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『honto with』終了/出版流通業界に求められる顧客視点
『honto』 withの終了に驚愕
honto withという大日本印刷運営の紙・電子書籍のハイブリッドECサイトがあった。
サイト上で丸善・ジュンク堂等の店頭在庫リアルタイム検索・取り置きができ、「あの本が欲しいけど店頭にあるかな?」を確認して外出時に取りに行くといったとても便利な体験ができて重宝していた。
そんなhonto withであったが、なんと2024年の5月末で終了してしまい、今は電子書籍のみ取り扱うhontoのみとなっている。
大日本印刷の子会社である丸善CHIホールディングスの完全子会社の丸善ジュンク堂書店(honto withにも参画)が、店舗在庫検索、店舗受取、ネット通販などhonto withの後継となる機能を備えた新しいサイトを開設したが、電子書籍の取扱いがない、リアルタイム在庫検索ができない等、デグレ感が否めない。
丸善ジュンク堂書店は、現金専用セルフレジや非接触タッチパネルでの在庫検索等、ROIの観点で疑問符があがる施策が最近打たれているように思う。
今回はhonto withの終了の背景や、丸善ジュンク堂書店の最近の迷走について所感を述べる。
消費者観点ではデグレな改革
honto withは丸善ジュンク堂書店など提携書店の店頭在庫を検索、取り置きすることができるサイトで、電子書籍販売サイトのhontoと併せて大日本印刷が提供していた。
大日本印刷は今回のサービス終了について、「2021年からトーハンとの出版流通改革を進めており、今回のリリースもその一環だ。」と述べている。
紙の本の流通については、取り次ぎのトーハンの書籍ECサイト『eーhon』に引き継ぐとのことで、流通構造の交通整理が行われた感じだ。eーhonには受け取れる店舗として三省堂書店や蔦屋書店が登録されているが、丸善ジュンク堂書店は未登録。
丸善ジュンク堂書店側で丸善ジュンク堂書店ネットストアを立ち上げたことも踏まえると、honto with終了前後で流通構造は以下のように変わった。
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このように、流通改革だからプラットフォームが一元化されたとかではなく、消費者からの入り口としては電子書籍と紙の書籍の入り口が分かれた結果、インターフェースが増えてかえって不便な構造になったとすら言える。
ただ、これは出版流通関連のステークホルダーの観点で見れば、互いにすみ分けができて合理的ではある。
まずhonto withのように電子書籍と紙の書籍が同じプラットフォームで扱われていると、紙の在庫が今ないから電子書籍を買おうとなる可能性がある。そうなると、取次会社や書店としては取扱高が減るので面白くない。
では、紙と電子書籍の扱いを分けたとして、次にどこで紙の本を買うかだ。honto-withとe-honを統合して取り置ける店舗の選択肢が増えた場合、ユーザーにとっては便利だが書店にとっては比較される競合が増えて自店への送客が減ってしまう。
中堅・中小の書店だと相乗りでもプラットフォームに乗ることで集客力を強化できるが、丸善ジュンク堂書店や紀伊国屋書店といった集客力のある書店は相乗りするメリットがない。
結果的に、honto-withの紙の本に関する機能は丸善ジュンク堂書店ウェブストアが担い、e-honは従前通り彼らが抱えている書店と連携したサービスを提供している。
消費者にとっては、一元的に店舗在庫確認・取り寄せができるわけでもなく、むしろ電子書籍と紙の書籍の扱いが別々になった、リアルタイムで在庫を見れなくなった等むしろデグレした一方、取次会社・書店としては線引きを上手く引けて売上の安定化に寄与したという結果である。
大日本印刷としてわざわざ電子書籍と紙の書籍のプラットフォームを分けることにメリットはなさそうだが、トーハンとやりたい改革を進める上での譲歩だろうか。hontoを割と使っていた身としては、紙の本のEC購入は1回もなく全てが取り置きだったので、売上にあまり寄与していなかったので良い交渉材料だったと想定される。
丸善ジュンク堂書店に漂う迷走感・そこに顧客視点はあるか
丸善ジュンク堂書店には大変お世話になっている。欲しい本は行けば大体ある。並べられた本と向き合うことでセレンディピティをくれる。
ただ、最近の取り組みを見るとちょっと不安に思うところもある。
わざわざhonto利用者に面倒を強いる丸善ジュンク堂書店ネットストアへのリプレイスは、親会社の大日本印刷とトーハンとの交渉の煽りを受けて、自分達でECを構えざるを得ない結果だったのかもしれない。
それは置いておいて私が驚いたのは現金専用セルフレジだ。
そもそも購入者はブックカバーをかけてもらいたい人や領収書を書いてもらいたい人が多いだろうし、現金を使うのは高齢者で彼らはセルフを嫌うだろうから、ほぼ誰も使わないだろうと思っていたら、案の定その通りだった。
また、タッチパネルも非接触でタッチできるようにしているが、それで書店に来ようと思う人が増える、客単価が増えるだろうか。ROIに響かない施策だと思う。
どうやらこの2つはDNPの技術を活用しており、シーズ起点で親会社の勢いで実行された施策のように思われる。
デジタルを活用した店舗体験の向上にチャレンジするのは良いことだが、それが顧客の行動特長や求める価値から逆算されたものになっているか、結果的に売上や業務効率化に繋がるかの視点を持って取り組まれたい。