ベビーサインを使っていた話
息子が生後9ヶ月の頃(難聴だとわかる前)から、我が家ではベビーサインを取り入れていました。
おむつ交換、着替え、お風呂、飲むか食べるか、もっといるか、おしまいにする、寝る、お願い、ありがとう、おいしい、挨拶、動物やお魚や乗り物など、日常に必要なやりとりはベビーサインとあわせて声かけしていました。
しかし息子からの自発はベビーサインより発語の方が先でしたし、1歳半健診時点でもベビーサインより発語の方が多く、あまり効果を感じていませんでした。
ただ、こちらからの呼びかけにはベビーサインで理解してしまっていたことで、生活面でのやりとりに難がなかったので、難聴発覚が遅れた一因でもあったのかもと今では思います。
難聴だとわかった後、小児難聴医のセミナーで「手話は使っても良い。喋られるようになったら、口で言う方が早いから手話使わなくなるけれど。」と教えられました。
その場でおやこ手話辞典を購入し、ベビーサインの本には載っていなかった単語を少しずつ覚えて取り入れることにしました。
しかし療育先で手話を教えてくれるでもない、聾学校にも断られてしまっているので通えない。ベビーサインはあくまで1単語、1フレーズだったものでしたが、手話は文章を表現できるはず。でもそれについてはどこにも書かれていませんでした。
当時は本屋で探すことも難しく、YouTubeで検索しても出てこないことがほとんどでした。NHKの手話番組はあくまで大人向けの言葉しか取り扱わず、手話講習は子連れNG、オンラインレッスンもない状況でした。仕方ないので辞典に載っている名詞+動詞をそれらしく繋げて、自作で使用していました。声かけの内容を強化すると共に、手話単語もあわせて見せることで、発語を促すようにしました。
補聴してからの息子は、名詞に限りまず手話単語を模倣、その後に口で言うようになり、口で言ったものが確実に私に伝わっていると数回実感できた後に、手話単語は表出しなくなりました。動詞や形容詞に関しては、最初から口で言い、手話での模倣は一切しませんでした。私が辞典から覚えて扱えた手話単語は80語ほど。そのうち息子が使ったものは半分ほどでした。
補聴して1年経った(3歳半)頃、当時の息子の発語数は600語程でしたが、その時まで残っていた手話は6つでした。晴れ、雨、曇り、風、傘、帽子。天気に関連する言葉のみです。またその頃には、新しい名詞に関しては手話で入れていきたいと思っていても、辞典に載っていないものの方が多く、教えてくださる方も周りにいなかったので、自然と口でのやりとりだけへ移行していました。
あの時、「泥遊び」「泥団子」「たんぽぽの綿毛」「ほたる」「アメンボ」「蛹」などの単語が載っている辞典があったなら、「ペンペン草」「つゆ草」「クローバー」「ハナニラ」などの植物名や「カミキリムシ」「コガネムシ」「ハナムグリ」などの昆虫名をどう教えればいいのか教えてくれる人がそばにいたら、まだ手話を使っていたのかもしれません。息子の語彙数の追い上げと、私が調べて出せる手話の数がどんどんかけ離れていき、また息子が模倣しないことや、口でのやりとりの方が忙しくなったこと、全てが重なり、我が家では手話は扱わなくなりました。
ただ、それなら手話もベビーサインもいらなかった、というわけではありません。口以外で伝わる方法があって良かったです。子の自発は少なかったですが、それでも私に対して何かを伝えたいと思う気持ちを防がずに済んだ時はあると思います。なくなったから無駄だった、なんてことはなく、これもまた積み重ねできたものの一つだと思っています。