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小説『琴線ノート』第27話「白紙」

鉛筆を持ち白紙のノートの開いたまま
もう何十分も地蔵と化した私は自分の作詞の
才能の無さを痛感していた

全く言葉が出てこない

何かないかと見慣れた部屋を見渡してみても
生後間もない赤ちゃんのようにこれっぽちも
言葉が浮かんでこなかった

作詞をしないと、父が言うように作曲できたところで
どこにも披露できない
新曲ですと言って鼻歌でふんふん歌われても
誰も聞いてもくれないだろう、私だったら聞きたくない

たくさんカバーしてきた曲達の歌詞を
参考にしようと改めて見てみると
使い古された言葉なのにそう感じさせない
心に響くような歌詞になっていて
それがまた私のダメさを感じさせた

悪い癖だと思いつつもパソコンのブラウザに
“作詞 やり方”なんて検索もしてみて
細い糸のようなヒントを掴んだとしても
白紙のノートを前にするとそれは消えていった

作文は得意だったんだけどな
作詞は全然違う

もう二進も三進も行かなくなってベットに
仰向けになった時にふと小川奏多さんのことが浮かんだ

小川さんもデモの歌詞は全部自分で作ってるって言ってたな

そう思い出した途端、藁をも摑む気持ちで
小川さんにメッセージを送った

「お疲れ様です。先日はありがとうございました!

聞きたいんですけど小川さんは作詞ってどうやってますか?
私いま作曲頑張っていてそれに歌詞もつけたいんですけど
全然やり方というか言葉が思いつかなくて…

小川さんはデモで歌詞書いてるっておっしゃてたんで
コツみたいなのがあったら教えてもらえませんか?」

我ながらなんとも雑な質問だけど
それくらい何から手をつけていいか分からなかった

白紙のページが寂しくて早く埋めたいジレンマも通り超え
落書きを始めてしまった頃スマホがブルブルと震えた

「もしもしヒナ太さん?
メッセージで打とうと思ったんだけど長文になりそうで
電話の方が楽だからこっちでもいい?」

なんていい人なんだ、神か

「もちろん大丈夫です!
もうノートの前で唸って2時間目です…」

「なるほど、でも作曲はできたんだね。良いね
僕もまだ作詞の提供作はないから
あまり偉そうなこと言えないんだけど
バンド時代も合わせて量は書いてきたから
ちょっとはアドバイスできると思う」

「ありがとうございます。
設定とか5W1Hとか考えるんですけど全然ピンと
こないし、メロディにも乗らないしで一行も書けません」

「もしかしてアコギとか持たないでやってる?」

「はい、そうです。」

「僕からのアドバイスは歌詞は”歌”の詩だから
物語とか意識しないことだよ。矛盾だらけでOK
だってそもそも乗せられる言葉が少ないからね
言葉で説明なんてしてたら曲なんてすぐ終わっちゃうよ

だからまずはアコギを持ってラララとかじゃなくて
適当に歌ってみるとなんか言葉が出てくることがあるから
その言葉から広げていくのがおすすめだよ

メロに合わせて自然に出てくる言葉って
そのメロディにあった言葉だから歌いやすいはずだよ」

メロディと言葉を別で進めようとしていた私には
目から鱗だった
音楽は“無理だ“と“出来るかも”を行ったり来たりでだ

それから小川さんと軽く近況を混ぜつつ
作詞について話して電話を切った

それまで無慈悲に見えた白紙のノートが
“どうぞ歌詞を書いて“と望んでいるように
見えるくらい、前向きな気持ちになっていた

次回へ続く

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