
地方からなぜBranCo!に?~「ならでは」の発想を武器に~
「BranCo!」とは、博報堂と東京大学教養学部教養教育高度化機構が共催する、“大学生のためのブランドデザインコンテスト”。課題となるテーマについて様々な視点から調べ、その本質を考え抜き、魅力的な商品やサービスブランドのアイデアをつくりだして競い合う、チーム対抗形式のコンテストです。今年のテーマは「人間らしさ」。BranCo!の取り組みは、博報堂が大事にしている”生活者発想”や”ブランドデザイン”の重要性や魅力を学生のみなさんに実践を通じて伝えることを目的としています。本企画では、都市部からの参加が多い中で秋田県からからBranCo!に参加してくださったチーム「おものがわ」に対して、BranCo!に参加しての感想や取組み方について聞きました。

■参加メンバー
チーム「おものがわ」
・大村香琳さん【秋田公立美術大学複合芸術研究科M2】(左下)
・吉田峻晟さん【秋田公立美術大学大学院複合芸術研究科M1】(中央下)
・齋藤操さん【秋田公立美術大学アーツ&ルーツ専攻3年】(右下)
BranCo!学生スタッフ【インタビュアー】
・清水将也(中央上) ・仲稀平(右上)
BranCo!運営スタッフ
・山崎茜(左上)
1 チーム「おものがわ」について
―皆さん秋田の大学に通われていますが、秋田在住という認識でよろしいでしょうか?
吉田) 齋藤くんが秋田出身で、僕と大村さんは大学院進学をきっかけに住み始めました。
―そうなのですね。なぜ秋田からこのBranCo!に参加しようと思ったのですか?
(吉田) 同じ大学(秋田公立美術大学芸術研究科)の先輩から「ぜひ参加したら?」という提案をそれぞれが受けて、このメンバーが集まりました。もともと面識はありましたが、BranCo!に関わりのあった先輩からの紹介でグループとして出来上がりました。
―先輩からBranCo!のお話をされた時はどのようなお気持ちでしたか?
(吉田) 初めての形式のコンテストだったので少し尻込みしましたが、チームができた以上やるしかないと覚悟しました(笑)
(齋藤) 自分は、大村さんと吉田さんがメンバーだったことで、面白い企画が生まれるのではないかと思い、参加を決めました。
(大村) 以前から面白いと思っていた二人と一緒にできると聞き、すぐにやりたいと思いました。
―BranCo!は今まで参加されてきたコンペティションとは具体的にどういうところで違いや難しさを感じていますか?
(吉田) そうですね。僕がビジネスコンテストよりもデザインコンペを出している人間なので、考え方の切り口が違って特定の1つのものを作ればいいわけではないのが非常に難しかったですね。
2 BranCo!への取り組み方
―「おものがわ」というチームや、お互いの印象などをお聞かせください。
(吉田) 大村さんと齋藤くんの深い洞察力が強みですかね。話し合いの中で理解が深まり、議論が進むのがこのチームの強さだと感じています。
(齋藤) 自分は秋田出身なので秋田らしい視点を活かしてアイデアを出し、大村さんと一緒にディスカッションを進め、吉田さんがまとめ役を務めるというバランスが良いチームでした。
(大村) そうですね。吉田さんの行動力や齋藤くんのユニークな視点からのアイデアが素晴らしくて、自分が知らない世界について、自分の知らない分野から一緒に議論ができたのは楽しかったなと思います。
―ありがとうございます。一次審査に向けてはどのように準備して取り組まれていたのでしょうか?
(吉田) 週に1~2回、大学院の会議室で話し合い、インプットが足りないと感じた時は五城目の朝市にリサーチに行きましたね(笑)

(大村) その朝市では、色んな「人間らしい」瞬間が見れたりします。たとえば、おばあちゃんが野菜を売りながらその場でご飯を食べていると思ったら、突然中途半端な汁物を投げ捨てたりするような光景に出くわしました(笑)
市場の雰囲気も、賑やかで整った感じよりは、ラフで気軽な感じです。出店費も五城目の町民ならたったの110円と、とても安いんです。50年間出品し続けているベテランもいれば、子どもが大きくなって使わなくなったものを売るママさんたちもいるなど、本当に自由で気軽な市場ですね。
―BranCo!において、秋田色/地方色を出していこうとお考えでしたか?
(吉田) そうですね。他チームとの差別化のためにも秋田に住んでいることは一つの武器だと考えました。
(齋藤) 秋田でなくても、東京の奥多摩のような山間部に行けば、その地域ならではの住民の考え方や生活の仕方が見られるのではないかと思います。今までのBranCo!はどこか「地域らしさ」からは離れている印象があったのであえて秋田の色を出していこうと感じました。
今年のBranCo!は、人間らしさというテーマでもあったので、人間以外の存在、例えば動物や自然物、さらにはコンクリートなどの無機物との関わりについて考えたのですが、東京のような都市部でも、それらは確かに存在しています。ただ、コンクリートビルやエレベーターといったものは、主に健常者が便利に使えるように設計されているので、それらには意識を向けなくても済むようになっています。一方で、土砂崩れで岩が家や道路を壊すような事態は、自然物と人間社会が影響し合う、一種のコミュニケーションのようにも感じています。
今回のディスカッションでは、そうした考え方を軸に進めた部分もありましたね。例えば、プレゼンの内容そのものが状況に応じて変化し、それ自体とやり取りをしているような感覚――作り手と作品の間に会話があるような状況――を意識していました。そういった対話が希薄になりつつある社会が、都市部中心に広がっているのではないかなと感じています。エレベーターなどは、その象徴的な存在なのではないでしょうか。
3 参加して感じたこと
―実際にBranCo!に取り組んでみて、どのような大変さがありましたか。
(吉田) BranCo!において求められているものがわからないというか、どこに行きつく方向性で進むのがいいかが1番難しいと感じます。
自分が普段やっていることがデザインなので、ターゲットやコストを優先して習慣があり...BranCo!では社会実装以外でも考慮する部分が多く、そこの微妙なラインを手繰り寄せるのが難しかったなと感じました。
―都市部に比べて難しいのではと感じたことはありましたか?
(吉田) そうですね。むしろ僕たちは秋田で暮らしていること自体がBranCo!におけるインプットの部分のフィールドワークに当たると感じていました。考え方の切り口をつくるという一点においては、他のグループよりかは恵まれている環境にいて、それが地方にいるメリットだと思います。
―BranCo!に参加してよかったなと感じたことはありますか?
(吉田) やっぱりグループワーク面白いなって思ったのが一つと、メンバーの内面を深く知り、今後も一緒にプロジェクトを進めたいと思えたことですかね。
―日々のものの見方や考え方などに変化はあったのでしょうか?
(吉田) 僕は個人的に滝や川を見るのが好きで、山に自転車でよく行ったりしてるんですけど、そういう環境でもチームで話し合ったこととマッチする部分をふと思い出すことができて、発想の引き出しが増えた気はしていますね。
(齋藤)二人と議論する中で論理的に考え、説明する力が鍛えられました。
(大村)私はずっと踊りをやってきたので、形に残るものを作ったり、それを説明したりすることにあまり向き合ってきませんでした。でも、そういうデザイン経験が豊富な2人と一緒に何かを作る中で、自分とは違う発想に触れることができて、新しい考え方を学べたと思います。
今回のテーマである「人間らしさ」は、私が研究している身体表現やコミュニケーションとも通じる部分があって、いろんな視点から物事を捉える大切さを実感しました。その話し合いを通じて、自分の研究の幅も広がったと感じています。
―まだまだBranCo!には学部生の参加が多いのですが、ご自身が経験されてみて、学部生の時に取り組むのと大学院生として取り組むのでは、違いを感じましたか?
(吉田) 修士になると、ちょっと頭が固くなりがちかなって感じます。なんというか、突飛なアイデアに触れるのが難しくなってしまうというか。その点、学部生の方が無鉄砲で自由な思考を楽しめるのかなと思います。
(大村) 私の場合は逆で、学部の時は視点が専攻している分野に絞られがちだったように感じます。でも、修士になってからは新しい種類の人たちと触れ合う機会が増えて、発想も豊かになったと思います。なので、私にとっては、今このタイミングがベストだったのかなと思います。
4 今後に関して
―BranCo!への参加が皆さんの将来に影響を与えたと感じる部分はありましたか?
(大村)この二人と一緒に同じテーマに挑戦した結果、とても面白いことができたので、一人でやるのとは全然違うなと感じました。お互いの関係もすごく深まったので、今後また何か別のプロジェクトにも三人で挑戦してみたいと目論んでいます(笑)
(吉田) 僕はどちらかというと飛躍したアイデアを考えがちなんですけど、議論の中で二人がしっかり理詰めで考えてくれたのがとても良かったです。こういう考え方を経験できたことが、今後直接的に活きてくると感じています。
(斎藤)特にインプットの部分で、分かりやすいロジックを組む経験が積めたのは良かったですね。また、アウトプットがさらにうまく噛み合えば、素晴らしいチームになれると思うので、これからも何か三人で取り組めたらいいなと思っています。
5 地方学生に向けてひとこと!
―最後にBranCo!への参加を迷っている学生に一言お願いします!
(吉田) とりあえず出してみることに意味があるんじゃないかと思います(笑)。出してみると物事が進むし、出さないと何も始まりません。もしかしたら賞が取れるかもしれないし、出さなかったら賞は取れない。それって、ちょっと宝くじみたいな感じですよね。でも、コンテストの本質ってそういうものだと思うので、もし情報をキャッチしたら、参加して損はないと思います!
6 インタビューを終えて
(清水)東京から離れているからこその発想や着眼点に溢れていて、とても興味深かったです!多様な視点を受容できるのがBranCo!の魅力・面白さなので、地方学生のみなさんこそどんどん参加してほしいなと感じました!
(仲)皆さんならではの興味深いお話をありがとうございました!この記事を読んでBranCo!への参加を決めてくださる人が一人でも増えることを願っています!