グラスという名の病
ある日、ふらふらとアンティークマーケットを歩いていたらそれが目にとまった。不思議に吸い寄せられるように手に取った。そしたらまるで運命の出会いかのように手に馴染んだ。
それは100年くらい前の、鈍色に輝く金属製のグラスだった。
いま思えばあれが病の始まりだった。
古いグラスに魅入られるという病。
爾来、この2年くらいで10脚ほどヴィンテージやアンティークのグラス類を購入している。
去年まではまだ軽度の病だったと思う。
仕入れついでにマーケットを覗き、運命的な出会い方をしなければ連れ帰ることはしなかった。重度に進行したのは今年になってからだ。
原因はabsintheである。
こんなところで”緑の妖精”に幻惑されるとは。
absinthe waterはやはり脚付きの、空気感のあるグラスで作りたいと思い、探し始めたら行き着いた先はヴィンテージやらアンティークのグラスだった。
最初こそ専用グラスのオールドとも思ったのだけど、それらはちょっと引くぐらい高額である。そこで目に留まったのがゴブレット(ビストロなどで水を入れてサーヴされる小ぶりのワイングラスみたいなものと言えば想像がつくだろうか)。それも有名メーカーのではないもの。
要するにオールドとしては比較的安価で手に入れやすいものである。
−話は逸れるけど、古いグラスはメーカーのわからないものの方が好きだ。
なぜなら、市井の人々が使っていたという空気があるから。
名もなき一般の人たちに使われていたグラスというのは言葉に表せない良さがある。華やかな表舞台ではなく、ごくごく普通の生活や日常を彩った−ハレではなくケに色を添えた−もの。そこに言いようもない浪漫を感じるのだ。
閑話休題。
これなら用途も幅広く使える!と自分の中で急にハードルが下がったのだったが、これがいけなかった。
お陰で骨董市やアンティークマーケットに足繁く通うようになってしまい、偶然ではなく必然的出逢いを求めるようになってしまった。
そのせいか古物商の方から顔を覚えていただき、わざわざ仕入れ先から「探してるものはないか?」とか「こういうものが出てきたが必要か?」と連絡を頂けるまでに。
さすがに「まだ」首まで浸かっているとは思わないが、腰くらいまでそうなっているという自覚はある。
今もこの病は進行中で、15脚ほど探しているものがある。
なかなか出回らなそうなので時間もかかりそうだし、そのデザインが出てきたところで欲しいと思えるかどうかは手に取らないとわからない。
根本的な問題としてお財布の問題もあるにはあるけど…古物は一期一会だから本当に欲しいと思ったら後先考えないだろうなあ。
良くない。実に良くない状態である。
しかもつけるクスリがないと来ている。
厄介である。
が、同時にとても楽しい。そう思えてしまうこと自体が実に厄介で良くない。
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