楽器の本【読書感想文】
先日購入した『グレコの仲間たち』をやっと読了しました。
この本は、今から41年前の1983年に横内祐一郎氏著『富士弦楽器物語 グレコの仲間たち』の再編集版となります(現在は完売しています)。
初版以降在庫がなく、初版も市場にも中々出回らなかった幻の一冊だったので、今回の再販はファン垂涎と言えます。
なんて最もらしく書いてみましたが、初版発刊時は生まれる前。
楽器はおろか音楽にも大して興味を示さない家で育ったこともあり、こんな本が出ていて、こんな逸話があったなんて知る由もありませんでした。
また、この富士弦楽器株式会社(現在のフジゲン株式会社)があまりにも身近すぎて、本当に恥ずかしい話ですがそこにどんなドラマがあったか、なんて考えに至りませんでした。
エレキ楽器って不思議で、様々な技術が発展して中身はどんどんブラッシュアップされ続けているのに、70年以上(バイオリンなどのクラシック楽器に至っては数百年単位で)ほとんどそのフォルムを変えていないんですよね。
見た目からして近未来なものも中にはありますが、多くのプレイヤーが愛用する楽器の殆どが6,70年近く前にデザインされたものです。
ヴィンテージデザインが愛されているのは、新しいものを拒んでいると言うより、そのデザインが持つ安心感や納得感、実際に弾いた時のフィーリングでしっくりくるものがあるからかな、と勝手に想像しています。
でも中身までヴィンテージが好まれているかはそこはまたプレイヤーによっても違ってて、見た目はヴィンテージで固めてるけど中身はモディファイ(改造)されまくった超モダン仕様の楽器、なんてのもザラです。あるいはヴィンテージの風合いを残しつつ高出力高音圧の現代音楽に耐えられるスペックにしたもの、とか。
(私は中身もクラシックなものが好きなんですが、そこは多分アマチュアユースの思考だからだと思ってます)
そんな欲張りでニーズを捉えづらい連中が主な購買層になっている楽器(特にエレキ楽器)。
これは現代の話ですが、じゃあ創業当時である昭和初期がそんな先読みしやすい時代だったのかと言うと、そんな生優しい時代ではなかったのは間違いないように思います。
その時代を生きていないので断言はできませんが、道を切り拓いた人たちは、少なくとも本書で登場する横内氏はじめ富士弦楽器の方達は、ずっと泥臭く、情熱的に仕事に立ち向かっていました。
先見性を持った経営、会社としてブレない信念、プレイヤーを納得させ続けるモノ作りの魂を一貫し、激動の時代を生き残った富士弦楽器。その富士弦楽器の舵をとり導いた横内祐一郎氏には、改めて尊敬の念を抱かずにいられません。
この一冊は、富士弦楽器製造株式会社の社長である横内祐一郎氏(現在は会長)がそのまま宿ったような一冊だと感じました。
そしてこの再編集版には、当時横内氏と共に富士弦楽器で楽器製造に携わった『グレコの仲間たち』のインタビューが追録されています。
その中には世界のエレキ楽器の発展に深く関わる言葉や逸話が随所に散りばめられており、それは僕が全く知らなかった世界でした。
本編だけでも驚きの連続だったのに、このインタビューでは本編では描かれなかった(登場しなかった)方々のエピソードに「そうだったの!?」と何度も驚かされ続けました。
世界でも名だたるルシアーを排出し、世界の有名メーカーにも多大な影響を与えた現在も影響を残し続けるフジゲン。
Sugiギターの杉本さんの事とかディバイザーの百瀬さんの事とかも記述があり……本当に何も知りませんでした。あまりに無知すぎて『君、本当に楽器好きなの?』って横腹を突かれても何も文句が言えません。本当にお恥ずかしい限りです。勉強し直します。
ジャパンヴィンテージと呼ばれる楽器が投資財としての価値を持ったのは今よりもう少し前の話ですが、そのほとんどはフジゲンが製造に関わったモノだったと記憶しています。
正直(貧乏)プレイヤーとしては価値が高騰しすぎる事に複雑な気持ちがありますが、当時から自分達の技術力を高めブランド化し、世界一と認められ会社存続への道を切り拓いた実績があるからこそ、現代の市場でも多くの人に求められているのかな、と納得しました。それでも当時定価の倍以上ってなんだよって思いますが。
楽器をもっと前のめりに好きになれる、そんな情熱的な本に出会えたと思います。読んでいる間もとても楽しかったです。
現在はSOLDしてしまっていますが、多くの人が手にできるよう、また何かの機会で再販される事を期待しています。
本日も最後までお読みくださりありがとうございました。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?