【レポート】場の発酵研究所:第1期#05 [ゲスト]首藤義敬さん
こんにちは、事務局の渡辺(わったん)です。
8月10日(火)は、場の発酵研究所・第5回でした。
会の冒頭は、第5回の講師・首藤さんの「夢中になると他のことを忘れがちになる性格である」という共有から始まりました。実は今回も、昼間の時間が楽しすぎて研究所のことを忘れてしまい、家族と食事に行こうとして車に乗ったところで、研究所の存在を思い出したそうです。
ZOOM上には笑っている人もいれば、あきれ顔?っぽい人もいる中で、「そんなバランスのよくない自分の生きづらさから、はっぴーの家は始まっていると思います」と首藤さんのお話から、第5回は始まりました。テーマは、「発酵と腐敗」。
第5回ゲスト:首藤義敬さん
株式会社Happy代表取締役。カオスクリエイター。23歳で遊休不動産の活用事業や神戸市長田区を中心に空き家再生事業をはじめ、27歳で法人化に至る。自身の生い立ちから多世代でシェアで暮らす昔の日本のようなライフスタイルをつくることが少子高齢化問題を解決する方法の一つになると気づき、はっぴーの家プロジェクトを始動。HPや看板をつくらず、つながりと口コミだけで拡がっていくのがHappyのプロジェクトの特徴。現在、多世代型介護付きシェアハウスという暮らし方を住みながら実験中。将棋と珈琲を愛する36歳。昼までダラダラ寝ていたい脱力系起業家代表。
「ごちゃまぜが楽しい介護付きシェアハウス」
それが「はっぴーの家」。この場所で首藤さんは、子育てと介護に取り組んでいるという。場所は神戸市長田区、かつては阪神淡路大震災の被害が大きかったエリアです。
はっぴーの家が大切にしている考え方を、キーワードと共に話してくださいました。
「エゴを社会化する」
自称「多動だ」という首藤さんと、絵描きが得意でアーティスト気質なパートナーさんと、「落ち着きがない」という娘さん。この3人で暮らすのも大変なのに、そこに介護も重なったという。
そこで首藤さんは、家庭や仕事の何かを諦めるのではなく、全部やりたいと考えました。そんな自分たちのエゴを「社会化」したのが、はっぴーの家だそうです。
「日常の登場人物を増やす」
それは、首藤さんにとっては「発酵の菌を増やすようなもの」。
いろんな問題を抱えた人たちが集まってくるのが、はっぴーの家。
例えば、この講座中にたまたま首藤さんの前を通った方は、息子と親子喧嘩をして収集がつかなくなってしまったので、息子を一週間預かってほしいということで訪れた方だそうです。
首藤さん:
みんないろんな問題を抱えていて、それが今回でいう「腐敗」なのかもしれない。
でも菌のようなものが勝手につながって熟成されていくような、はっぴーの家はそんな場所だと思います。
認知症などは治すことが難しい病気だけど、認知症でも思ったとおりに生きていきたい。
そんな問題を解決するというよりは、伴走する、あえて放っておく、というのが首藤さんたちの考え方だそうです。
「遠くのシンセキより近くのタニン」
核家族化してきた社会で、がんばって血縁の大家族をつくらなくてもいい。
親戚ではなく他人が大家族のように集まっている家。
そんなことを長田区でやっていると、注目され始めたそうです。
首藤さん:
長田区は、神戸市内では将来人口推計が最下位のエリア。
そんな場所で、ベビーラッシュが始まったんですよ。
はっぴーの家の発酵から、都市計画のエビデンスが覆されたんです。
(ここで突然、首藤さんがZOOMからいなくなり、一同、爆笑。もう、あきれ顔の人はいません。笑)
「一人のプロより100人の素人」
何事もなかったかのように首藤さんはZOOMに戻ってきて、話を続けます。
首藤さん:
自分一人でやってきたように思われてしまうけど、実はそうではない。
考えることから、人に頼ってきました。
はっぴーの家は、30年ローンを組んで40部屋以上ある建物を借りました。
オープンする1年以上前から、地域の人たちと、どんな場所にしたいかを一緒に話し合うワークショップを開いてきました。
大切にしているのは、出てきた意見を誰が言ったのか。
「◯◯をしたい!」と言った人が何もやらなかったら、モヤモヤする。
そのモヤモヤをつくりたくて、誰が言ったのかを大切にしています。
来る人達の用途は様々で、個室に加えて共用スペースがあり、そこで飲み会をしたり、シェアキッチンのような使い方をしたり、塾やイベントを開いたり。首藤さんたちも今もここで家族で暮らしています。
「ほどよい関係性をデザインする」
例えば、他の施設で断られ続けたクレーマーのようなおばあちゃん。
はっぴーの家なら、ごちゃごちゃしてるし何とかなるんじゃないのか、と紹介されたそうです。
超クレーマーだけどお金がなく、医療行為も必要で大変。そこで、この人自体をハッピーにするというよりは、この人に関わる日常の登場人物を増やすことで、関わる人達のハッピーの総量を増やしていくことを、首藤さんたちは考えます。
そんな「ほどよい関係性をデザインする」ことが、首藤さんたちが取り組んでいること。
「戦略的放置」
首藤さん:
発酵食品って、普通にすぐ食べればいいものを、あえて食べないで置いておきますよね。
問題も同じで、あえて、解決しない。
AさんとBさんが喧嘩しているとして、その場で解決する方法もありますが、そうではない方法もあるかもしれない。
なのであえて長い時間軸で置いてみます。
そうすると、介入せずに自然と解決するかもしれない。
例えば、外国人のアーティストが、芸術祭の準備をはっぴーの家でやっていた時のこと。
首藤さん:
チラシを折り込む作業など、あえて子どもやお年寄りも混ぜてみたら、同じ作業をしながら仲良くなり始めたそうです。
故郷でおばあちゃん孝行をしたかったのに先立たれてしまったアフリカ人が、はっぴーの家でおばあちゃんと仲良くなってました。
はっぴーの家はよくわからない人が集まっているので、アフリカ人も特別扱いされません。
介護の現場はやることがたくさんあり、同じ場所にいれば、「なにかやることはないか」と言いやすいと思います。
「目の前の3人のために仕事をする」
誰かから相談をうけた時の、首藤さんたちのスタンスを話してくださいました。
首藤さん:
自分の専門領域だけで解決できるかどうかを判断する人が多いと感じます
でも例えば友達から「離婚したい」といった相談を受けたら、弁護士でなくても、人を紹介するなど、一歩踏み込んで相談に乗りますよね?
そうすると、その人についての解像度が高くなります。
弁護士を紹介する時に、Googleで調べた人じゃなくて、知人の中からその人に合いそうな人を探そうとする。
そんな関係性の上で、みんなが駆け込む場所になっているので、結果的に、セーフティネットのようになっていると言われることもあります。
「友達としか仕事したくないと思ってる」と言い切る首藤さんは、今回も、「藤本の誘ってもらったか来ている」そうです。
一方で、「藤本くんだけのために、となると狭すぎるから、藤本くんと誰と誰と、と3人を対象に考えると、ちょうどいいくらいになります」と。
これは、第3回で鈴木美央さんが話してくださった「ペルソナをあえて設定しない、そのまちのたくさんの人たちの顔を思い浮かべる」という話にも近いものを感じました。
ペルソナ、と言って架空の人物像を作り込むのではなく、実在する3人。首藤さんの経験上、はっぴーの家だと、全然違うタイプの人が集まるのには3人で充分だそうです。
そしてここまで話をお聞きしていると、ごちゃまぜと言いつつ、そんな現場から生まれたであろうキーワードたちの鋭さや深さにも驚きます。
首藤さん:
はっぴーの家は数人のために始めた場だけど、そこに小さな社会ができています。
そこから得る気づきを抽象化して言葉にし、コンセプトやビジネスに反映しています。
こうして、抽象と具体の往復を繰り返していると思います。
「問題を解決しない」とは
ネガティブ・ケイパビリティ
研究所の発起人である坂本は、首藤さんの話から、自身の中にある前提のようなものが覆された、と話します。
(今回はポカンとした表情が目立った坂本)
坂本:
問題は解決すべきもの、という前提を無意識に持っていました。「放置する」という選択肢を考えたことがなかった。
「解決する」と同等に「放置する」があり、放置によって「解決する」が必要なのかどうかもわからない状態になっていくのかもしれませんね。
問題は解決すべきもの、という前提で回されてきた近代社会だが、それでは行き詰まってきているという状況があると思います。
「ネガティブ・ケイパビリティ」という言葉があり、問題を解決せずに対峙する力のことを指します。問題を解決する力は皆が磨いているが、その逆も必要なのかなと。
首藤さん:
自分たちにとって良い暮らしってなんだろうと問うた結果、他の人が恩恵を受けているという状態が、いい発酵だなと感じます。
自分たちの先輩たちの時代は、満たされていないことが多かったはず。
そして、たくさんの課題を解決して豊かになってきたはずなのに、あいかわらず文句ばかりいう人もいる。
そこに本当の課題がある気がしています。
問題をおもしろがる力
また、はっぴーの家ではいろんなトラブルも起きるそうですが、首藤さんたちはトラブルを新しい何かが生まれる瞬間、ブレイクスルーの瞬間だと思っているそうです。
首藤さん:
なにか問題が起きるかも、というときは、もっとおもしろくなりそうだから待とう、とスタッフに言うことがあります。問題をおもしろがる力こそ、クリエイティブだと思っています。
つい最近、若年性認知症の男性が、大雨警報が出ている中で徘徊に出かけてしまいました。
それを僕たちは、「空気も天気も読まへんおっさんやな!」というノリで、みんなを巻き込んで捜索ゲームにします。捜索の様子はSNSでも公開して、プロセスも楽しみます。
投稿を見た人が「もしかしたら外出先で会うかもな」と思ってくれたらおもしろいですよね。そうすると、その人の日常が少し変わることになる。
薬で抑え込むのではなくて、おもしろがる。
でもそういうことは、日常的な関係性があってのこと、ということも知ってもらえたら。
一方で疑問もある、という首藤さん。
はっぴーの家に来る人はみんな、価値観が覆されたと言うそうです。
実際今回も、坂本は覆されていました。
首藤さん:
しかし最近は、それが幸せなことなのかもよくわからない時があります。
例えば、ずっと同じ醤油で満足していたのに、新商品の醤油がもっと美味しいことを知って、以前の醤油では満足できなくなるってこと、あると思うんです。
知りすぎると不幸せになることもあるかもしれないな。
最近はそんなことも思うことがあります。
一体どうなってるの??首藤さんへの一問一答
いろいろと衝撃的な話が多くて、首藤さんのお話のあとのブレイクアウトルームでは、5分くらい黙ってしまったというグループもあったそうです。そして研究員からは質問がたくさん出てきました。ここからは一問一答でお楽しみください。
Q:事業計画ってどうやって出したんですか?
A4一枚で終わるようなシンプルなビジネスです。
建物があり、部屋があり、住む人がいる。いわゆる、シェアハウスビジネス。
部屋を貸すだけじゃなくて、介護や医療補助が必要な人に、オプションとしてサービスを提供しています。
「介護施設って、お年寄りしかいない。そんなところに住みたいですか??いろんな出会いが起きる介護施設をつくっているんです」
そういって銀行からお金を借りました。でも最初は実績がないから大変でした。銀行は20社まわりました。足を使うタイプです。
Q:行政の支援は受けているんですか?
行政のフレームに従うと動きづらくなることがあります。
例えば子育て支援をしたいという人が、子育て支援課の人として来ると、その課のスキームが入り込んできます。
そうではなくて、まずはいち個人として来てもらい、行政の仕組みが活用できそうならする、という感じです。
Q:そもそも、運営の仕組みはどうなってるんですか?
家賃は5〜6万くらいです。加えて、介護料などのオプション料が発生します。
基本的にシェアハウスでが、オプションをたくさん用意しています。
入居については、仕組み化していません。
入居できるとも書いていなくて、誰かの紹介でしか入れません。
看板もなくて、そこは大事にしているポイントです。
入居者と訪問者の境目もありません。
あくまで暮らしの選択肢の一つとしてやっているので、押し付けがましく営業する気はない。
自分が子育てのためにベストな場所だと思ってつくりましたが、20年後は住みたいとは思わない。
Q:思い込みや枠組みって、どうやったら外せるんですか?
それは本当にその人の考えなのか?を問うたほうがいいです。
大体は、一般論によるものだと思います。
本当はどうしたいのか?を問うことは、実は怖いことなのかもしれません。
それをあえてやってみることが大事かなと。
Q:知りすぎると幸福度が下がる・・?
ダイバーシティの本質は共感ではなくて、共感できない人も一緒にいる状態かなと。
3つ以上のいろんな異分子が混ざると、自分は1/3なのでマイノリティになって、いろんなことがどうでもよくなります。
なので、自分がおもしろいと思うことを他人に押し付けないようにしたいと思っています。
はっぴーの家は関西っぽい雰囲気がもしれないが、地域性を押し付けるつもりはありません。
こういうノリがしんどい人もいますから。
人間、ネガティブなときは選択肢が増えるとしんどいじゃないかなと。
逆にポジティブなときは選択肢が多いほうが楽しい。
なんかしたいな、と思った瞬間に、周りに選択肢が多い状態が幸せなんじゃないかなと。
しかし正解が多い状態は不幸かもしれません。
今日は改めて、しんどいときは依存先、ポジティブなときは選択肢、と思えるコミュニティをつくりたいと思いました。
戦略的放置ならぬ、観察的放置
首藤さんのお友達でもある、発起人の藤本。今回は首藤さんのことをよく知っているということで、聞き役に徹していました。そんな藤本からも気づきの一言。
藤本:
個々の”菌”に対する解像度が高いのだなあ、と改めて思いました。
その菌がどんな状態にあるのか、放置しながらも観察する。
戦略的放置と言っていたが、「観察的放置」かなと。
はっぴーの家には本当にいろんな人がいるが、自分の中の常識を手放し続けてながら、観察している。
そうして、腐敗に見えることを発酵に変えているんですね。
首藤さん:
住んでいる人を見ていると、家族にも社会にも迷惑をかけてきた人もいます。でも、そんな状態のままでもいいと思えること。
自分がいかに駄目であるのか、それをオモテに出すようにしています。
だらしなく生きています。アイツがあんなんだから、自分もこうでいい、と思ってもらえることを大事にしたい。
最後に。ブルーピリオドという漫画がよかったです。
主人公が芸大なんですが、渋谷というテーマで徹底的に詰められるシーンがあります。
そこに発酵のヒントがあると思います。
さていよいよ、前期も残すところ後1回となりました。並行して開かれている「振り返り会」では後期のゲストの案が出され、調整が進んでいます。研究員から推薦されたゲストもいます。どんな顔ぶれになるのか、楽しみです。
いつもご覧いただきありがとうございます。一緒に場を醸し、たのしい対話を生み出していきましょう。