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見破られた嘘を隠したかった。

学校の帰り道
ぼんやりとしながら帰路を歩いていると背負ったバッグが引っ張られるような感覚を背後から感じ取った。
どうせ後輩の誰かだろうとどこか冷めた気持ちで勢いよく後ろを向いた。
そして驚いた。
目線の先に居たのは小学生の頃ぼくを救ってくれた人だったから。
 “ よっ ” とぼくに声をかけながら柔らかく微笑んでくれた相手へ向け反射的に笑いを浮かべて “ やっほ ” と返す。
繕う必要が無い相手だったのにも関わらず、笑った

そこからは他愛ない話をし続けた。
成績表のこと。委員会、生徒会のこと。プライベートで遊びに行ける友達が出来たこと。
お互い普段から友人達と共に下校しているためここまでしっかりと話し込めたのは久々だった。
なんだか懐かしい気持ちになりながら話を聞き続け、話し続ける。

「で、この後部活の奴らと三角チョコパイ食べいく」

「お〜、いいじゃん!いってらw」

彼の親はだいぶ制限を緩めてくれたんだなあ、と自分事のように嬉しくなる。
“わたしはこの後勉強会!” と伝えると笑っていた彼の表情が曇ったような気がした。

「それ、親と?」

以前から親との1対1勉強会があったことを知っているからそれと勘違いしたのだろう。
わたしは慌てて友達と家でやると修正を入れた。
“よかった” と笑ってからどこか遠い所を見るようにしそれと同時に唐突な “ごめん” を掛けられ困惑する
何に対してなのか、何かされたかの心当たりが全くないから余計に困惑した。

「俺達3人で遊ぼうって話をした時は俺のせいで遊べなかったのにいまは昨日も出かけて今日もこうして遊んでってして、お前の時とは全然違うから」

一体いつの事を言い出したんだろう
もう2年以上前のことで、それを未だに引き摺っているだとか、思わず笑ってしまう。
わたしが “気にしなくていいのに” と言うより先に、また言葉を繋げてきた。

 「それに、お前のこと置いていった」

息が詰まった
置いていかれたなんて思っていなかった、はずだったから
ただじっと彼を見つめる

「一緒に進むって約束してたのに俺は置いていって距離取って話さなくなって、1人にした」

…違うのになあ
口には出さなかった
だせなかった

「…気にしなくていいよ、それは。
  君がわたしのことを置いていったんじゃなくて、
  わたしが、…ぼくが、進まなくなっただけだよ
  友達と遊び行けるようになってよかったじゃん!」

少し早口になった気がした
でも、こうでもしないと、ぼくはきっと、また彼の優しさに甘えてしまうから
途中からはちゃんと素で話した。
そこからはただの不毛な言い合い。
ススキが揺れる帰路でひたすらお互いの思いを潰しあう。

「毎年一緒に行ってた祭りも今年は行けないし」

「今年はぼく、運営側に回るよ?」

「どうせその後は家に1人だろ」

「そんなん今更じゃんか、何言ってんの?w」

「小6くらいの時は「親がいなくて嬉しいけど広い空間に1人が寂しい」とか言ってたのに…」

「あれ、そうだっけ?」

とぼけたり、誤魔化したり、忘れた“フリ”をしたり。
強がって、少し荒い言葉遣いで話して、彼の優しさを振り払ったり。

我ながら最低なことを、何年も前からしているなと思った。


「まーとにかく、君のせいじゃないよ。
  ぼくが今こうなってるのは。」

作った笑みを見せるのはやめていつも通りの真顔で言った(と思う)。
この話はこれで終わり!みたいにしたかったが頑固な彼は引き下がってくれなかった。

「そうやってまた逃げるわけ?」

その一言に心が抉られる。
多分彼の“逃げる”は嫌なことから目を背けたという意味ではない。
“自分を捨てる”という意味
中1になる少し前、彼が“逃げる”という言葉を使う時は意味をふたつに分けていると言われたことをはっきりと覚えていた。
それが間違いでなければ今回の“逃げた”はきっと、

「そーだよ」

言い訳をするなら脊髄反射。
言い逃れのできない肯定を見せてしまった限りもうダメだ
彼は喋らなくなってしまった。
ぼくの一言から生まれた沈黙の空間は気まずいなんていう言葉じゃ表しきれないくらいに気まずかった
意識を車道に向け紛れそうもない気を紛らわす。
もう彼との別れ道まで歩いてきていたことに少し寂しくなった。

「…そろそろ帰んなきゃだよね
  三角チョコパイ楽しんできて〜」

軽く笑って寄り道も時間潰しもしていたかったこの現状に不釣り合いな“帰らなきゃ”を発する。
“ん、”と短く返事をされ交差点を渡ろうとした時
「何かあったら俺に言えよ」
と、言われてしまった。
“わかってるよw”そう笑って早歩きで彼と歩いた道を外れた。



家に帰るなりXに愚痴った。
心の内に溜めた思いを全て解き放った

もう小学生の頃のぼくらじゃない
ぼくのことを背負わなくていい
手を引っ張って正しい道を示してくれなくていい
わたしは君みたいに自ら暗闇に突っ込んで行けるような度胸がない
生徒会みたいなとこ、本当は怖くて、入りたくなくて、わざと落ちるようにキャラを作った。
時間が進んで止まってくれないのと同じで、君は無意識にも進んで、ぼくはただずっとそれを見てる
進まないで、逃げて、後退って。
君が置いていったのではなくて、ぼくが勝手に追いつけなくなっていたんだ。

ごめんを言うのはぼくだよ

制服のまま床に座り込んで思考を回す
彼は、君は悪くない
ぼくは、大丈夫
この先ずっと生きる予定なんて、ないから
気にしないでくれていい。
気づかないで欲しかった
ぼくが自殺しようとしていたことを。
きっと驚いただろう
大して話もしないクラスメイトが人気の多いところで死のうとしていただなんて
今となってはいい笑い話だ
小5なんてまだ未熟で、はっきりとした決断なんて難しかったはずなのに。
早熟、とでもいうのか。
君は自分の意思で僕を止めに来た
死ねきれなかったぼくもわるい
それをとめた彼も悪い
でも、君を頼って生きてきてしまったぼくも、もっと悪い。
依存に近いなにかを抱いていたのだろうと思う
いま大切な人たちが居るから生きているのと同じように。

どうしようもなくばかだなあ…w
制服の裾で目元を拭う
この後いまのクラスメイトと勉強会か
少し行きたくない、と思いながらも黒いズボンとパーカーを手に取った。
この調子じゃ、あと数日は気持ちの整理が落ち着かないだろうな。
色々考えながら、なあなあにはしないようにと考えながら、鍵と荷物を持って家を出た。


2024/10/15  過去作

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