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クリエイターがなぜ、企業経営者になったのか「すみません、ほぼ日の経営。」

コピーライター糸井重里さんをご存知の方も多いかと思います。イトイさんが50歳のときにスタートさせたウェブサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」は、手に取ったことがある方も多いであろうほぼ日手帳などの商品販売や、多彩なコンテンツを運営してます。
さらに、ほぼ日は2017年に上場しました。正直以外でしたが、やっぱりイトイさんの周りのかたもそのように思ったそうです。ほぼ日が、なぜ上場したか、どんな組織か、川島蓉子さんとのインタビュー形式でまとめられた一冊が「すみません、ほぼ日の経営」です。
タイトルで謝っているのがユニークですよね。

働き方が柔軟になってきた昨今ですが、まだまだクリエイター出身で企業経営に向き合い経営者の道を突き進もうとする人は少ないと感じています。
組織で働くこと、自分の一歩先を見つめ直すきっかけになればと思いまして、一部ご紹介させていただければと思います。

働くことがいやだ

これまた以外なのですが、イトイさん自身が「働くことがいやだ」と小学生から思っていたそうです。本書は、そのイトイさんが仕事をしていくなかでの、心境の変化が垣間見えるのがとても印象的でした。小さなデザイン会社にご入社されて、その後フリーのコピーライターとなり、50歳でチームを組んで働きだしました。
そのチームでの働きがほぼ日の社長としての役割なのですが、他の企業と少し違う取り組みをされています。一番の衝撃は、リサーチしないでものづくりをしているというところです。

他社の商品はリサーチしない

え、デザイナーだって市場、競合調査やユーザー調査をするのに、企画者やマーケッターさえリサーチしないとな、と驚きました。

「その代わり、じぶんがお客さんになったら本当によろこぶかどうかを、本気で考えることにしてます。」p.26 第一章 ほぼ日と事業 から抜粋

並大抵ではないほど考えているんだ、ということが伝わってきます。
定説の分析方法の一つとして、仮説検証型の場合、例えば「日本人はやっぱり日本茶がお茶が好き」という仮説を、他者の意見を聞いてあっているか確認していきます。さらにどんなお茶が好きか、若者に再ブームがきているのではないか、市場に売り込む穴(ニッチ)がないか、などを多面的に見て判断しています。他者の意見が積み重なり、それがデータとなり、証明となります。
ですが、ほぼ日の企画の場合、とことん考え抜く。
もちろん一人だけで考えるわけではないですが、自分や隣の席の同僚も買うか、イトイさんならどうか、などを探究していきます。ちょっとでもつまらないポイントがあれば、それは買わないということ。つまり、リサーチの結果だから仕方がないという言い訳が一切できない分、より真剣に取り組むことはもちろん、深い思考力を求められているとも言えます。

そうなると判断基準が難しいのですが、ほぼ日では好きかどうかを大切にしてます。

「「いい」「悪い」で判断するようになると、みんながどんどん同じになります。(中略)「好き」と言っているものは、やっぱりどこかに魅力の分量がたっぷりとあります。(中略)クリエイティブはひとりの人間が本気で「好き」の正体を探っていくところから生まれます。」p.27 第一章 ほぼ日と事業 から抜粋

なんだかこれだけ聞くとすごい失敗は許さん!考えが甘い!みたい聞こえるかもしれませんが、そんなことはありません。失敗したっていい、それは失敗じゃない、目標に届かなかったらどうして届かなかったか、振り返ることが重要とも語ってます。

ほぼ日が常に考えていることは、どうしたらお客さんによろこんでもらえるか、「心」を大切にしています。また、

「「誰がつくったか」よりも、「どんな場がつくったか」のほうが大事だと思っています。」
p.168 第三章 ほぼ日と組織 から抜粋

これは、発想の話しの一部ですが、いいアイデアを思いついたからえらい、深く考え抜いたからえらい、上長だからえらい、とかないんです。つまり失敗したからダメなやつ、考えが甘いからダメなやつ、ってこともないんだと思います。

本文に「生活のたのしみ展」というもの見市のようなイベントに触れる内容があるのですが、そこでのお客さんの反応についても、どんな場がつくったかがうかがえる文脈がありました。
お客さんといえば、受け手側ですが、そこではそうではなかったのです。自分もこの場で何かができるかもしれない、場の一部として参加している人たちだったのです。それは、マナーに繋がるし、なんなら親切に繋がって行列の最後尾の看板の向きなんかにも現れてきて、結果的にみんなでそのイベントを作り上げています。

ああ、これがブランドなんだと思いました。以前、ブランドの作り方について体系立てた著書を読んだとき、セオリーやフレームワークが紹介されていて一生懸命覚えた記憶があります(でも、もう忘れてしまいました)。
でも、ブランドはそうやって賢く計画的に作ろうと思って作るだけでなく、いつの間にかその熱が伝染して、伝染した相手がいつの間にか向こう側からこっち側にやってくることもあるんです。それが、ほぼ日なんだと思います。

7時間勤務などのユニークな考え方

そのほかにも、面白い取り組みをされています。全部は書ききれませんが、特にユニークだったのが以下3つ

・7時間勤務
漠然と働くのはもったいない、でも集中してやれということではなく、新たな刺激となる時間が多くなるだろうと思ったそうです。

・インディペンデントデー
アイデアを生む時間として、金曜日はフリーの時間になっています。寝て過ごしたっていいんです。

・伸び伸びと働く

「「きっちりできる」ということだけが、ほかに増してなにより大切なことではないんです。」p.106 第二章 ほぼ日と人 から抜粋

きっちりしている人もいていいけど、そうじゃない人も大事、なんとも深い言葉です。しかし、企業としては、自主性を重んじるって難しいことだとも思います。

ほぼ日の行動指針の本質

もう一つ、ぐっときた話しがあります。

「たとえばぼくが死んだあと、ほぼ日で論争が起こったとします。「やさしく」ないけれどそれでもやるべき事業なのか、とか。するとより深いところで「「やさしく」なかったらダメだよね」というやりとりが起こるはずです。」p.154 第三章 ほぼ日と組織 から抜粋

論点はたとえばぼくが死んだあと、ではなく「やさしく」なかったらダメだよね の部分なのですが、前提として、ほぼ日の行動指針があります。

行動指針:やさしく、つよく、おもしろく

本書では、個々の言葉に対しての解説がされているのですが、注目点は、この目標を企業として掲げ、それを乗組員(社員)が普段の考えの一部として取り込んでいて、判断基準として使えているところです。
何をいまさら、と思われるかたもいらっしゃるかもしれません。うちはもう骨の髄まで染まって考えられているよ、という企業ももちろんあるかとも思います。
ただ、まだ多数の企業は、目標、スローガンやミッションを立て、目標設定のときに使ってるとしても、業務やMTGの時まで、その言葉を軸として判断を下せているでしょうか。形骸化していたり、そんなこと言われても、とか奥底で思ってたりしませんか(というのも、心当たりがありまして、、、)。

ほぼ日はイトイさんが中心となって運営しているイメージで、イトイさんがいなくなったらどうなるんだろう、といち生活者として思ってました。でも、チームに行動指針が浸透していれば、極端な話し、イトイさんがいなくたってほぼ日なんです。や、極端ではないのかもしれません。
本書では、とはいえ、この指針を掲げること自体の迷いや理由などにも触れられていてます。

クリエイターが企業経営者へ

心境の変化はほぼ日刊イトイ新聞を作ったころだったそうです。
プレイヤーとしての限界も見えてきて、「場」(メディア)があってこそ完成する、という考えにいたりました。
ほぼ日刊イトイ新聞の本、インターネット的、などの書籍にチームとしての試合のやり方が紹介されてます。

イトイさんは、経営のことなんて知らなくても「どうやって楽しませるか」「ほんとにするか」が経営のもともとだったら、やればできるみたいですよ、と伝えられたらいいなと考えたのでした。

まとめ

一見、今いる組織で軽々しく取り入れられるものではないかもしれません。ただ、自身の考えや捉え方を少しでも変えるだけでも、見えてくる部分があるのではないかと思います。
上場についてまで触れられませんでしたが、本書を読んでいると、カリスマ的と思っていたイトイさんが、実は判断に大変迷っていたり、正直すぎるところや、考えてるんだけど答えを出していないことがあったりと、経営者として、スマートに判断できていたわけではありませんでした。ただ、それは誠実だからこそ、その考えにいたり悩む模様が見てとれました。
ほぼ日のウェブサイトもありますので、気になった方は是非ご覧くださいませ。
作る、っていろいろな形があるんですね。

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skizm(さかいずむ)/デザイナー
最近イベントに参加できてないので、デザインやビジネスのイベントがあったら行きたいです。おすすめあったら教えてくださいー