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"3プラス1”(その2)『クロノ・トリガー』(英語版)
はじめに
前回『 ”3プラス1” リンゴの木の実の花言葉 『クロノ・トリガー』(英語版)』でゲームソフト『クロノ・トリガー』を英語版にすると賢者の数は三人ではなく、四人になることを述べた。
以下、箇条書きにまとめる。
英語版では少数のキャラクター名が変更されている。
”三賢者”の名前の由来。英語版では新約聖書の『東方の三博士』に由来した名前に変更。
出典元である『新約聖書 マタイ福音書』での「東方の博士の記述」には、人数は書かれていない。
発明家『タバン』と妻『ララ』を組み合わせたアナグラムには、ヴァンダイク作『THE OTHER WISE MEN』の主人公『アルタバン』になる。『タバン』は”四人目の賢者”とも呼べる。
(英語版のキャラクター名)
『タバン』(Taban) +『ララ』(Lara)
→『アルタバン』(Artaban)
二人の一人娘でありプレイヤーキャラクターである『ルッカ』は、この理屈だと”四人目の賢者”のゆかりのキャラクターともいえる。
最序盤で『ルッカ』の家を訪れたとき、『ララ』のいる部屋でしばらくいると『タバン』が登場。『ララ』にリンゴの木の実をわたすシーンがある。リンゴの実の花言葉は『誘惑』。『旧約聖書』創世記に登場する善悪を知る実はリンゴであり、誘惑にかられて実を口にしたことで楽園から追放されたことに由来。
今回の話の内容
『THE OTHER WISE MEN』
『ルッカ』のあのイベント
『THE OTHER WISE MEN 』
あらすじ
ゾロアスター教の僧(マギ)であり、他の博士と同じように贈り物を贈ろ
うとして集合地点に向かう途中、行き倒れの人を助けたために他の賢者との
集合に遅れてしまった四番目の賢者『アルタバン』の生涯を描いた物語。
『ルッカ』が抱いた思い
多くのクロノ・トリガーの考察動画を見ていく中で、ルッカが作中抱いた思いは『もう一人の博士』の下記の記述と同じではないか、と筆者は考える。
下記は、『アルタバン』が三博士と約束した合流地点に向かう際、熱病に
倒れた人を発見したときの描写。
アルタバンは、息もつまるばかりであった。それは、恐ろしさのためではなく、こんなやっかいな事件にかかりあって、みすみすおくれることの腹立たしさからであった。(略)
しかし、アルタバンが見捨てていけば、この男は、死ぬに決まっている。ふみとどまるなら、いのちをとりとめるかも知れない。このさしせまった事態に、アルタバンの胸は、はげしくどうきをうつのだった。ただひとつの思いやりあるおこないのために、アルタバンの厚い信仰に対する、大きな報酬を犠牲にするようなことにでもなったら、あわれな、瀕死のユダヤ人に。つめたい水一ぱいをあたえるのに、ちょっとひまどって、星の後を追う旅路から、はぐれるようなことになったら。
決して”賢者”だからではなく、一人の人間としての感情が描写されている。『アルタバン』はこのとき病人を介抱するが、合流地点に遅れてしまう。
『ルッカ』の”あのイベント”
タイムゲートによって自分の幼いころに戻った『ルッカ』。そこは母『ララ』が事故にあった日であり、自分が科学を学ぶきっかけになった日でもある。
信ずるものか、愛か
『もう一人の博士』では、アルタバンは救い主に贈り物を捧げる旅はいつ
しか33年の月日がたっていた。これが最後の訪れになる、と幾度も来たエル
サレムにつくとイエスという人の噂話でもちきりだった。このイエスが探し
求めた救い主ではないか。その救い主がもうすぐ処刑されるという。3つ持
っていた贈り物は人を助けるために2つも使ってしまった。最後に残った真
珠で救い主を助けよう。アルタバンはイエスのもとに行こうとしたが今まさ
に奴隷に売られようとする少女が助けを求めてきた。以下は下記のように続
く。
前に感じた困惑が、また心に起こった。バビロンのなつめやしの木かげで、また、ベツレヘムのあの小さな家で、信仰と愛情のいたばさみになったときの、あの困惑が、心をとらえたのである。救い主のみまえにささげようとして求めた贈り物は、二つまでも、なさけ深いおこないにつかわれてしまった。これが三度目である。今度こそ、最後の、しかも、もっとも苦しい羽目である。
人を助ける絶好の機会なのであろうか、それとも、信仰をためす最後の誘惑なのであろうか?アルタバンにはわからなかった。わからない中に、ひとつだけ、はっきりしていることがある。それは、心をきめるということであった。これは、神のみ心なのであろうか。
アルタバンの迷う心にも、確かなことがひとつだけあった-この困っているむすめを助けることは、真の愛のおこないとなるであろう。そして、愛とは、魂の光ではないか?
信ずるものか、愛か。『もう一人の博士』ではアルタバンが思い悩み、葛
藤のなかで、二つのうち一つを選択していく。救い主に巡り会うことか、目
の前の命か。『ララ』を救出するかどうかのイベントは英語表記で『タバ
ン』(Taban)と『ララ』(Lara)、二つの名を組み合わせることで『アル
タバン』(Artaban)になる人物が関連している。プレイヤーは”四人目の賢
者”と同じ気持ちでプレイヤーはイベントに臨むことになるのだ。
㊟ルッカ(Lucca)はネット上の情報だと、照明度の単位『ルクス』(Lux)
に関係して「光」という意味合いをもっているらしい。
<参考文献>
『クロノ・トリガー』DS スクウェア(現スクウェア・エニックス)1995/2008
『もう一人の博士』 作・ヴァンダイク 訳・岡田尚 絵・佐藤努 新教出版社 1983
『聖書』 新約聖書(1954改訳)マタイによる福音書 日本聖書協会 1977
ジーニアス英和辞典<改訂版> 小西友七:編集主幹 大修館書店 1994
備考
ゲームソフト『クロノ・トリガー』からの系譜である一連の作品(『クロ
ノ・クロス』や『ゼノギアス』)にも”3プラス1”の人の役割・活躍する人が
いたりするかもしれない。
(例:一度プレイしたことのある『ゼノギアス』には”ワイズマン”というキャラクターが登場している)
また『クロノ・トリガー』発売年と同じ平成7年(1995)にアニメ放映さ
れた『新世紀エヴァンゲリオン』の二次的著作物では英語表記にすると偶然
名前に”四人目の賢者”『アルタバン』を宿したキャラクターが登場。『アル
タバン』と同じ行動をとって大活躍していく。機会があったらこのことを紹
介したい。