【2020年度改訂版】バリスタチャンピオンシップに挑戦してほしい6つの理由 -第2章-
今回は前回に引き続き、「バリスタチャンピオンシップに挑戦してほしい6つの理由」について、全6項目のうち、3、4章についてお話しします。
もし前回の連載をお読みになっていない方は、1つ前の記事をお読みください。
-JBCに挑戦すべき6つの理由-
(1)ジャッジから客観的な評価を得られる →前号に掲載
(2)コーヒーを深く知り、深く学ぶ →前号に掲載
(3)短期間で技術レベルが向上する
(4)プレゼン能力が上がる
(5)最先端のコーヒーを知ることができる →次号掲載
(6)新しいネットワークが広がる →次号掲載
(3)短期間で技術レベルが向上する
前号の2つめでは、「コーヒーを深く知り、深く学ぶ」ということの大事さを説明しました。
では、コーヒー深く理解していれば、エスプレッソを美味しく抽出することはできるでしょうか。もちろん、そううまくはいきません。抽出するからには、当然技術が伴っていなければ、美味しく抽出することはできないからです。
私はエスプレッソほど技術が味に反映する抽出方法はないと思います。もちろん抽出技術は、エスプレッソ以外の他の抽出にとっても重要です。
しかしエスプレッソは他の抽出に比べ、同じ豆、同じグラム数、同じ秒数などを揃えても、なぜか抽出ごとに味が違ってしまう、非常に再現が難しい抽出方法だと言えます。ゆえに、私自身も心から美味しいと言えるエスプレッソに出会うことも、また数少ないと言えます。
過去の大会でも、私に技術の重要性を感じさせる場面が複数ありました。同じ農園・同じロットの全く同一した生豆なのに、バリスタによって抽出されたエスプレッソのカップクオリティが全く異なるケース。同じ生豆、同じ焙煎の豆を使用した二人のバリスタから、全然違うフレーバーや質感を感じるケースなど、技術の要素が大きく評価を分けていることが多々ありました。しかしこの「難しさ」に向き合うことこそ、バリスタの技術レベルを飛躍的に高めるのに役立ちます。競技会というのは予選の日程が決められています。それまでにエスプレッソを美味しく仕上げようと思うと、短期集中で1つのコーヒーに向き合い、何度も抽出する時間を作ることになります。しかもスコアシートがあり、「何を目指して抽出するか」というガイドラインが存在しています。この「ある目標に向けて、1つの素材に対する集中した練習時間を持つこと」こそバリスタの技術を高めるのに役立つのです。
バリスタの中には「大会に出なくても普段の営業で十分に技術は向上できる」という意見もあります。皆さんの中にも、技術というものが普段の営業の中にあって、何年経っても自然に、そして年々、そのレベルが上がっていくものだと思っている方もいるかもしれません。しかし、それは大きな誤りです。多くのトップアスリートやトップアーティストを研究し、本当のトップと、そうでない人との間にある違いは何か、という私たちにとって大変興味深い研究しているアメリカの心理学者アンダース・エリクソンは、自著の中でこう語っています。
〜 一般的に何かが「許容できる」パフォーマンスレベル、つまり該当技術がストレスなくおこなえるレベルに達し、自然にできるようになってしまうと、そこからさらに何年「練習」を続けても技術の向上には繋がらないことが研究によって示されている。むしろ20年の経験がある医者、教師、あるいはドライバーは、5年しか経験がない人より、やや技能が劣っている可能性が高い。というのも、自然にできるようになってしまった能力は、改善に向けた意識的な努力をしないと徐々に劣化していくためだ。〜
これは彼の長年にわたる研究結果からくる結論です。私も全く同じ意見です。そしてこの文にある「改善に向けた意識的な努力をしないと」とある部分こそ、バリスタにとってのバリスタチャンピオンシップ出場と、それにともなう練習であると、私は考えているのです。自分の何がいけないのか、その技術における基本の問題点を発見するために、この競技会には2名のテクニカルジャッジがいます。あらゆる角度から、バリスタの技術のみにフォーカスし、その正確性と一貫性をチェックし、フィードバックしてくれるのです。このことはバリスタの技術を向上させるのに、きっと役に立つでしょう。
(4)プレゼン能力が上がる
バリスタチャンピオンシップでは、「プレゼンテーション」が評価の対象となっており、結果を大きく左右します。
「プレゼンテーション」と聞くと難しそうですが、ようは人に物事を伝え、深く理解してもらうための説明手段です。私はあるビジンスパーソンへのアンケートで面白い結果を目にしました。ビジネスプレゼンテーションで、失敗したり、全く手応えを感じなかったことはあるか?との問いに70%以上のビジネスマンが「いいえ」と答えました。みんな大きな失敗はしていないと考えているようです。しかし、他人のプレゼンを聞いて印象的だったり、感動したことはあるか?との問いに、「はい」は20%ほどしかいないのです。つまり、多くの人は、自分のプレゼンはうまく出来た、なんとかやれたと思っているが、聞き手のほうは、それほど感動的でも印象的でもなかったと感じているのです。
競技におけるプレゼンテーションでは、ジャッジに訴えかける強い力が必要です。そのために、考えるべきこと、やるべきことがいくつかあります。
プレゼンに情熱を持たせるためには、話し手が「何に情熱をかたむけているのか」を整理する必要があります。例えば、「そのコーヒーを選んだ理由は何なのか?」それを解明するためには「そのコーヒーについて徹底的に調べる」ということが必要です。そして「そのコーヒーについて詳しい人からヒアリングしたのか」「コーヒーの味を引き出すのに、あらゆることを試したのか」も重要です。プレゼンのメインテーマや話す内容があらかた決まったら、次は「あなたの伝えようとしていることは、客観的に見て納得性があるか?」を俯瞰してみることが必要です。これらのことを強く考え、様々なことをやり尽くした果てに、見つけられるものがあり、それがプレゼンテーションに強い力をもたらすのです。
もっと強い力をプレゼンに込めるためには、「どうしても出場は、このコーヒーじゃないといけない」という想いから生まれます。なぜこのコーヒーでないといけなかったのでしょうか?星の数ほどあるコーヒーから、これを選び、これを提供した理由は何なのか、それを話す必要があります。強い力を持つためには、説得力が要ります。説得力の裏付けには、そのコーヒーを深く知り、理解する必要があります。ジャッジはお客様役のように見えますが、もちろんお客様ではありません。コーヒーにおける各分野のプロです。バリスタよりもコーヒーキャリアが長いこともあるくらいです。このプレゼンにおける掘り下げは、バリスタの「伝える能力」を伸ばすのに役立ちます。
そしてプレゼン能力の向上は、チャンピオンシップだけでなく、普段の営業や、日常すべてのビジネス行動に役立ちます。スペシャルティコーヒーは、温暖化や需要拡大など様々な影響を受け、年々生豆価格が上昇してきています。10数年前にはCOE1位が10ドル(1ポンド・454gあたり)を越える程度でしたが、2008〜2010年ごろには80ドルから100ドルくらいのものが出てきました。そして昨年2019年のベスト・オブ・パナマ品評会では、なんと1ポンドあたり、1029ドルという史上最高価格で落札されることとなり、世界中のコーヒー関係者を驚かせました。これは大げさな例であるとはいえ、今後も価格が下がることは当面ないでしょう。必然的にバリスタは今後もっと高いコーヒーを販売できるようにならないといけなくなります。その際に重要なのは、もちろん美味しいコーヒーを抽出できることと、もう1つ重要なこと、それは「このコーヒーのことをいかに伝えられるか」です。味の楽しみ方、特有の香りやフレーバー、農園主の苦労、コーヒーできるまでの背景などなど、聞き手が興味を持つ様な背景を伝えていけることが、味と同じくらい重要になってくると思います。チャンピオンシップでプレゼン力を磨くことは、この「伝える力」を養うのに大いに役立つのです。
次回は以下の2つのことについてお話しします。
(5)最先端のコーヒーを知ることができる
(6)新しいネットワークが広がる
について説明していきます。
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