【個性的な作曲家がいっぱい】他人の名を借りて作品を発表した作曲家
芸名とか、ペンネームというのがありますよね。
世の中で、うまくやっていくためにつけられる、本名とは別の名前で、それらしい印象や、インパクトを盛り込むのがミソです。
例えが古いけど、
「江戸川乱歩」
や
「美空ひばり」
等、色々な名前が浮かんでくる筈。
実は、クラシックの世界にも、そういう例は、いくつかあって、例えば、出身地の名前がそのまま 人名となって広まってしまった、
オッフェンバック(フランスのオペレッタの作曲家。生まれ はドイツのオッフェンバックーアムーマイン)
や、イタリア風にした方が仕事上有利だと改名した、
G・P・マルティーニ(「愛の喜び」という歌曲で有名なドイツの作曲家。本名はJ ・P・A・シュヴァルツェンドルフ)
らのケースは、その代表といってよいいだろうと思います。
ところが、もう一人、このペンーネームに実在した古い時代の複数の作曲家の名前をつけた。
そして、彼らの名によって、自分の作品を発表しつづけた、約4年間にわたって、という、何とも図々しい、あるいは、大胆な作曲家がいるといったら、誰のことだか分かりますか?
それは、オーストリア出身のヴァイオリェストで、作曲家としても知られるフリッツ・クライスラーなのです。
演奏家としての彼は、1923年に来日したこともあるから、古くからの音楽ファンの中には、実演を、聴いた人もいるかもしれませんが、超人的なテクニックに加えて、上品で、甘い音色を持った演奏家でり、ウィーン風のスタイルにより、世界的に人気のあったヴァイオリニ ストの一人。
しかし、また、一般のファンにとっては、「愛の喜び」「愛の悲しみ」「ウィーン奇想曲」「美しきロスマリン」等の小品を書いた作曲家として、知らぬ人がいないほど有名です。
彼は、6歳の誕生日を迎えたある日、ニューヨークータイムズの音楽担当批評家オリン ーダウンズに追求されて、とんでもないことを告白したそうです。
「私がこれまでに演奏してきた古い時代のヴァイオリン曲というのは、実は皆、自分で作曲したものだ」というのです。
さあ、大変音楽界では、
「よくぞ驅した」
「サギだ」
と、賛否入り乱れる大騒ぎになったそうです。
というのは、彼は、それらの作品のことを、
「教会などで発見した古い時代の埋もれた作品。自分は単なる紹介者だ」
として、演奏してきたからです。
ときには、数曲を並べて、一曲だけに、クライスラー作曲と記したため、批評家たちは、
「なかなかいい曲。しかしクライスラーの曲だけは、数段おちる」
等と批評していたから、これによって、面目まるつぶれとなってしまったわけです。
結局、この騒ぎの結末は、どうなったかというと、偽称した作曲家の曲について、
「~の様式による」
という前置きをつけることで、結着がついた(したがって、どれが該当曲だったかは、曲名を見るとわかる)。
しかし、まあ、普通なら埋もれた曲に、自分の名前をつけて発表するのが当り前のところを、その逆をいったこの行為。
一体、なぜだったのかというと、大曲は、やりたくてもカネがかかり、小曲には、適当な曲が、それほどなかったそうです。
いっそ、自分で、と作曲したのですが、音楽界では、まだ、若輩。
生意気だと思われるのがいやで、名前を借りたのだ、そうです。
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