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漆黒のヴィランズ

黒田明臣さん撮影

理由なく行動し、常に理由を探す。

善事を行い、知らぬ間に悪事をやってのける。

残酷非道を徹す強弱すら、自由自在に選べた。

闇深き与太郎の街で、悪なさぬ手が易易と、この世の箍を外して堕ちた雲居の孤月。

徐に奴延鳥が何処より来て、「毒のない方を選んでください」と嘯くと、りんごの赤と白が並べられていた。

出生の赤は火で夏。

葬送の白は金で秋。

三千世界で匿名になり、陽の下、影となった呪師は、曖昧に時を過ごす理由を、曖昧に考え理解し始めた。

その物事に驚き、不審だと思い、分からない時、心と頭が表情一つ分離れていき、何も起きないと思われた瞬間。

静けさを啄む誤報の雨が、牽強付会も拒む刻を動かした。

その風景を抜け出た呪師の輪郭が、淡く闇と交わると、気付けば届かぬ位置に、人の象になりし不可解な蝋梅の叫声。

「嚆矢みよ/悪しきものにも善あり/本源惑わすは脳のまやかし」

解体する者の悪意が、盈ちる黒々と蟠るモノ。

その底深く不条理な一寸の間から稗官が現れ、宣った。

「さあ、終えようか。我らの戦いを、時代を」

透かさず、言霊が織りなす呪文の玄理で呪師が応える。

「一つとや 百尺竿頭 一意攻苦急急如律令
 二つとや 不撓不屈 二河白道急急如律令
 三つとや 妙計奇策 三思後行急急如律令
 四つとや 瑶林瓊樹 四海兄弟急急如律令
 五つとや 為虎添翼 五倫五常急急如律令
 六つとや 無念無想 六根清浄急急如律令
 七つとや 内剛外柔 七転八起急急如律令
 八つとや 薬籠中物 八宗兼学急急如律令
 九つとや 古今無双 九年面壁急急如律令
 十 とや 十全十美 おんあろりきゃそわか」

互いに争う相剋の関係。

漆黒の反逆者である呪師。

白き暗闇の使徒である稗官。

時空を巡る2500年に渡る戦い。

神々が沈黙した暗闇の荒野を切裂く鍵。

方舟の燃える形。

見たいと希う心の中でしか遇えぬ真実の色。

唐墨を濃く磨って葉鶏頭が描ければ、もしや。

さすれば、世は全て事もなし、か。

(つづく)

<800文字>

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【参考図書】
「一〇三歳、ひとりで生きる作法 老いたら老いたで、まんざらでもない」(幻冬舎文庫)篠田桃紅(著)

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