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【良いテキストは人生を豊かにする】・・・と信じています。センス・オブ・ワンダーを求めて(「科学をうたう」他)

SamAliveさん撮影

思い込みからの自由へ。


変わる「わたし」、変わる世界。


何かを学ぶとき。

基礎となることを、暗記するのは、とても重要なことです。

しかし、ただ、覚えることだけを目的とするような暗記の仕方では、用が済んだら忘れてしまいます。

あるいは、覚えていても、活用できない、ということが、頻繁に起きてしまいます。


では、どうすれば、

「意味のある形」

で覚えておくことができるのか。


ひとつのカギは、

「気づき」

ではないでしょうか。


■「科学をうたう センス・オブ・ワンダーを求めて」 松村由利子(著)

「いま理系と文系を融合させる必要性が論じられているが、科学と文学とは相容れないものだと思い込んでいる人も少なくない。

科学を題材にした数々の短歌を紹介することで、科学と短歌に共通するセンス・オブ・ワンダー、短歌という定型詩の奥深さ、そして私たちの生きている世界の様相を伝えたい。」(「はじめに」より)


毎日新聞で、科学環境部記者を務めた経験を持つ歌人による、科学を題材とした短歌を、紹介したエッセイ集です。

私も、調べてみて、なるほどなと感心したけど、意外に思われるかもしれませんが、自然科学を題材とした短歌は多いんですよね。

集められた短歌は、科学に関する事柄を、31文字の中に、ただ、入れているというだけではありません。

「森羅万象の不思議」

を捉え、

「感動する心=センス・オブ・ワンダー」

を、自然科学者と共に、歌人も分かち持っていることを、表しているところに、

「科学をうたう短歌の真価」

があるのだと、著者が、読者にいちばん伝えたいのは、そこなんでしょうね。


「しまうまの縞の不思議を思う夜サバンナの野火はるかに燃える」(加藤扶紗子)

「進化図のそこから先の空白をホモサピエンス裸体にあゆむ」(川野里子)

「絵本には地球見をする家族をり三十年後の月の暮しに」(春日いづみ)

「日々生まれ替はる私の細胞のどこがあなたを恋してゐるのか」(片岡絢)

「衛星になろう あなたに堕ちないでいられる距離をやっと見つけた」(田中ましろ)

「算数の天才たりしフォン・ノイマン原爆つくり膵癌に死す」(坂井修一)

「抜けた乳歯を預かる歯医者あるという『何のために』と言いかけ気付く」(三浦こうこ)

「恐竜の滅亡後、ヒトとウイルスは闘ひつづけ共に生き継ぐ」(高野公彦)

「あかねさすGoogle Earth に一切の夜なき世界を巡りて飽かず」(光森裕樹)

「黒死病に術もなく向かふ中世のくちばしのやうに尖(とが)つたマスク」(松本典子)

「席ひとつ空けて映画を観(み)る五月ふたりに透明な子のあるごとく」(大森静佳)

「どこから来てどこへ行くかと駅員に根源的なことを聞かれる」(武藤義哉)

「六百頭の牛を殺めた親指の仄(ほの)かな怠さ一日を終える」(白井健康)

「像体選(よ)る実験をしたる夜に馬手(めて)と弓手(ゆんで)をめあわせてみる」(遠藤由季)


現代の歌人が、

「未知のものへの驚き」

から発想して、短歌を詠むことが多いからなのかもしれませんね。


「自然科学の知識は抒情を妨げるものではなく、むしろ新しい抒情を生む材料になる」

という著者の意見は、もっともだなと、そう感じると共に、今、私たちの日常は、さまざまな科学技術に支えられていて、

「だから、現代を表現しようとすれば、自ずと科学的なテーマが入り込む」

のだと、心ふるえる、科学と文学の交差点があることを、気づかせてくれます、ね(^^)


この本の紹介については、帯に記された

「詩ごころと科学のココロともにあり 福岡ハカセおすすめの本」

「三十一文字という小さな器に注がれた広大な世界。短歌をとおして見つめる科学と文学の接点。」

という言辞に尽きると思います。

▶参考図書

「偶然短歌」いなにわ/せきしろ(著)

「挫折を経て、猫は丸くなった。 書き出し小説名作集」天久聖一(編)


■「31文字のなかの科学」(NTT出版ライブラリーレゾナント) 松村由利子(著)

本書は、短歌という小さな詩形の中に描かれる科学をテーマに、歌の中の科学的な部分に注目して、いつもとちょっと、違う味わい方をしてみましょうというのが、本書の意図。


「私は、科学と短歌は大きな共通点があると思います。

それは、“センス・オブ・ワンダー”です。

優れた科学者は、だれもが見過ごすような小さな点に疑問、不思議、美しさを発見し、それを手がかりに新しい研究を進めていくのだと思います。

優れた歌人もまた、道に咲いているありふれた花、ありふれた親子の情、ほのかな恋心などに新しい驚きと感動を覚えて、それを歌にします」


「短歌が、千数百年の歴史をとおして、この時代まで生き残っているのは本当に不思議だと思います。

短歌に生命観や世界観を入れられることも、驚きであり、新鮮な感動があります。

センス・オブ・ワンダーを扱う科学を題材にして歌にすることには、二重の意味での感動があると思い、多くの人に伝えたいという気持ちで本を書きました」

▶参考書評

▶参考記事


■「短歌を詠む科学者たち」松村由利子(著)

中性子理論でノーベル賞を受賞した湯川秀樹さんは、晩年に、平和運動にかかわりつつ、素粒子研究に打ち込んでいました。

そして、

「科学も文学も、対象とする世界は違うが、その本質の姿が、すっきりと美的である点は同じではないか」

の心境に達したそうです。

「雨降れば雨に放射能雪積めば雪にもありといふ世をいかに」

「天地は逆旅なるかも鳥も人もいづこよりか来ていづこにか去る」


また、漢籍にも親しんでいた湯川秀樹さんは、李白の

「夫天地者万物之逆旅 光陰者百代之過客」

を言い換えて、

「時間、空間を一緒にした四次元世界は、万物を受け入れる宿屋のようなものではないか 」

と語っていましたね。


ここに、

「科学と文学の美しい融合」

がみてとれると感じられます。


また、精神科医として活動するなかで、なんと、17冊の歌集を編み、1万8000首を残した斎藤茂吉さんの生涯についても、彼の幼年時代から説き起こしています。

彼は、3年間のウィーン、ドイツ留学中も、時間を割いて、短歌を詠み続けたそうで、この短歌は、晩年に詠まれた歌です。

「われ医となりて三十年を過ぎたるをかへり見すれば一人の狂人守り」

ここでの

「狂人」

は、精神病患者のことではなく、自身に潜む

「狂」

を見つめるまなざしでもあっただろうと、著者は述べており、卓見ではないかと思います。


そして、現代の代表的歌人である永田和宏さんは、京大在学中、学生運動と恋人と短歌に心を奪われて過ごしたそうです。

物理学科卒ではあったのですが、民間企業に勤務後、京大結核胸部疾患研究所の無給の研究員として、再出発しています。

研究とアルバイトと短歌結社の主宰のために、睡眠時間を削って奔走したそうです。

「ねむいねむい廊下がねむい風がねむい ねむいねむいと肺がつぶやく」

夭逝した妻の歌人・河野裕子さんを詠った歌も収められていました。

「ともに過ごす時間いくばくさはされどわが晩年にきみはあらずも」

▶参考書評


■「科学を短歌によむ」(岩波科学ライブラリー)諏訪兼位(著)

本書は、最初に、初心者向けに、和歌と短歌の違いを説明しています。

素材として、科学者が詠んだ短歌を紹介してくれていて、短歌をよむ(読む、詠む)楽しさと、効用を解説しています。

この本を読むと、短歌を、自分もやってみたくなる強い誘因を感じるのではないでしょうか。

自分にも、短歌を作ることが、容易にできそうな気がすることを、感じられると思います(^^)

紹介されている科学者としては、湯川秀樹、近藤芳美、小藤文次郎、志賀潔、石原純、大塚弥之助、湯浅年子、上田良二、藤田良雄、森鴎外、米川稔、飯島宗一、林田恒利、前野義昭、斎藤茂吉、上田三四二、岡井隆、永田和宏、小池光、栗木京子等です。

「彼らの歌には科学者としての独特の視線を感じる。」

と語られていて、著者自身も、地質学者でありながら、すぐれた歌詠みです。

「朝日歌壇」での採歌数が、実に、200首を超えているのには、驚かされました。


歌を詠むとは、

「自然を驚きの目でとらえ、人びとや社会を新鮮な目でとらえ、自分自身を深い目でとらえる作業だ」

と、著者は、そう考えているとのこと。


ここで、著者の挙げている短歌から、先の戦争において、科学者が、どの様な視点で短歌を詠んでいるのか、何首か取り上げてみますので、各自で読み解いてみて下さい。

「ヒロシマを直前に過ぎナガサキにひと日おくれし学生我は」(諏訪兼位)

「偵察機「彩雲」この手でつくりたり特攻機として消えし悲しみ」(諏訪兼位)

「春雨に豊後水道煙りをり航きて還らぬ「大和」まぼろ」(前野義昭)

「夜を徹し重き轍(わだち)の音ひびきかりそめならぬいくさ迫りぬ」(湯浅年子)

「しばらくの講義惜しみて聴くといふ葉書にも心つつしむ」(飯島宗一)

「特殊爆弾これで防ぐと乏しきを白きシャツ縫いおりき夕暮れの母」(清水大吉郎)

「無人戦車無人地球の街を野をはたはたと嗤うごとくゆきかふ」(坂井修一)

「おそらくは電子メールで来るだろう2010年春の赤紙」(加藤治郎)

「憲法九条創りし高き理想あり代わりうるにいかほど理想のありや」(諏訪兼位)

ここでの視点のひとつが、世界中、いつまでたっても、戦国時代が終わらない事実。

「なんで大人は戦争するの?」

「それはね世界の平和を守るためだよ」

また、嘘をつく、世界中の指導者たち・・・

すべての国は、途上国だと思う。

発展完了国なんて、きいたことがない。

ニュースには、映らない、世界がみたい。

絶望の先にある、ものがみたい。


■わたしが見ている世界の外に、心を震わす出来事が、きっと隠れてる。

話を戻すと、ただ、覚えるのではなく、背景にあることにも、関心を持ってみたり、覚えたことは、積極的に使ってみたりすることで、暗記を超えた

「気づき」

を得ると思います。


そうすると、そのことが、

「フック」

となって、

「頭の中の引き出し」

から、自由に出し入れができるようになることが、多いのではないでしょうか。


スピードが大事なんじゃない。


すぐ役立つことは、すぐ役に立たなくなる。


なんでもいいから、少しでも、興味を持ったことは、自分から掘り下げて行きたいですね。


努力して結果が出ると、自信になる。

努力せず結果が出ると、傲りになる。

努力せず結果も出ないと、後悔が残る。

努力して結果が出ないとしても、経験が残る。


そうやって、自分で見つけたことは、

「一生の財産」

になると、そう考えています(^^)

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