拡大・発展・成長を前提とした社会にモヤモヤ
昨夜から今朝にかけて、朝井リョウさんの新作を一気に読みました。
想像もしなかった視点で書かれ、当初は恥ずかしい気持ちもありましたが、読み進めるうちに笑うところもあれば、怖くなったり気味悪くなったりと、忙しく駆け抜けて、どうこの話をまとめ上げるのだろうと期待の中、著者らしくやはり問いがけをして終えた作品でした。
本作の主人公・尚成は同性愛者です。尚成の生殖機能が人格をもっているという設定で、その生殖機能が尚成の生活を観察し解説しながら物語が進んでいきます。この発想にまず驚きでした。
現代社会は資本主義や異性愛を主軸としていて、いずれも拡大・発展・成長を目指していますが、そんな中主人公・尚成は、社会や個人の拡大・発展・成長は「どうでもいいなぁ」と興味関心がなく、達観した目線で生き延びることに専念しています。
作中にも掲げられているとおり、ヒトの特性として、ヒトは理由もなく初期設定として共同体の拡大・発展・成長を目指し、ヒトが現代社会で拡大・発展・成長にするため、
1、子供を産んで育てていくこと。
2、労働により会社を発展させていくこと。
3、社会の成長や地球全体の改善に繋がる取り組みを行うこと。
この3つに寄与することが必要ですが、主人公・尚成がたどり着いた哲学が以下の強烈なものでした。
1拡大・発展・成長のレールに乗らず、ちょうど良い目標をこなし続け、徐々に難しいお菓子作りに挑戦しつつ、ひたすら高カロリー食を作り摂取、そのカロリーを消費するためにトレーニング、これをひたすら繰り返す。
2こうやって時間を消費していく内に、テクノロジーが発展して生殖医療や体外発生が進めば、異性愛者にできて同性愛者にできないことがなくなっていく。そのような未来に向かっていくだけで尚成の幸福度は上がっていく。3尚成自身の幸福度を「異性愛個体から特権意識が引き剝がされる未来」に司らせていると、自分が自身や社会の拡大・発展・成長に関係なく、心身が時間的に前進することだけで純粋に幸福な状態になれる。
ここまでの主人公の設定や考え方が、あまりにも飛び跳ねているので、正直私自身どこまで理解できたのか自信がありません。
最後に「本気で『地球のために、できること』をヒトに問うのならば、回答は一つ。絶滅です。」という作中の言葉には衝撃を受けました。
朝井さん、あなたも拡大・発展・成長を前提とした社会にモヤモヤしているのでしょうか?
今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
この「生殖記」も読みやすいですが、内容はなかなか難解です。