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【演奏家によって再現される芸術】演奏の個性
物事には、全て、それぞれに備わった性格、即ち、
「個性」
というのがあります。
演奏についても、例外ではなく、同じ曲の演奏が、それぞれに違うのも、演奏者の個性と言えば、そう、言えなくもないと思われます。
しかし、日常使われる個性・個性的の意味は、もうちょっと、ニュアンスが濃く、
「平凡でなく、他とはひと味違ったユニークな性格」
を指すのが一般的です。
その点から眺めると、数多い演奏の中には、単に、他と違うというだけでなく、一種独特の風格と言うか、スタイル、あるいは雰囲気、クセなどを備えた演奏というのを見つけることができると思います。
例えば、ピアニストというと、鋼鉄のような力強い打鍵が魅力的だったエミール・ギレリス、一音一音が粒揃いの宝石のように美しかった、かつてのウラディーミル・ホロヴィッツ。
独特のノン・レガート奏法で、レコード録音だけを行なったグレンーグールド。
異色とも思える奔放なショパンを聴かせたサンソン・フランソワ。
ヴァイオリンでは、エルマン・トーンと呼ばれる甘い音色が何ともいえなかったミッシヤ・エルマン。
ウィーン風の優稚な演奏で人気があったフリッツ・クライスラー。
声楽では、喉にからむような、必らずしも、耳に心地よいとは言えない声ながら、抜群の表現力を感じさせたソプラノのマリア・カラス。
指揮では、速いテンポと正確な演奏が気持よかったアルトウーロ・トスカニーニ。
穏やかな雰囲気の曲づくりが印象だったブルーノ・ワルター。
録音嫌いで有名なセルジュ・チェリビダッケといった人たちの演奏が、それに当たると思います。
いや、似たような個性的な演奏をする人は、他にも、まだたくさん見つけることができるでしょう。
それらが、どういう考えのもとに生み出されるのか。
単に、技術的に優れているからか。
それとも、作品に対する理解や解釈にもとづくものなのか。
これは、一概には分かりません。
しかし、彼らが、概ね一流とか、大家と見なされて人気があったことを考えると、演奏には、何らかの個性があったほうがいいらしいのは確かだと思われます。
私達にしても、これといった特徴のない平凡な演奏よりも、アクがあり、強烈な自己主張をする演奏の方が印象が強く、好みはあっても、引きつけられることは多いからではないでしょうか。