない。僕の周りではさすがに一緒にバンドやってたやつはみんな知ってたけどね。横山(英規)とか」
横山英規氏と窪田氏は、のちにビブラでも活動を共にする。
(つづく)