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満足度の高いシナリオを作る

本連載では、満足度が高く、多くのプレイヤーに楽しんでもらえるログ・ホライズンTRPG(LHTRPG)のシナリオを作成するためにはどうすればいいのかを解説する。

当然のことだが、シナリオの質を高めることは必ずしも重要ではない。時間的な制限の枠内に収まり、その場にいる参加者が楽しめるようなシナリオを遊ぶことができれば良いのであって、表記上のシナリオの「出来」とそれを遊んだ参加者の満足度が一致するとは限らないのだ。
しかし、もしあなたがより多数のプレイヤーに楽しまれるシナリオを書くことを志すなら、私も想いは同じなので、本連載がその一助となれば嬉しく思う。

また、本連載では「よいシナリオ」という表現を用いることがある。筆者が目指す先にある「よいシナリオ」とは、多くの人にとって満足度の高いプレイフィールを与えられるシナリオを指す。決して他のシナリオを下げる意図は無いので、ご了承願いたい。

システム傾向を把握する

多数のプレイヤーにとって満足度の高いシナリオを書くには、利用するシステムの傾向を把握し、その傾向に沿った障害を用意する必要がある。

システムの傾向は、多くの場合キャラクター作成に端的に現れている。キャラクターを作成するときに戦闘用の装備や特技の決定が主眼になっているシステムならば、戦闘を主眼とした障害(ボスエネミーの配置など)を主要なパーツとすると、多くのPCに活躍機会を与えることができる。LHTRPGでは、主として戦闘とミッションの配置がそれに当たるだろう。

戦闘を主眼としたシステムにも、状況設定にそれぞれ得意・不得意が存在する。そのシステムがどんな状況設定を得意とするかは、世界設定以上に「PCの能力値」や「戦闘の進め方」といったシステマティックな部分によって定められている。
例えば、ダブルクロス3rdというシステムは、共通特技である《リザレクト》 やロイスルールによって、回復や壁などパーティ内のダメージをコントロールするキャラクターが不在でも問題なく戦闘を進められる(=協調のために多くの特技枠を割く必要がないが、そのようなビルドも許される)。また、クラスや特技の組み合わせが多様であり、攻撃方法ひとつ取っても非常に多彩な表現を可能としている。
このことから、ダブルクロス3rdは「PCを通した自己表現のゲーム」であり、シナリオサイドとしては、「PCの様々な演出をより魅せる」ために、例えばPCとボスやヒロインのデータ面・設定面を併用した応酬を重視したものを作る、といったプランを立てることができる。

LHTRPGもまた、戦闘が主眼のシステムである。しかし、役割ごとに明確に分けられたメイン職業や、ヘイトシステム、他多数の仕掛けによって、プレイフィールはダブルクロスのそれとは全く違ったものになる。次の章で、LHTRPGのシステム傾向を観察していこう。

LHTRPGの傾向

LHTRPGというゲームは「しかるべき準備をして、山岳をアンザイレンで攻める登山の楽しみ」に近い感覚のゲームだと筆者は考える。登山には準備が必要である。靴やロープなどの登坂のための装備はもちろん、食糧や水分、テントなども必要だ。遭難したり、とても敵わない猛獣に遭遇した時のための道具も揃えて、必要な技能を身につけ、パーティを組んで山に登る。山は君たちに試練を与えるが、それを連携と協調によって乗り越えた先には素晴らしい風景が待っている、という具合だ。

シナリオ作成側から見れば、以下のようなメッセージを読み取ることができる。

・冒険者は様々な事態に備えている。望み通り様々な方向から試練を与えろ。

・冒険者は連携と協調によって戦線を維持する。ひとりでは困難だが連携によって突破可能な試練を作り出せ。

・道中や困難の達成時には「景色」を用意せよ。それが何よりの報酬の一つだ。

また、このシステムはディベロッパーという存在に対してのガイダンスが手厚い。「さぁ、よいシナリオを存分に作ってくれ給え」という声が聞こえる気がする。ルールブック本文のガイダンスも名文揃いだが、資料として名高いものにログホライズンデータベースエネミーデータガイドが存在し、この2つのドキュメント群だけで商業サプリメント数冊分にリーチする量の情報を無料で提供している。ここまで環境が整っているならば、応えない訳にはいかないというものだ。

戦闘はスクエアタイル制をとっており、ヘイトルールと組み合わさることで、位置どりや移動の阻止が戦術面でかなり大きなウエイトを占める。また、このシステムの特異な点にプロップとよばれるエネミー以外の地形や壁、あるいはシーンそのもの等に対してデータを与える概念があり、これが非常に多彩な戦場を記述するための原動力となる。

クラスは攻撃を受け止める戦士職、回復や軽減を担当する回復職、ダメージを稼ぐ物理攻撃職・魔法攻撃職の4クラスを基本とし、それぞれのクラスは3つの職業から選ぶことができる。クラスによって基本的な役割がはっきり分かれているため、基本的な行動を理解することでどの職業のキャラクターも比較的スムーズに運用することができる。そのため、シナリオには基本を守った行動選択を肯定し、PCの勝利とつながるような導線を確保することが奨励される。

一方で特技はある程度の多様性が確保されており、ヘイトシステムのお陰で明確に使い所の少ない特技はほとんど見当たらない。むしろディベロッパーにとっては、一般に使いにくそうだと評される特技にスポットライトを当てる挑戦はやりがいがあるのではないだろうか。

アイテムには特殊な効果が付随するネームドアイテムと、レベル制限のもとで一般装備に追加効果を与えるプレフィックスドアイテムの概念が存在する。比較的気軽にアイテムをカスタマイズ可能なため、特技だけでなく持ち物の選出にも工夫を行う楽しみがある。また、プレフィックスドアイテムがネームドアイテムと一般アイテムの間に位置することで、装備バランスの平均化に役立っている。
LHTRPGで単発のセッションを遊ぶ際は、キャラクターにリソースにできるアイテムの金額をGMやシナリオが指定する。ハイコンストラクション相当額を基準として、多少の変化を加えることでセッション難易度を調整するテクニックもあるので覚えておくと良い。

これらの傾向を念頭に、具体的な戦闘やミッションを構築して背景の設定を与えるとシナリオが完成する。

プレイヤー視点から

長々と分析したが、ここまでせずともあなたがプレイヤーの立場でLHTRPGを遊び慣れているなら、直感的に理解できることもあるだろう。要するに、あなたがプレイヤーとして遊んだ時に起こって嬉しかったことが、あなたのシナリオで発生すれば良いのだ。

新しい戦場を攻略するときの高揚感、連携がうまくいった時の達成感、敵の恐るべき攻撃をやりすごし、なんとか倒すことができた時の安堵感。それが発生するように意図を持って仕向けることが、シナリオをつくる上でのコツとなる。そうはいってもあまりに露骨な持ち上げは興醒めだ。だから、我々は計算尽くでプレイヤーを翻弄し、彼らの読みが我々の読み通りとなるようにリードを仕込み、そのひらめきを彼ら自身の手で掴ませたのちにカタルシスの中に放り込もうとしているわけである。

まとめ

・システム傾向は、能力値や戦闘ルールなどシステマティックな面によって方向づけられる。
・LHTRPGは、システム面から「準備し、協力することで試練を乗り越える」ことを奨励されている。
・プレイヤーの立場から、セッションには何が求められるか考えると良い。

今後も折を見て少しずつ書いていきたいと思います。良いものを作りたいので、ご意見ご感想あればどうぞお聞かせください。

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