アートへの熱き志に男が集う

先の直木賞候補にもなった原田マハ氏お得意の美術フィクションを読みました。

        (画像はAmazonからお借りしています)

日本人のほとんどが本物の西洋絵画を見たことのない時代に、ロンドンとパリで絵画を買い集めた松方は、実はそもそもは「審美眼」を持ち合わせない男だった。 絵画収集の道先案内人となった美術史家の卵・田代との出会い、クロード・モネとの親交、何よりゴッホやルノアールといった近代美術の傑作の数々によって美に目覚めていく松方だが、戦争へと突き進む日本国内では経済が悪化、破産の憂き目に晒される。道半ばで帰国した松方に代わって、戦火が迫るフランスに単身残り、絵画の疎開を果たしたのは謎多き元軍人の日置だったが、日本の敗戦とともにコレクションはフランス政府に接収されてしまう。だが、講和に向けて多忙を極める首相・吉田茂の元に、コレクション返還の可能性につながる一報が入り――。 世界でも有数の「美術館好き」と言われる日本人の、アートへの探究心の礎を築いた男たち。美しい理想と不屈の信念で、無謀とも思える絵画の帰還を実現させた「愚かものたち」の冒険が胸に迫る。 (Amazon内容紹介より)

ある歴史上の人物が出てくるのは、その時点では単なる「偶然」でしかない。しかし、後世のある時点に立脚して、歴史に中でその「偶然」をみつめたとき、それがいかに「必然」であったかがよくわかる。(p198)

松方幸次郎や吉田茂 、田代雄一、日置釭三郎それぞれが主人公となり、過去にさかのぼって叙述されていくのですが、大きなことを成し遂げようとする男(松方幸次郎)に同じ志を持った男たち(吉田茂、田代雄一、日置釭三郎ら)が集まり、溢れんばかりのエネルギーで多くのものを犠牲にしても尚、仕事を遂行する人間像や生き様を生き生き描いています。

ロンドンで松方さんと出会い、いってみれば僕は、タブローのことばかり考えて夢中になっている、どうしようもない愚かものです。ほかには何もない。・・・・それでも、とても幸運な、幸福な愚かものだと思います。(p205)
ー永遠を手に入れる。<松方コレクション>は、こうして始まった。(p238)

タイトルにある「愚かものたち」には“愛すべき”とか“凄い”など敬愛の念が込められていて、そんな愚か者たちを本気にさせるタブローの持つ力は計り知れなく、人類の宝であるといえますね。


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