【クラシック音楽の楽しみ方のいろいろ】演奏(家)を聴き比べる
音楽というのは、楽譜の形で残されたものを音にして聴く再現芸術です。
作曲者と私たちとの間には、演奏者がいて、彼(女)らが音にしてくれなければ、どんな名曲も、耳にすることはできません。
ところが、この演奏は、誰がやっても、同じというのではなくて、極端に言えば、十人十色。
上手に聴こえるものもあれば、下手に聴こえるものもある、という性質のものです。
そのことから、作品や、作曲家もいいけれど、むしろ、演奏や、演奏家に拘って聴いてみたい。
同じ曲なら、良い演奏(家)で、聴いたほうがいいからという人がおり、彼らがやっているのが、
「演奏(家)を聴き比べる」
楽しみ方です。
言われてみると、なるほど、これも、一理ある面白い聴き方だと納得いくのではないでしょうか。
実は、マニア的なクラシック・ファンが、主として傾いているのが、この楽しみ方です。
指揮者のカラヤンがどうしたとか、ブルーノ・ワルターがどうしたという、一見、難しそうな話をしている人や本を、見かけたことが、あなたもあるのではないでしょうか。
仮りに、他の方向から、クラシックに親しんだとしても、この演奏の良し悪しの問題は、どこかで、一度ぶつかる筈ですから、どんな点がポイントになるか、そのことだけは知っておいたほうが、よい かもしれません。
そもそも、こうした聴き方の根本は、クラシック作品の大半が、作曲者に死なれてしまった古い曲、楽譜しか残されていないことに始まっています。
どんな曲も、作曲者の意思や、感興がもとになっているわけですから、彼が生きていてくれたら、どのように演奏すべきか、指針なり、方法も尋ねることができるのですが、現実には、彼はいず、手がかりは、楽譜だけです。
この楽譜は、一見、完全に見えて、実は、曖昧不完全なもの。
例えば、アレグロ(速く)、アダージョ(ゆっくりと)、フォルテ(強く)、ピアノ(弱く)等の指示記号にしても、どのくらい速かったり、遅かったり、どのくらい強かったり、弱かったりするのか、実のところ、正確には、わからない。
演奏者たちは、皆、このくらいであろうと、解釈しながら、やってみるけれど、結果としては、一人として、同じ形の演奏にはならない。
そういう要素が、速さや、強弱以外にも、色々(音色、表情、メリハリ等)と加わるわけですから、考えてみれば、演奏というのは、異なるのが当然で、そうならなかったら、おかしい、とも言えるのです。
そんな演奏をとり上げて、あれこれ言う聴き方の、どこが、面白いのかと言えば、結局は、作曲者になり代って、作品のあるべき姿を見つけたいという欲求に、行き着くのではないでしょうか。
と言っても、何が正しいのか、正確な答えがわからないだけに、何を言っても、ある意味で 主観的ですよね。
演奏者達もまた、同じ考えから、解釈し演奏しているわけだから、両者が、上手くかみ合う(つまり好みの演奏に出会う)ためには、聴き手も、また、曲について、あれこれと調べたり、知ったりすることが必要となってきます。
具体的に、この聴き方(楽しみ方)を選んだ場合のポイントとしては、次のようなことを考えてみるとよいのではないでしょうか。
この曲は、どのように演奏されるのが、作曲者の意図にかなっているのだろうか。
一般に「名演奏」といわれるものがありますが、それは、何を指していうのだろうか。
自分好みの演奏を選べ、といわれたら、どれをとるか。
とまあ、ちょっと難しそうなことを挙げましたが、分かり易く言えば、こんなことです。
学校時代の音楽の授業か何かで、ある曲を、一人ずつ歌わせられた時のことを思い出してみるのです。
誰が聴いても、まるで、下手だったA君を別にして、力強く、堂々と歌ったB君、 ゆっくりと情感を込めて歌ったC子ちゃん、の3人がいたとして、さて、その採点をどうするか。
B君もC子ちゃんも、ともに、楽譜通りなのに、声や歌唱は、まるで違う。
しかし、どちらも捨てがたく、
「いいなあ」
と思わせるものなのです。
ここでの楽しみは、言わば、これと同じことをやっているわけで、数多く聴いていれば、誰の耳にも働く、
「比較感覚」
を重視しようという聴き方ですね。
一見、「良い」とか「悪い」とか、ケチをつける批評家的な聴き方ながら、この聴き方の良いところは、ともかく、真剣に、曲と向かいあうことです。
テンポの設定は、どうかな?
楽章ごとの変化のつけ方は?
強弱の程度は?
独奏楽器の目立ち具合いや、音色は?
難技巧のこなし方は?
全体的にみた曲のつくり方は?
迫力や雰囲気は?
聴いてみて感じることは?
等々と、全神経を集中して聴く。
そこが、良い点だと思います(^^♪
しかし、また、そうしたチェックばかりでなく、とり上げられる曲が、どんな事情で書かれた、どんな曲なのか。
作曲した人は、どんな人だったのか。
等も、当然、評価すべき重要な要素として加えるべき点ですね。
こうして、色々な考えのもとに、
「あるべき作品の姿」
を追う。
そして、聴き比べる。
名演奏とは、何かを考える。
自分の好みの演奏(家)を見つける。
これが、
「演奏 (家)を聴き比べる」
という楽しみ方なんですね(^^♪