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今産地にいて思うこと
ここはコスタリカのタラスにある「HACIENDA COPEY」という農園。
今、この文章を書いているのは現地時間の午前5時。時差ボケの真っ只中でnoteを執筆しています。
ここ数日、外では大雨が降っていて、実はこれが「異常なこと」だと感じています。
収穫期に降る雨がもたらす問題
一般的にコーヒー産地では、収穫時期は「乾季」に当たり、連日晴天が続きます。そして、収穫が終わると「雨季」に入り、雨が多く降ることでコーヒーの木が水分や栄養を蓄え、次の収穫期に備える、というサイクルがあるのです。
引用元:https://www.cafeimports.com/north-america/blog/harvest/
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コロンビアの一部地域など、年に何度も雨季と乾季が入れ替わる場所は例外ですが、私がいるコスタリカでも、本来はこの時期は乾季──つまり収穫期──のはず。ところが最近は、日中や夕方に雨が降ることが増えており、実際、今も雨音が聞こえています。
では、収穫期に雨が降ると、どのような問題が起きるのでしょうか。
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チェリーの品質低下
収穫前のコーヒーチェリーが雨の水分を過剰に吸ってしまい、収穫前に弾けたり、甘さが薄くなったりするリスクがあります。また想定外の発酵が進んでしまうこともあります。乾燥工程でのリスク
アフリカンベッドなどで乾燥させる際、湿度が高まると乾燥ムラが発生しやすく、品質に大きな影響が出ます。乾燥はコーヒーの品質を左右する重要な工程なので、ここをコントロールできないリスクは非常に大きいのです。収穫作業の危険性と効率の低下
斜面に広がる農園での収穫・運搬作業は、雨で地面が滑りやすくなり、足を滑らせてケガをするリスクが高まります。また、雨の中では作業効率も著しく落ちてしまいます。私自身も産地でケガをしたことがあり、この危険を肌で感じています。
こうしたリスクはすべて、本来は降らないはずの収穫期の雨によって引き起こされるもの。過去にはあまり見られなかった現象だと感じています。
気候変動がもたらす影響
専門家ではありませんので詳細なメカニズムは割愛しますが、考えられる理由としては下記のようなものがあります。
地球温暖化
気温が上昇し、大気循環の変化によって、乾季にも雨が降りやすくなる地域が増えているといわれています。エルニーニョ/ラニーニャ現象
太平洋の海水温度変動によって世界各地の降水量や気温パターンが不規則になり、例年通りに雨が降らない、あるいは乾かない、といった状態が起こりやすくなっています。
生産者の暮らしがかかった重大な問題
今回、産地に来て強く感じたのは、生産者やピッカー(コーヒーチェリーの収穫を担う方々)の生活が、この問題に大きく左右されるということです。
品質が下がったからといって、温暖化のせいだとバイヤーが配慮してくれるわけではありません。最終的にはカップクオリティで価格が決まってしまいます。ですから、生産者たちは黙って見過ごすわけにはいかないのです。
私が今いる農園でも、品質への悪影響を最小限に抑えるために、良いエリアでは急いで収穫を始めたり、農園主やマネージャーが精製・乾燥のコントロールに奔走したりしています。こうした一つひとつの努力が、私たちの飲むコーヒーを支えているのだと、現地で改めて痛感しています。
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その動員力と迅速さに「絶対に品質を劣化させない」という農園主とピッカー達の強い意志を感じた(HACIENDA COPEY農園)
受け取る側へのメッセージ
バイヤーの皆さんや産地を訪問する方々には、こうした背景をしっかりと汲み取ってもらえると嬉しいです。そこから先、バリスタやロースター、コーヒーを売る立場・作り手の皆さんへと、その想いや問題意識が受け渡されていくはず。そして、バリスタやロースターは、その背景を感じて、大事にコーヒーを提供していただきたいです。さらに、コーヒー好きの方々が実際にカップを口にするとき、ほんの数秒でも「こうした事情があるんだな」と感じていただければ、コーヒーの価値はさらに深まるはずです。
雨の音を聞きながら、収穫期のはずのこの場所で考える問題は、決して遠い世界の話ではありません。温暖化という大きな流れの中で、コーヒーの生産地は直接的な影響を受けています。その影響は、私たちが普段何気なく飲んでいる一杯にもつながっています。
こうした現実を感じながら飲むコーヒーは、きっとまた違った味わいがするでしょう。飲み手としても、一杯に込められた背景を少しでも思い浮かべていただけたら幸いです。