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なぜ生成AIの文章はAIっぽいと分かるのか? 対話の研究から考える

生成AI、便利ですよね。僕も日々使っています。

ついにnoteにもAIアシスタントが実装され、構想や書き出しもサポートしてくれるようになりました。書き出しのアイディアをくれたり、壁打ち相手になってくれて助かります。

一方で、最近「あ〜、これAIに書かせたっぽいな」という文章が増えたと思いませんか? そう感じた途端に、なんだか良さそうなことが書いてあっても魅力がなくなったり、読む気がしなくなる……という時、ありますよね。

僕もなぜ生成AIの文章はAIっぽいと分かるのか?AIと人の書いた文章とは何が違うんだろうと思っていましたが、ここで対話の研究をヒントに考えてみます。

言葉の周りにある「文脈」

対話の研究では、「対話主義」という考え方があります。
スウェーデンの研究者でリネルという方が対話主義についての本や論文を出しており、その中に、「文脈主義」というものがあります。

文脈主義は「対話的なコミュニケーションは常に文脈に依存していて、その文脈は対話によってお互いに影響を受けながら変化し続ける」というものです。

リネルは文脈(コンテクスト)には2つの種類があると言います。僕の理解で簡単にご紹介します。

一つは、「実現された文脈」といって、実際に言葉や文章で表現される中で取り上げられたり、使われる情報による文脈です。

もう一つは、潜在的に活用している「文脈リソース」。これも割に複雑なので噛み砕くと、話し手(書き手)や聞き手(読み手)が持っているさまざまな背景知識やその場の状況など、使える可能性のある文脈全体を指します。

例えばnoteで考えてみると、文章だけでなくnoteの名前やアイコン、プロフィール、そして文体も含めて、様々な文脈がそこに存在しています。

下記は僕が昨年の夏に書いたnoteですが、noteの写真やタイトルに含まれる「20代最後」「スウェーデン」「留学」といった言葉(実現された文脈)に親近感や興味を持ってnoteを開いてくださっているんだと思います。

ここで僕がスゴいなと思うのは、書き手というより読み手の方です。
例えば僕は何気なくこんな感じでnoteを書き出しているのですが、

2020年の年明け、新卒で5年間勤めた教育NPOを辞めることを決めた。

おそらく読み手の方は
「2020年の年明け……(ちょうどコロナが流行り出す頃だな)」
「新卒で……(多分 大学を卒業したのかな)」
「5年間勤めた教育NPOを……(結構給料安かったんじゃない、よく留学行けたね)」

など(僕の類推も混じってますが笑)、短い文章だとしてもその人が書いた色んな背景、文脈リソースを意識的にも、無意識的にも読み取られているはずです。

その上で、読み手によって(私と同じ世代だな……)とか(北欧留学、私も興味あるな……)とか、ご自身の背景、文脈と重ねながら読まれています。

上記はほんの一部で、読み手は自身の経験、知識と照らし合わせながら書き手の人柄や経験の「裏」にある苦労や想いも汲み取って文章を読み進めています。その中で色んなことを重ね、感じています。

やはり生成AIはとても便利ですが、一方で生成AIが使える文脈は本当に限定的です。それは私たちが入力した、限られた指示文から論理的推論をしているからです。

そして、これも興味深いんですが、私たちの中で「AIっぽいな」と感じる文脈もまた存在しているということです。

例えばChatGPTの作った文章だと、綺麗な導入、そしてだいたい論点が箇条書きで整理され、そしてこれまた締めくくりも綺麗なまとめ。
この「論理的」かつ「抽象的(その人らしい具体性の欠如)」という2点が、「AIっぽい無機質さ」を生み出しているように思います。
たまに、頭良い人が論理的に話をしていると「AI?笑」と冗談っぽく言われたりしますよね。

この「AIっぽさ」。もちろんプロンプトを工夫することである程度は打ち消せるとは思うのですが、限界はあるでしょう。それは、現時点ではAIが先に紹介した文脈のどちらも非常に限られているから、だと思っています。

ある程度経験的な条件を設定することはできると思うのですが、やはり、数十年生きてきた人の人生における文脈は凄まじいものがあります。人はなんて豊かな文脈を持っているんだろうか、と思います。

もちろん、この豊かさが時には勘違い、すれ違いや軋轢を生む場合もあるので難しいです。AIとの余計な感情を交えないやり取りが気楽、という人もいるでしょう。

それでもそんな風に、人同士が出会って、話をしたり、お互いの文章を読む間には、とても豊かなコミュニケーションが起きているんですね。

対話とは、その人の言葉だけでなく、その人の文脈を信じること。

今はそう考えながら、AIが人と人の対話と学びをより豊かにしてくれるような研究に向き合っています。

noteで紹介した文脈主義、および対話主義についての文献
(今回のnoteで紹介している文脈主義を知りたい場合は、1998及び2009の文献がオススメです)

Linell, P. (1998). Approaching dialogue: Talk, interaction and contexts in dialogical perspectives (Vol. 3). John Benjamins Publishing.
Linell, P. (2007). Essentials of dialogism. Aspects and elements of a dialogical approach to language, communication and cognition. Part-A.
Linell, P. (2009). Rethinking language, mind, and world dialogically. IAP.


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