どんなお題でも語る #4「円周率の最後の数字」
ばさつです。このnoteでは「どんなお題でも語る」をモットーに、皆様から貰ったお題について小噺にして語っていきます。
#4「円周率の最後の数字」
「円周率ほど皮肉なものはないよ。君もそう思わない?」
また会長が書類に目を通しながら話し始めた。
「どういうことですか?」
興味はないけど聞かざるを得ない。
いま生徒会室には僕と会長しかいない。
聞こえていないふりをしたこともあるが、そのときは書類越しに期待の眼差しでこちらをチラチラ見て、反応がないと分かると、頬を赤らめてそっと書類で顔を隠した・・・のを目撃した。
それがとても可愛かったので、本当はまたその顔を見たいけど、女性を悲しませるのは僕の信条ではない。
「数字を発明したのは人間なのに、結局いくつなのかよく分からない”無理数”があるなんて。」
「無理数でも、√2とか√3は2つかけたら整数になるから仕方ないかなと思うの。でも円周率はそうじゃない。」
「”私を使えば円の大きさや面積が出せますよ〜”と謳いながら、円周率自体が無理数だからどんなに計算しても”約”が外せない。」
「真の値は間違いなく存在するのに、人間が生み出した概念では正確な円のサイズは導けない。」
「ね?皮肉でしょ?」
よほどテンションが上がったのか、会長はもはや書類を机に放り投げている。
「まあ、確かに。」
「まるで恋愛だよね。相手のことを全部知りたいのに、どこまでいっても本当のことは分からなくて不安になる。」
いやーそれは飛躍しすぎじゃ・・・
とは、勿論言えない。
「でも、最後まで分からないからこそ相手のことを知ろう、理解しようとずっと努力する。」
「たとえ無理だとしても、最後の数字が見つかるまで追い続ける。
間違いない、円周率は”愛”なの。」
こういうタイミングで会長に聞かされるのは、
”定期健康診断”を”定期券行進団”だと勘違いして駅の窓口に並ぶ姿を想像し、勝手に「季語は春だ」と決めつけていただとか、
ロッキーのテーマを口ずさんでいたらいつの間にかルパン三世になっていただとか、
本当にどうでもいいことばかりだったが、
今日の会長はいつにも増して熱を帯びている。
(結局どうでもいいが)
「・・・そうですね。」
適当に相槌を打つ。
本当に何を言っているんだろうか、会長は。
「私もそんな風に愛したいし、愛されたいな。」
「・・・ね。」
会長がじっと僕を見つめる。
・・・ん?
・・・・え?
これってひょっとして、ひょっとする?
事情が変わった。
「僕と・・・」
「僕とあなたで円周率の最後の数字を追い求めませんか?」
会長は、あのときと同じ様に頬を赤らめながら答えた。
「む、無理っすぅ・・」
#4「円周率の最後の数字」完
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